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裏方の勇者  作者: ゆき
召喚編
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報告

肩の痛みもほとんど治まり、休憩を止めて動き出し、狼の子供を抱えて洞窟から出る。

どうやら、優勢に事が進んでいるようで、森の中でも戦闘音が響いている。

人にも魔物にも見つからないように、出来るだけ気配のない所を進み森を抜け、戦場を迂回するように拠点を目指す。

無事拠点にたどり着き、恐らく物資関係の場所で働いているであろうルカを探す。


「いた」


壊れた時用の臨時の装備品を渡しているルカを発見し近づく。


「あっ、ハヤトさん、どうかしました----か?」


俺が抱いている狼をみて一瞬止まる。


「ハヤトさん、その子どうしたんですか?」

「さっき拾った。」


へ?といった気の抜けた表情をするルカ。


「そ、その狼の種族をご存知ですか?」

「いや?でかい狼だろ。」

「でかいって、親が居たんですか!?」


驚愕し身構えるルカと、不安そうに見つめて顔をなめてくる狼の子供。大丈夫と言って頭を優しくなでてやる。


「あぁ、やりあってこの子を託された。戦場に戻るから預ってくれる場所ないか?」

「詫されたって・・・さすがハヤトさんですね。でも、その子はさすがに無理ですよ。」


恐る恐る近づいてきて、周りに聞こえないように教えてくれる


「その子、フェンリルです。Sランクの魔物ですよ。」

「マジか。どうりで滅茶苦茶強いわけだ。」

「親はどうしたんですか?」

「死んだよ。後で運んでほしくてルカにお願いに来たんだ。」

「倒したのですか!?運ぶのは構いません。それと先ほど、今回の大進行の親玉を討伐したと連絡がありましたので、今は残党狩りになっているはずです。ハヤトさんもフェンリルと戦ってケガをしているようなので、休んでいてください。」

「ちょっと用事があるから、済んだら休むことにするよ。それで、誰が親玉をやったかわかるか?」

「勇者様だって聞いてますよ。もちろん騎士のフォローがあっての討伐みたいですけど。ちなみに親玉はブラッドオーガの特殊個体だったそうですね。子分にゴブリンキングが居て、そっちはうちのリーダーが倒したらしいです。」

「オーガがゴブリンまで従えてたのか?」

「はい、赤黒いオーガで通常よりも黒くて、角が長かったらしいです。」


ってことはボスクラスが2体も居たってことか。

結果的には、騎士に出て来てもらえて良かったってところだな。


「成る程、分かった。それと、この子を飼いたいんだけど、そういう事って出来るのか?」


もしダメだったら大変だな。それ以前にSランクの魔物って大騒ぎだろ。


「大丈夫ですよ。ハヤトさんになついているみたいですし、ギルドで従魔登録の申請をすれば連れて歩けます。」

「ありがとう。レイラさんに相談してみるよ。」

「ハヤトさん、その子を少し撫でても良いですか?」

「大丈夫だと思う。」


ルカはゆっくりと近づいてきてそっと頭を撫でる。


「クゥゥン」


フェンリルは気持ち良さそうに鳴き、その表情を見たルカは、テンションを上げて撫で回す。


「この子すごく可愛いですね!」

「そうだな。ちょっと預かっててくれ。さっき言った用事で戦場に戻らないといけないんだが、さすがに連れていけない。」

「でも、もう終わりですよ?親玉を失って魔物は森へ撤退し始めていますし、日が落ち始めています。今日は拠点で休んで、明日になってから冒険者で本格的な森の調査と残党狩り、夜には町へ帰る手はずになっています。」

「明日だと魔物は遠くまで逃げてるだろ。」

「夜の森にわざわざ入って行くわけにもいかないので、仕方ないですよ。」

「それもそうか。明日に回すか。」


日が落ち、生き残った者は全員拠点へと帰ってきた。

拠点では、大進行を止める事が出来た事を喜ぶ人、メンバーが死に涙を流す人など、今回の大進行に対する様々な感情で溢れかえった。

夜も更け、拠点を守っていた騎士達が夜間警備までしてくれたので、拠点でゆっくり休む事が出来た。


翌朝、光輝を探すも見つからず、森の調査に連れていかれた。

騎士達は、別行動で拠点の片付けと、戦死した人達の送迎で一足先に王都へと戻っていくらしい。

調査の途中でルカと抜け出し、フェンリルを回収してもらう。

何事もなく調査は終わり、冒険者達も夕方には王都へと帰還した。

戦死した人達を弔い、この日もまたお祭り騒ぎとなった。

戦死ならまだしも、行方不明者が出ているのは若干気にかかるが、誰も深くは考えず戦場の事後処理で捜索しようという結論に至った。

そんな事よりも、生還を祝う方が重要である。


騎士も含めて王都のあちこちで飲み会が開かれる。やはり一番騒いでいるもは冒険者ギルドなのだが、今回は少し違った。

勇者パーティーが参戦したのである。主に女性陣が黄色い歓声を上げて光輝を取り囲み、男性陣は、雫、結衣、杏華にアピールしては玉砕していった。

俺はケイトさん達に捕まり、途中からどこへ行っていたのかと根掘り葉掘り聞かれた。もちろんほとんどはぐらかした。


途中ギルドに来たパトリックを見つけて呼び止める。光輝も来ていることだし、針の話をしよう。

レイラさんに個室を用意してもらって、皆を集める。光輝を引っ張って来るのは苦労した。集まってた女性陣に殺されそうなくらい睨まれた。

”安らぎの風”からケイトさん・”竜の息吹”からパトリック、リリィさん、ルカ・勇者パーティーから光輝・ギルドからガイアス、レイラさんそして俺とフェンリルの8人と1匹でテーブルを囲み、挨拶をする。

そこで意外な事実が発覚した。なんとパトリックのギルドランクがSだったのだ。

リリィさんの上にいるから考えればわかる話なのだが、教えてもらってなかったので驚いた。

こんな変態野郎なのに・・・変態野郎なのに・・・


「集まってもらったのは、少し真面目な話があるからだ。」


気を取り直して針を見つけた事の顛末を話し、実物をテーブルに置く。

針が何なのか全くわからないので、今回の大進行でほかに同じ物が無かったかを知りたかったのだが、誰も見ていないようだった。

親玉に付いていそうな気がしたので、後日ギルドで調べてもらい、現物は光輝に渡して王宮で調べてもらう事になった。

フェンリルの件も黙っておくことに決まった。主に俺の希望なのだが。

わざわざ終わった事で、町を混乱させる必要もないだろう。という理由で押し切った。


真面目な話が終わり、料理を持って来てもらい、和気あいあいと雑談が始まる。

やっぱり気になるのは、俺の隣にいるフェンリルの事だった。光輝以外は見ればフェンリルだとわかるようで、あった瞬間にみんな飛びのいて身構えたが、その5分後には笑顔で撫でまわしていた。

そんな話をしていると、パトリックが爆弾を落とす。


「ハヤトくん、君が異世界から来た5人目だったんだね。」


その発言に、知らなかった人達が驚きの表情を浮かべる。


「やっぱりか。ギルド長と副長は知ってたみたいだね。」

「はっはっは。隼人、ずいぶんとボロを出してたみたいだね。」


あ、コノヤロウさらっとばらしやがった。

1人ツボに入って大笑いしてるし・・・


「パトリックはどのあたりで気づいたんだ?」

「この会議は決定的だよ。」

「だろうな、それ以上に必要な話だったし問題ないだろ。」

「なりふり構わない効率の良さが、隼人らしいね。僕のところに謝罪にきたのもわざとで、表向きは謝罪だったけど、実際は僕に発破を掛けに来たんだろ。騎士の人達には、謝罪があったからと言って不満を押し留めておいたけどね。」

「よくご存じで・・・」

「君の事は信用してるからね、勇者様。」


さらに爆弾を投下してくる光輝、こいつマジで何考えてんだ?


「おい!」

「これで君も逃げられなくなったね。真面目に働いてもらうよ。」

「・・・」


その会話にまたも、知らなかった人達が驚きの表情を浮かべるが、無視して強引に話を逸らす。


「それはそうと、パトリックの魔術はすごかったな。辺り一帯凍ってたぞ。」

「超級魔術のブライニクルだね、霧に触れたものを凍らせる術だ。君も人の事言えないだろ、炎の竜巻には圧倒されたよ。」

「火災旋風だ。俺は炎を乗せただけで、ほとんどケイトさんの手柄だな。」

「そんなわけないだろう!私こそストームカッターを出しただけだ。」

面倒臭そうなので、ケイトさんに手柄を上げるも、すぐさま本人から否定される。

「光輝のは上級魔術か?」

「あぁ、光の雨を降らせる上級魔術だよ。でも、皆にはかなわなかったみたいだね。いっそ隼人が勇者をやれば良いんじゃないのかい?」

「嫌だね。」

「皆の知らないところで大物を倒す実力者なのにかい?」

「それはお前が依頼してきたからだろ。重要な話も終わった事だし、そんな話をするなら解散にしよう。」


俺は強引に話を切り上げ、席を立ちあがり、フェンリルを抱えてけだるそうに歩き始める。


「悪いね、君がやりたくない事は知っているんだけど、そうもいかない状況なんだ。」


出口半ばまで進んだところで、光輝から声をかけられる。


「わかってるよ。」

「それで、いつこっちに戻ってくるんだい?」

「おそらく、俺が勇者パーティーに入る事は無い。」

「理由は・・・聞かない方がよさそうだね。」

「助かる。」

「皆には自分で伝えてくれよ。」

「わかった。今から行ってくる。雫には説教されるだろうし、さっさと終わらせよう。」


・・・はぁ、気が重い・・・

第三ラウンドの始まりである。

どんどん敵が強くなりやがる・・・インフレバトルめ・・・

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