捜索
翌朝、起きて日課を済ませたあと、ギルドに向かう。
ループスの名前を正式に登録しなければならない。
「レイラさん居る?」
受付のカウンターにレイラさんの姿がなかったので、一番近くにいた受付嬢に声をかける。
「その・・・副長はまだ来ていないのです。」
「遅番なのか?」
「いえ、いつも通りのはずですが、定時になってもまだ来ておりません。」
「寝坊か、やらなさそうだけど仕方ないな。」
「ありえません。今まで1度も遅刻をしたことがないのです。今日は忙しくならないはずなので、探しに出ている次第です。」
「そうか、何か事件に巻き込まれてて、手を借りたいことがあったら何でも言ってくれ。」
「かしこまりました。」
「今日はこの子の名前を登録しに来たんだ。後は名前だけになってるから、書きかけの書類を持ってきてほしい。」
ループスを抱き上げて、カウンターの上に乗せる。
「探して参りますので、少々お待ちください。」
受付嬢は一礼して下がってき、少しして書類を持って戻ってくる。
「お、お待たせしました。」
戻ってきたが、恐る恐る近づいてくる。
「どうかしたか?」
「そ、その子の種族が・・・フ、フェンリルというのは本当なのでしょうか?」
「かわいいだろ。」
「Sランクの魔物は全部、逢う時は死ぬ時と言われてるほど強いんですよ。」
けっこうな気迫で説明してくる受付嬢。
そんなに前のめりにならなくても良い気がするんだけど・・・
「そうなのか、なんでもいいや。早く名前を登録してくれ。ループスだ。」
「失礼しました。では、ループスで登録させていただきます。」
冷静さを取り戻し、普通の対応に戻り、事務的に登録を済ませてくれる。
やることも終わり、町をふらついて帰ろうかとしたところで、ギルドに職員が入ってきた。
「宿舎にも居ませんでした。」
「そうですか、やはり事件なのでしょうか?ギルド長に報告をお願いします。」
おそらくレイラさんの話だろう。
「探すの手伝うよ。ついでにガイアスに俺が手伝うって報告してきてくれ。」
「あなたは?」
後から来たギルド職員が聞き返してくる。
「隼人だ、普段レイラさんが担当してくれている。」
「わかりました。すぐに伝えてきます。」
職員は駆け足で奥へ向かう。
ループスとじゃれながら戻ってくるのを待つ。
しばらくして、職員はガイアスを連れて戻ってきた。
「ハヤトが手伝ってくれるのか?」
「あぁ、邪魔か?」
「まだ何か起きてるって決まったわけじゃないんだが、直感スキルも訴えて来てるし仕方ないか。ハヤトに指名依頼だ、レイラを見つけてくれ。」
「そんなのは要らん。レイラさんには世話になってるし、依頼なんかなくても勝手にやる。」
「策はあるのか?」
ガイアスの問いに、楽勝といった表情で答えてやる。
「ルー、昨日首輪をくれたお姉さんを覚えてるか?」
「ガゥ!」
頼られてやる気満々な声をあげるルー。
「その人の匂いを追える?」
「クゥゥン。」
あれ?何かショボくれたんですけど・・・
出来ないっぽいな。
「ハヤト、フェンリルを犬扱いするなよ。」
ガイアスからツッコミが入る。
「ダメだったか。望み薄な第二案をやる事にするよ。先による所があるから行ってくる。何かあれば連絡するから宜しく。」
ルーを肩に乗せてギルドを飛び出し、教会に向かう。
教会の礼拝堂まで来て、使えそうな魔術を教えてもらうためにフィーレに祈る。
視界が真っ白な空間に切り替わり、フィーレが姿を見せる。
「おはよう、フィーレ。」
「・・・・・・ん・・・どうしたの?」
「人を探す魔術があったら教えてほしいんだ。実は----」
今までの流れを説明し、使えるものがあるかを聞いてみる。
「・・・・・・これ」
フィーレが手を伸ばし、手のひらを上に向けて開くと、一冊の本が現れる。
本に書いてある魔術の名前は捜索。ご都合主義も良いところだな。
「今にぴったりな魔術だ。」
「・・・物を探す魔術・・・人には・・・むかない」
「そうか、でも使える事は使えるんだろ?」
「・・・・・・ん・・・でも・・・期待しない方が・・・いい」
「可能性があるならやってみるよ。」
「・・・・・・わかった」
捜索を使うコツを教えてもらいながら少し練習する。
フィーレは親身に魔術を教えてくれるのだが、スゴく無防備に密着してくるので、色々と危険である。
最も魔術の神様に直接教えてもらいにくる人はおそらく1人しかいないのだが。
ある程度形になり、時間もないので練習を切り上げる。
「ありがとう、助かった。」
「・・・・・・構わない」
「今度、何かお礼をさせてくれ。」
「・・・・・・じゃあ・・・お茶菓子・・・また・・・欲しい」
「わかった。美味しいもの見つけたら持ってくる。」
女神様ってのは皆、お茶するのが好きなのか?
「・・・・・・ん」
「じゃあ、行ってくる。」
「・・・・・・ん・・・頑張って」
「あぁ。」
光に包まれて、教会にもどってくる。
隣にいるルーを連れてそとに出て、早速捜索を使ってみる。
「捜索」
わかる範囲でヒットした人物は10人。
王宮に居る人と町の外に居る人を一旦後回しにして、町中の反応に集中する。
「虱潰しに行くしかないか。」
独り呟き動き始める。
近くまで行って捜索、近くまで行って捜索を繰り返して5人目、家の中で窓からも見れない場所に居る人に当たる。
「・・・本当に使いづらいな。」
ここも一旦保留にしようとした時、ルーが反応する。
「ここに居るのか?」
「クゥゥン」
ループスが肯定するように鳴く。
「ルー、ギルドに行って職員を連れてきてくれ。」
「ガゥ!」
ルーは自信満々に吠えてギルドの方へと駆けていく。
取りあえず人の出入りを見ようと、玄関を見張れる場所を探していると、後ろから声がかかる。
「あらぁん。ハヤトじゃなぁい。」
ミレディがクネクネしながらこっちに駆け寄ってくる。
キモい
「こんな所でなにしてんだ?」
「買い物の帰りよぉん。良い生地でしょぉん。」
「そうか、布の事は良く解らん。俺は忙しいからまた今度な。」
「そぉねぇ、お店で待ってるわぁん。たっぷり愛を込めてその服を直してあ・げ・る。」
「込めるのは技術だけにしろ。愛なんかいらん。」
「ハヤトのい・け・ず。忙しそうだからあてぃしは行くわねぇん。お仕事頑張ってねぇん。」
鈍い音がしそうなウインクをして去っていくミレディ。
思わず身構えて、回避行動をとってしまった。
ウインクの直線上に居たらダメージを受けそうな気がしたんだ。
不可抗力だ、仕方ない。
気を取り直し、出入口が見えて身を隠せる所に移動し、張り込みをする。
しばらくして、男が2人が中に入っていく。
1人は見たことがあった。ハゲの取り巻きに居たはずだ。もう一人は見た事がない。
「これは本格的に事件か?」
完全に事件の匂いが漂ってきて、真面目な顔つきになる。
気配を消し、魔力を抑えて、ゆっくりと扉に近づき、中の音を聴こうと耳を近づけて、聴覚を強化する。
「すぐそばに人はいないな。」
思いきってドアノブを捻る。鍵はかかっておらず、扉はすんなり開いた。
「不用心だな。」
ゆっくりと警戒しつつ中に踏み入れた。入ってすぐの部屋には誰もおらず、奥の部屋からかすかに声が聞こえる。
そちらの扉に近づき、また耳を近づけて聴覚を強化し中の音を聞く。
「・・・・つ、サブリーダーだろ。」
「今まで、鬱陶しくてな。邪魔だからついでに売り飛ばそう。」
「ハーフエルフだ、高く売れるだろ」
「そおっすよ。変態貴族の慰みものとして上玉っす。」
「・・・・・・・」
レイラさんの話だろうか?ハーフエルフ?
話の所々に引っ掛かる部分があるが、人身売買の話で間違いないだろう。
最近の奴らの羽振りの良さはこれが原因だな。どこかで人身売買の取引先を見つけたのだろう。
ギルド職員の応援を待つ事もなく、扉を開けて中に入っていく。




