下調べ
大会について聞きたいことも聞けたので、ギルドを出て腹ごしらえをしてから次はダンジョンについて調べることにした。
ムスペリオスはすべての国の中で、ダンジョン保有数がダントツで世界最大クラスのダンジョンもあるらしい。
取り合えず王都から近く、そこそこ強めのダンジョンに行くことにしよう。大会前の武者修行は定番だろう。例え勝つ気が無くても。
ギルドの受付嬢にBランク相当のダンジョンについて聞く。
「ダメです。」
「何で?」
「ダンジョンのランクはパーティーランクです。個人で挑まれるのであれば、2ランクは下げてください。」
「さすがにDはショボいだろ。」
武者修行どころか金稼ぎにすらならなさそうだ。
「はぁ・・・貴方のような方がダンジョンで命を落とすのです。ダメなものはダメです。」
「それに、パーティーなら居るから大丈夫だ。」
ループスを抱き上げて受付嬢に見せる。
「その子狼が戦力になるのですか?」
受付嬢に凄いジト目で見られる。
「そこらの冒険者より強いぞ。・・・多分。・・・戦わせた事無いけど。」
「ガゥ!」
「ほら、ルーもそう言ってるし問題ないだろ。」
「ガゥ!」
「もぉ!勝手にしてください!」
ヤバイ、受付嬢が結構マジでキレてる。そしてぶっきらぼうに資料を渡される。どうやら行くのは良いみたいだ。この人には無事に帰ってきてから報告と共に謝ろう。
貰った資料を読み、ダンジョンの基礎知識から調べていく。
そもそもダンジョンとは、自然魔力の吹き溜まりに魔物が住み着いた場所で、高濃度の魔力で自然の法則は歪み、希少アイテムの生成や住み着く魔物の進化が頻繁に起こるのが特徴。
吹き溜まりであればどこでも自然に生成し、洞窟が一般的だが、森や館さらには都市一個ダンジョン化した例もある。
ダンジョンの魔物は棲みかを広げるために魔物自ら洞窟を掘ったり、館を拡張したりする。
と言うのが今解っているダンジョンの情報らしい。
魔物は外で見かけるものよりもワンランク強くなるというのがネックだろうか?
普通に戦うと足元救われるってところか。下調べ無しだとキツかったかもしれない。
ムスペリオス王都の近くにあるBランクのダンジョンはかなり広い洞窟で、希少鉱物が取れるらしい。
魔物はゴーレム主体で、属性は地属性がほとんどのようだ。
一通り資料に目を通し、受付嬢に返却する。
「本当に行くおつもりですか?」
「あぁ、明日潜ってみるつもりだ。このダンジョンは俺と相性が良い。まぁ、ヤバくなったら逃げてくるよ。」
「そうですか。ではお気を付けて。」
受付嬢にめちゃくちゃ不機嫌そうに送り出される。少し申し訳ない気持ちになった。
ギルドを出て、少し町をふらついた後、教会に向かう。
取り合えず、ムスペリオスまで来たことをディアに報告しておかなければ。もしかしたらすでに知っているかもしれないが。いや、知っているだろう。
ムスペリオスの教会はアルカディアに負けず劣らずの大きさなのだが、雰囲気が全く違った。
当たり前だが、アルカディアと違ってディアーナの彫刻が無い。代わりに武器を構える神様の彫刻が男女一柱ずつ置かれていた。戦いの神様のだろうか?
物珍しそうに見て回り、フラフラしながら礼拝堂まで向かう。長椅子に腰かけて手を合わせる。
「こんばんは、ディア。」
「・・・ツーン」
ディアが目を合わせてくれない。何で怒ってるんだろう?
ちなみに、なぜ怒っているとわかるのかと言うと、ツーンとか言っているうえ、ディアの頭上に[怒ってます]と書かれている。実に親切だ。
どうやって書いているのだろうか?魔術で出来るのか?
「ディアが何で怒ってるのかわからないんだけど、教えてもらっても良い?」
「・・・ツーン」
オルコット領でディアに会いに行かなかったからか?いやいや、そんなことでは怒らないだろう。もっと何か大きな見落としがあるかもしれない。ダメだ。思い当たる節がどこにもない。
「ディア、俺が考えてること読めると思うんだけど、本当にわからないんだ。謝りたいので教えてください。」
「・・・今回だけですよ。フィーレだけズルいのですよ。ハヤト様は、フィーレにだけお菓子を持っていきました。私には無しです。」
・・・え?それだけ?
「ダメですか?」
「ダメじゃないです。すみませんでした。ムスペリオスで紅茶に合いそうな食べ物を探してくるので、許して下さい。」
怒っている理由の小ささに驚きはしたが、俺は誠心誠意謝った。
「そうですね。私の寛大な心で許してあげます。美味しいものを持ってくるのですよ。」
「はい。善処します。」
時間がある時に買っていく予定だったのだが、約束してしまった以上早いうちに探しに行かなければならなくなった。
「フィーレが私に自慢してくるのですよ。なので、凄い物を頼みますよ。」
「凄い物って言われてもな・・・」
というか、自慢してるんだフィーレ。普段の寡黙な話し方的にどう自慢してるのか気になるな。まぁ、ディアにはしゃべるのかもしれないのだが。
「そうそう、本題に入らせてもらうよ。依頼でオルコット領を通り過ぎて、ムスぺリオス王都まで来たから、アルカディア王国に帰るのは遅くなりそうだ。」
ムスぺリオスは冒険者が多く来る国で、必然的に食事はがっつりしたものが多い。上流階級の食事はわからないが、もしかしたらオシャレな食べ物はほとんどないかもしれない。
少し強引だが、今日会いに来た本題の方に話を変えさせてもらう。
「大丈夫ですよ。それに最近の事も見ていました。武闘大会楽しみにしていますね。」
・・・そこまで見られてたのかよ。
「それは、いまだにやる気になれないんだが。」
「ダメですよ。今回の大会は面白くなりそうなので、フィーレと見る予定なのですよ。応援しますので、頑張るのですよ。」
何で女神様はそんなに娯楽に飢えていらっしゃるのかな?神界には娯楽が無いのか?
「本当に期待しないで。出るからにはやるけど、この大会は目立ったら面倒ごとに巻き込まれる未来しか見えないんだよ。」
「その通りですよ。勝てばハヤト様は勇者として華々しいデビューをするでしょう。」
「・・・最悪じゃねーか。」
「ハヤト様はもっと目立っても良いと思うのですが、勿体無いのですよ。」
「そういう性格なんだよ。それなりにやって、敗退するからな。」
「フフフ。出来ると良いですね。」
「やってみせるさ。」
「はい頑張るのですよ。」
ディアのみせる笑みに疑問を抱きながらも神界を後にした。
設定
閃火(ルカ命名)
超音速の投擲
必要な部分だけを身体強化して、限界を突破した究極の投擲技。
不要なストッパーとなる筋肉に身体強化をしない為、限界を容易に超えて音を置き去りに出来るが、使った後の自身へのダメージが大きい。
投擲されたものは、ハヤトの纏いと空気摩擦で発火し、途中で燃え尽きる。
投げた物が燃え尽きるまでが射程で、軌道上に一直線の炎のラインが残る。




