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裏方の勇者  作者: ゆき
召喚編
41/186

第二ラウンド

黒い狼との戦闘が始まる。

狼はこちらへと一気に駆け出し、跳びつきざまに前足でのひっかきと噛み付き、それを斜め前に前転しながら回避する。

すれ違いざまに、ファイヤーバレットを連射するも、華麗にすべて躱された。

接近してわかったが、体高は2mちょっとだろうか?体長も4mほどありそうだ。

速度、威力共に今までの魔物とは比べ物にならないほど強い。

噛まれたらただでは済まないだろう。


ファイヤーボールで牽制を入れつつ、こちらからも近づいて攻撃する。

バックステップで躱されるが、俺はさらに加速して距離を詰め、着地の瞬間を狙い、渾身の右フック。

狼は頭を振って拳をかすらせがらも避け、その場でターンして尻尾で攻撃してくる。

回避が間に合わず、両手でブロックして尻尾を受ける。

後方に跳んでダメージをやわらげながら弾かれて距離をとるが、狼は逃がすまいと追撃してくる。

フックをするかのように、頭を振り、横から胴への噛み付き。

それをジャンプで避け、頭を飛び越えて真上から脳天めがけて足を振り下ろす。

当たりはするものの、クリーンヒットとはいかず、衝撃を逃がされる。

お互いに距離を取り、にらみ合いとなる。


視線を反らさずに、ゆっくりと腰を落として地面に手を付く、ロケットスタートの体勢をとり、足の裏から一気に炎を噴射し狼の側面に到達する。

空気抵抗と逆噴射で速度を落としつつ90度反転、さらに加速して狼の横っ腹に渾身のストレートを放つ。

狼は、一瞬驚くものの、身体をバネの様にしならせてパンチの威力を殺し、首をこちらに向けて口を開く。

この位置ならば噛みつかれないと思い、さらに拳を押し込むが、狼の開いた口から火炎放射のように火を吹いてきた。


「はぁ?」


とっさに身体を屈めて狼の下を潜って反対側に転がりながら回避する。


「熱いな!このやろう!」


たまらず暴言が漏れる。

直撃はなんとか間逃れたが、炎がかすった部分の服は焦げ、恐らく火傷もしているだろう。

俺の火炎耐性を越えてダメージを与えてくる威力と温度、光輝も戦場に出てこられると不味いと言っていた意味がわかるな。

そんなことを考えていると、狼は目つきを変え、うなり声を上げて周囲にいくつもの炎の玉を作り出す。


「口からだけじゃないのかよ。」

「グオォォォ!!」


吠えると共に、炎の玉が一斉に飛んでくる。

こちらもファイヤーボールを連射して炎の玉を迎撃するが、一発目が衝突した瞬間、爆発が起きる。


「ファイヤーボールじゃないのかよ!」


最初の数発はファイヤーボールとぶつかって爆発し、炎と熱波を撒き散らす。

その後に飛んできたモノは回避してやり過ごす。

後方で着弾した炎の玉は、爆発し火柱を上げて熱い風を届けてくる。


「火属性なら魔術はほとんど効かないか。有効なのは接近戦と爆風でのダメージくらいか?」


呟きながら拳を構える。

狼は炎の玉を先行させながらの突進をして来る。

先に飛来する炎の玉を躱す、そして動いた先への噛み付き攻撃といったコンビネーション技まで使ってきた。

噛み付きも体勢を崩しながらなんとか躱し、前足を壊す気で崩拳を撃つ。

崩れた体制で無理に使ったので、ダメージがあるかは分からないが、ヒビくらいはいっててほしい。

転がりながら距離を取り。おまけに腹の下にエクスプロージョンを放つ。

狼は、下からの魔術の気配を察知したのか、痛みを我慢するような表情でこちらへと跳んで来る。

爆風に乗り、体勢を崩しながらも俺へと距離を詰め、噛み付いてくる。


「やべ・・・」


上半身を反らして回避するも、丁度立ち上がったタイミングで、エクスプロージョンで加速した噛み付きを完全には避けきれなかった。


「ッツ!」


頭は間逃れたが、肩口を噛まれる。

狼も痛みで力が入らないのか、全力を出し切れていない事もあって、牙はミスリルの服を半分ほど貫通したところで止まった。

一瞬の硬直、俺は噛み千切られなかったことに安堵し、狼の頭を抱くように手を回す。

側頭部から狼の頭に鎧通しを放つ。

鎧通しの衝撃が牙から俺の方まで伝わってくる。

かなりの激痛が走ったが、今度こそ衝撃をいなされず、直撃させる事が出来た。

狼は、力を緩めて崩れ落ちる。

その際、腕に何かが引っ掛かり、キンッと小さい音を立てて針のような物が狼の横に転がった。

針を拾いあげて見てみるが、何かはよくわからなかった。


「グルルルルゥゥ」


狼を見ると、まだ息があるようで、弱々しくもゆっくりとした動きで立ち上がる。

その目に戦いの意思は無く、俺の持っている針を睨みつけ、俺に顔を付いて来いといった表情で見つめた後、最初に立っていた洞窟の方へと歩いていく。

後を追って洞窟の中に入っていく。


「クゥゥゥン」


別の声が聞こえてくる。


「子供か?」

「グルルルルゥゥ」


子供の近くで寝っ転がりひとしきり子供をなめた後、こっちを見て尻尾を振ってくる。

俺も近づき子供をなでる。

なんとなく狼の言いたいことはわかるのだが・・・

回復ポーションを取り出し、一口飲んで見せた後、狼の口の中に突っ込む。

魔物に効くかはわからないが、無いよりはましだろう。


「面倒事は嫌いなんだ。さっきの針が原因なんだったら、もう暴れる心配もないだろ。自分で育てろ。」

「グルルルルゥゥ」


言葉を理解できるのか首を振って弱々しく鳴く。


「クゥゥンクゥゥゥン」


子供も状況を理解しているのか親に近づき何度も鳴いている。

狼は目を閉じゆっくりと首を地面に着けて、笑ったような表情で息を引き取る。

子供は親を何度もなめて、鳴いていた。

俺は狼のそばで正座し、目を閉じて手を合わせた。

酒でもあれば供えられたんだが、無いものは仕方ない。

子供はひとしきり鳴いた後、座っている俺の足にすり寄ってきた。


「死んだ奴との約束だ。一緒に来るか?」

「クゥゥゥン」

「そうか・・・」


何かを決意したかのような瞳に、笑顔で応え頭を撫でてやる。

気を抜いたら急に肩口が痛くなってきたので、回復ポーションを取り出して一気にあおる。


「少し休憩したら行くか・・・」


俺は足を崩して、子供を抱えながら一休みすることにした。

決してサボりではない、サボりではないんだ。



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