勇者 謁見
何度か魔物に襲われながらも、おおむね順調に進み、ムスペリオス王都の外れにある飛行場に着陸する。
「待っていたぞ。」
到着と同時に凛とした声が響き渡り、飛行船を降りるとムスペリオスの一人の女性を先頭に騎士がずらっと整列して待機していた。
「アレクシア、貴女が迎えに来てくれるとは思いませんでした。」
「友人の来訪だ。問題ないだろう。」
「手厚い歓迎、感謝します。」
「して、そちらが勇者諸君で宜しいかなーーーーッ。」
「アレクシア、どうかしましたか?」
「すまない、何でもない。ムスペリオスは君達を歓迎しよう。」
5人はアレクシアにうながされて馬車に乗り込む。
「では、改めて自己紹介しよう。私はエリオット・ムスペリオスが第一王女、アレクシア・ルーベンス・ムスペリオスだ。」
アレクシアが握手を求めるように手を伸ばす。
「橘光輝だ。こっちは妹の杏華、友人の一条雫と桃園結依だよろしく。アレクシア王女殿下。」
光輝が代表して全員の紹介をしつつ、握手にも応える。
「これから、ムスぺリオスの国賓として王宮に来てもらう。一休みしてから父上との謁見。その後は基本的に自由だな。疲れていると思うので今日はゆっくり休んでもらって、パーティーは明日行う。タイミングよく、今は多くの貴族が王都に来ている。大変だろうが頑張ってくれ。」
「わかった。」
光輝が簡潔に答える。
「アレクシア、色々と報告しなければならない事があります。どこかで国王様との時間を作ってください。」
「それは、父上との対面の時では駄目なのか?」
「まだ事を大きくしたくないです。できればその後、限られた人達で話がしたいです。」
「わかった。父上に進言してみよう。」
「ありがとうございます。」
馬車が王都に入ると、割れんばかりの歓声と拍手に包まれる。勇者の来訪は国民に広く知らされていたようで、こころよく国民に迎え入れられた。人であふれる大通りをゆっくり進んでいく。
王宮にたどり着き、待合室に案内されてしばらく休憩をする。
「アレクシア王女って~なんか騎士っぽかったね~」
「そうね、冒険者と騎士が多い国みたいだし、王族もそういう人が多いんじゃないのかしら?」
「その通りですよ雫さん。この国はダンジョンで栄えていて、強者を好む傾向があります。貴族は騎士を、平民は冒険者を志す人が多いですね。アレクシアも騎士に憧れて幼いころから鍛錬してまして、騎士の中でも上位に位置しています。自分よりも強い人と結婚すると公言しています。勇者様は、くれぐれも戦わないようにしてください。」
「わかったよ。」
光輝はアリアの言葉にうなずくが、結依と雫は反応が違った。
「雫ちゃん雫ちゃん。これってそういう事だよね~。」
「確かに。面倒事の匂いしかしないわ。」
ヒソヒソと話し、雫はそうなってしまうであろう近い未来に頭を抱える事になった。
「・・・どういう事ですの?」
「この国を出る頃にはわかるわ。」
「1人だけ仲間外れは嫌ですわ。今教えてほしいですわ。」
話しに付いていけない杏華は首を傾げるのであった。
「それにしても~活気のある街だったね~」
「そうね。アルカディア王国と比べて、騒がしい町だったわね。」
「ムスぺリオスはダンジョンを求めて冒険者が多くいます。冒険者は気性が荒い人が多いため、取り締まる騎士も比例して多いのです。」
結依と雫の会話にアリアが答える。
「しかし、騎士が多いとなにかと大変じゃないのか?」
「そうですわ。治安維持にお金がかかりすぎますわね。」
「ダンジョンの素材にかかる税金が周りと比べて高い事と、犯罪がらみの罰則が重いですね。ただ、それを補って余りあるほどの素材が眠ってますので、人が離れていく事はほとんどなく、重罰で治安も悪くなっていないですね。」
「なんかダンジョンでギリギリ保ってるって感じの国ね。」
「そうでも無いですよ。ダンジョン以外の物は平均的な価格ですし、むしろ商人としては他国よりも自由に出来る部分も多くあります。その辺り、人が離れないように上手く調整されているんですよ。」
「なるほど~」
コンコンッ
「失礼します。」
待合室のドアがノックされ、役人が入ってくる。
「準備が整いましたので、移動をお願いします。」
「わかりました。行きましょうか。」
アリアを先頭に役人に付いていき、玉座の間へと案内される。
玉座の間では、家臣や上級貴族が参列して待機していた。
5人が玉座の正面に着いた後、国王が入ってくる。
「面を上げよ。」
国王の声に頭を上げる。玉座の前に国王とその隣に王妃であろう人物が2人、王子と王女が2人づつ控えていた。
「よくぞ参られた、勇者殿。我はムスぺリオス王国第14代国王エリオット・ムスペリオスである。」
「異世界から召喚された勇者、橘光輝です。」
「此度の魔王との戦いは、共に手を取り合い、死力を尽くして戦おうではないか。」
「はい、誠心誠意取り組ませていただく所存です。」
当たり障りのない会話を交わし、国王との謁見は終わった。
謁見終了後、本来なら王宮にある来賓様の別館に案内するようだが、今回はそのまま国王の書斎に案内される。
書斎では、国王と大宰相、第一王子、第一王女の4人が待っていた。
「ここまで人払いをしてくれるとは思いませんでした。」
「なに、我からも内密な話があってな。あまり聞かれると困るのだ。」
「そうでしたか。私の方から話してもよろしいですか?」
「構わん。」
「ではまず、今回アルカディア王国で起きた大進行についてですね----」
アリアは大まかに経緯を話し、本題に入る。
「指揮していた魔物には、首元に正体不明の針が刺さっておりました。針はマジックアイテムで、現在解っている効果は、洗脳と狂化です。」
「つまり、何者かに操られていたという事か?」
「はい、まだマジックアイテムの効果のすべては判明しておりませんが、魔王の混乱に乗じて、魔物を操り大進行を引き起こした者がいるはずです。裏の組織で何か企んでいるものがあるかもしれませんのでご注意ください。」
「忠告感謝する。こちらでも、不穏な動きのある組織は動向を観察することにしよう。こちらからの話だが、まず我が国では今、拳闘大会が開催されている。ちょうど予選が終わったところなのだが、勇者殿は出てみる気はないか?大会としては盛り上がるだろうし、勇者と戦いたい者も多くいるだろう。」
「しかし、もう始まっているのでは?」
「なに、本戦からシード枠で出ればいいさ。元々存在する枠だ。誰も文句は言わないだろう。」
「反対意見が無ければ参加させていただきましょう。」
「はっはっは。では決定だ。ここからが本題だな。実は----」
5人は、ムスぺリオス国王からとんでもない話を聞かされ、協力することになった。




