キレる
「ずいぶんと景気の良さそうな話をしてるな。玄関が開いてたし、不用心だぞ。」
「てめぇ!どうしてここに!」
ハゲチームと先ほどの男の4人。
レイラさんは口に布を巻かれて、椅子に縛り付けられている。
殴られたのか顔にまでアザがあり、所々血が滲んでいる。
そんなレイラさんの姿を見て、キレる。
「お前ら、覚悟は出来てんだろうな!?」
抑えていた魔力が膨れ上がり、熱気と殺気を孕んで吹き荒れる。
その様子にハゲ一味は、一瞬後ずさりしながら、武器を手に取り構える。
「武器も持たずに俺達に勝てると思ってるのか?」
「余裕だろ。」
ずかずかと部屋の真ん中まで歩いていく。
「そうか、じゃあ、死ね!」
ハゲの掛け声と共に、扉で隠れていた5人目が後ろから襲い掛かってくる。
右手で逆手に持ったナイフで首筋へ一閃。
ハゲがチラチラと下手くそなアイコンタクトをとっていたし、気配を消しきれていなかったので、奇襲にはなりきらなかった。
半時計回りに振り向きつつ、左手で手首を掴み取り、手の平が上を向くように捻りあげる。
そのまま、さらに半回転し、空いた脇に肩ごと手を差し込み、肘を逆関節にキメる。
ゴキッ、ゴン。
肘をへし折りつつ一本背負いで脳天から床に叩きつける。
受けられることを前提としない投げ技で、叩きつけられた頭は陥没し、ピクリとも動かなくなった。
「策はこれだけか?」
「あぁぁぁぁぁ!!」
子分の1人が、焦ったのか片手剣を振りかぶって突撃してくる。
ガイアスやリリィさんと比べるのも失礼なほど遅い。
剣を振り下ろすよりも早く懐まで入り、フックを一撃。
普通の拳ではなく、中指を少し立てた一本拳。肋骨の1本をピンポイントで狙って砕く。
そのまま腹を滑らせるように振り抜き、もつれ込むように肘を押し込む。
「ガフッ!」
折れた肋骨が肘で押されて肺に突き刺さり、喀血し崩れ落ちる。
「ひっ」
睨まれた1人が、俺を通りすぎ出口へ走って行く。
逃がすわけもなく追いかけ、両腕の上腕を掴み、飛び膝蹴りを放つ。
後頭部に直撃し、前のめりに倒れる。腕を掴まれ、手もつけない状態のまま俺の膝を後頭部に乗せて----
ゴッ
頭を床と膝にサンドイッチにされて倒れ伏す。
「子分は居なくなったぞ。」
ハゲの方を向き、言い放つ。
「てめぇ、雑魚狩りじゃなかったのか!」
「雑魚狩りだろ。今も雑魚狩りしてるし、弱すぎて身体強化すら使わなかったくらいの雑魚だ。」
隼人の舐めた発言にハゲがキレる。
「ぶっ殺す!」
ハゲが一刀両断といた具合に全力で大剣を振り下ろす。
一味の中では一番速いだろうか?しかしリリィさんに比べてはるかに遅い。
斜め右に踏み込みながら、アッパーとフックの間、スマッシュ気味に斜め下から剣を持っている手を殴り付ける。
「ッグ!」
手の甲が砕け、剣の軌道が完全にそれる。
ハゲは左手を握る事が出来なくなり、大剣を持てなくなる。持てないとわかった瞬間に手を離し、拳を握る。
ハゲの上から振り下ろすようなストレート。それに合わせるように俺も右ストレートを放つ。
拳と拳がぶつかる。
崩拳
拳から肩まで衝撃が突き抜ける。ハゲの腕がひしゃげ、力なく垂れ下がる。
「ガァァ!」
ハゲは痛みで叫び、のたうち回る。ハゲの両腕が壊れた所で上段にフィニッシュの廻し蹴り。
「待て!ハヤト!」
当たる寸前で声がかかる。
蹴りは寸止めにとどまり、ハゲは蹴りが当たらなかった安堵なのか集中が切れたのか、虚ろな目をして膝から崩れ落ちる。
「やっときたか、ガイアス。」
どうやらルーはガイアスを連れてきたらしい。
ガイアスには目を向けず、ハゲ一味の最後の1人を見ると、諦めたように両手を挙げていた。
「取りあえず、状況を説明してくれ。」
ガイアスの問いに、レイラさんの拘束を解きながら答える。
「そのハゲは、人拐いだ。だからボコした。以上。レイラさん、立てるか?」
「すみません、腰が抜けてしまって。」
「じゃあそのまま座っててくれ。」
レイラさんに出来るだけ優しく伝えて、ガイアスとの会話に戻る。
「ずいぶんと大雑把だが、大体わかった。しかし、人拐いとなると取引があるはずだ。聞き出さないといけない。ハヤトは騎士を呼んできてくれるか?」
「その必要はありませんよ。」
入り口に騎士の格好をした男女が立っていた。
「私は第三騎士団・騎士団長のマルスです。こちらは補佐官のアリス。さて、ガイアス殿・ハヤト殿、この一件に我々騎士も協力させていただけないでしょうか?」
「俺はそのつもりだったが、ハヤトはどうだ?」
「どうもなにも、俺はレイラさんを見つけた時点で俺のやることは終わった。後は好きにしてくれ。手柄もいらんぞ。」
2人の問いに、雑に答える。
変なことに首を突っ込んでしまったが、依頼でもなければ治安維持の仕事をしているわけでもない。
これ以上はかかわらなくてもいいだろう。
「レイラを助けてくれた事は感謝してるが、最後まで付き合う気はないか?」
「面倒くさい。」
「じゃあ、ここからは依頼だ。マルス殿と協力して人拐いの取引現場を抑えてくれ。ちょうど金欠になった所だろ。」
「何で知ってんだよ。・・・仕方ないな、今回は引き受ける。」
貯金もすっからかんになったし、受けるしかないか。
「では、我々で尋問をしますので、ハヤト殿は装備を整えて来て下さい。」
「わかった。レイラさんを教会に連れてってからギルドで待機してる。あぁ、それとマルスさん達の到着のタイミングが良すぎたんだが、何でだ?」
「通報があったんですよ。近くに居た私達が出てきた訳です。」
「そうか、わかった。」
疑問に思っていたことを聞いてみたが、ありきたりな答えが返ってきた。
こういうのは専門ではないが、おそらく嘘は言っていないだろう。
「ガイアス殿も予定があれば、外されても結構ですよ。」
「俺は手伝おう。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
ガイアスはそのままマルスを手伝うよう為、現場に残るようだ。
「レイラさん、まだ立てなさそうか?」
「すみません。もう少々お待ちください。」
「仕方ないか、しっかりつかまってろよ。ルーもおいで。」
ルーを持ち上げてレイラさんに渡し、ルーごとレイラさんを抱き上げる。俗に言うお姫様抱っこである。
「きゃっ!」
レイラさんがかわいらしい悲鳴を上げるも。バランスを保とうと、すぐに首に手を回してくる。
「じゃあ、落ちないように。」
「は、はい」
「ガゥ」
了解も取れた所で、教会に向けて走り出す。




