教会へ報告?
「こんにちは、ハヤト様。」
「今日も降りてきてたんだな。」
教会に着き、マリエルさんの私室でいつも通りの会話を済ませる。
いつも通りにマリエルさんがお茶を出してくれて、ルーを膝に抱いて椅子に腰かける。
「ダメですか?」
「ダメも何も口を出す権利なんてないだろ。神界で仕事とかないのか?」
「私は豊穣の神ですので、自然災害でもない限り力を使うことはありませんよ。あまり肩入れするとバランスが崩れてしまうのですよ。」
「そうか。ちゃんと仕事してるならいいや。」
「ハヤト様には言われたくないですね。」
「確かにそうだな。・・・そんなことより本題だ。」
「デートですね。」
「そっちじゃない。ってか何で知ってんの?」
また覗かれてたのか?
「乙女の感ですよ。そちらがループスちゃんですね。」
「ガゥ!」
ルーを抱き上げ、撫でるディア。乙女?乙女って言ったか?
「そんな事を思うなんて、酷いですよハヤト様。これは、お仕置きが必要ですね。マリエルも聞きなさい。ハヤト様がギルド職員のピンチを颯爽と助け、抱き上げーーもといお姫様だっこで町を駆ける姿は、さながらお芝居の一幕を観ているようでした。職員の方もまんざらではなく、お姫様のようにハヤト様の首に手を回しーーーー」
「ごめんなさい、変なこと考えた事は謝ります。」
脚色されて他人の口から聞くとかどんな拷問だよ。
「そのような事があったのでございますか?」
「えぇ。その後、紆余曲折あって職員からお礼にディナーデートを申し込まれていますよ。」
「もうやめてくれ。マリエルさんも食い付かないで。」
何で謝ったのに続くんだよ。
「むむ、ここからが楽しいところだったのですよ。」
「楽しくないだろ。そんなことより、護衛で遠くに行くことになった。許可が出ればだが、しばらく顔を出せなくなるけど良いか?」
「もともと勇者とは世界を巡るものですよ。私共は問題ありませんよ。」
「はい。少し寂しくはありますが、戻って来た時に顔を出して貰えれば十分でございます。」
「わかった。後は王宮に一報を入れるだけか。」
「ハヤト様、きちんと王宮に寄って状況の報告をするのですよ。」
「はい。」
釘をさされてしまった。俺はそんなに報告をサボりそうか?
「それと私からも話があるのですよ。」
「なんだ?」
「少し待っているのですよ。」
その瞬間、パッと光ってディアが消えた。おそらく神界に行ったのだろう。
いったん神界に戻るような話って何だろうか?かなり重要っぽいな。他の国に行くに当たってお告げをくれるのだろうか?
「マリエルさん、ディアが何しに行ったかわかる?」
「いえ、何も聞かされていないのでございます。」
「そうか、心の準備しといた方がいいかな?」
「どうでしょうか?あまり深刻そうな様子は無かったのでございますが。」
結局、2人で話していても結論は出ないので、関係ない話をして待っていると、ディアがフィーレを連れて戻ってきた。
「待たせたのですよ。」
「ようこそいらっしゃいました、フィーレ様。私はお茶の準備をしてくるのでございます。」
「・・・・・・ありがとう」
マリエルさんは、すぐに立ち上がりパタパタとせわしくお茶の準備に取りかかった。
「こんにちは、フィーレ。」
「・・・・・・こんにちは」
「フィーレを連れてくるほどの話なのか?」
「そうですよ。フィーレが居なければ出来ませんね。」
何かすごい話が来そうだな。
「そうか。よろしく、フィーレ。」
「・・・・・・ん」
「ではハヤト様、マジックバッグを貸すのですよ。」
「・・・?。はい」
なぜマジックバッグなのだろうか?まぁ特に断る理由もないので、ディアに渡す。
「フィーレ、お願いするのですよ。」
「・・・・・・ん」
フィーレはディアからバッグを受け取って、机の上に置き、隣の何もないスペースに手をかざす。すると、モノクルと宝石が先端についたペンのようなものが現れる。
モノクルをかけて、ペンを手に取りバッグの上で躍らせると、光る紋様が浮かび上がる。
これが刻印魔術の陣なのだろうか?
そして、フィーレのモノクル姿が知的で似合ってる。
フィーレは優雅な手つきで陣の一部を消したり、書き加えたりして組み換えていく。
数分後には、一回りほど大きなものが出来上がり、陣を出したときと同じようにペンを振って陣を消した。
「・・・・・・終わり」
「さすがフィーレ、速いですね。」
「何か凄いものを見た気がする。」
ディアと俺が感想を述べると、呆然としていたマリエルさんが復活する。
「凄いなんてものではございません。魔術の女神様が刻印魔術を使うところを見れたのでございますよ。魔術道具の製作に携わる人ならばどんな手を使ってでも見たい光景でございます。」
やっぱり刻印魔術だったんだ。
「確かに本職の人は見たいだろうな。ところで、俺のマジックバッグはどうなったんだ?」
「グレードアップしたのですよ。」
えっへん、といった様子で何故か誇らしげにディアが答えてくる。
しかも詳細を教えてくれないし。ダウングレードしてたら逆にびっくりだろ。
フィーレに助けを求めて視線を送る。
「・・・・・・時間停止」
何そのよく聞くヤツ・・・完全にチートアイテムじゃん。
「なんとなく解ったけど、そんなマジックバッグ持ってる人なんて居るのか?」
「居ないのでございます。在るとすればアーティファクトクラスでございますので、国宝になるのでございます。」
口からこぼれた疑問にマリエルさんが答えてくれる。
「・・・バレたら不味いヤツじゃねーか。」
何でハゲからパクったモンがいきなり国宝になってんだよ。
「やらなければいけなかったのですよ。」
「・・・そんな重大任務があるのか?」
「そうですよ。ハヤト様が遠くへ行ってしまうと、必然的にお茶菓子は日保ちするものになってしまうのですよ。しかし、マジックバッグで時間を止めてしまえばどんな繊細なものでも傷まないのですよ。」
・・・おい。
「職権乱用しまくりじゃねーか。」
「・・・・・・ダメ?」
フィーレは俺を見上げて少し首をかしげる。
おっと、フィーレもそっち側だったか。確かにお茶菓子持ってくるって約束したし、フィーレも甘い物好きなんだな。
「ダメじゃないよ。でもディアに無理矢理やらさせてるわけじゃなくて安心した。それに、せっかく作って貰ったんだから、大切に使うよ。」
「・・・・・・ハヤト、優しい」
「そうでもないだろ。」
「フィーレが嫌がることはしないのですよ。」
「・・・・・・ん、仲良し」
皆、言っておくべき事は言い終わったみたいで、本格的に雑談になり、ディアとマリエルさんが、大いに盛り上がったせいで夕方になってしまった。
こんな時間から王宮に行くのも失礼だと思うので、王宮への連絡は明日に回そう。
そう思い、クラン拠点へと帰路につく。
設定
王国騎士
第一・第二・第三と別枠で教会騎士が存在し、役割が違う。
第一騎士団・役割は近衛兵で、王族及び要人・客人の警護を行う
第二騎士団・役割は憲兵で、町の外に対する警備を行う
第三騎士団・役割は哨兵で、町の中に対する警備を行う
教会騎士・教会自体は戦力を有することは無いので、王国騎士の中からどの騎士団にも属さない教会関連専門の部隊。教会そのものの守護から、教会に来る要人・客人の警護まで、幅広く行う。




