開戦
翌朝、いつも通りに目を覚まし、訓練場で軽く体を動かす。
出発までは少し時間があるので、そのままギルドの酒場で朝食を注文し、席につく。
嵐の前の静けさだろうか、全く騒がしくないギルドで、周りをぼんやりと眺めながら朝食をとる。
レイラさんもいつの間にか出勤してきていて、すでに働き始めていた。
しばらくして、ギルド職員達が未だに雑魚寝している冒険者達を叩き起こし始める。
遅刻されたら困るからだろうが、良いサービスだな。
その後、朝食を配給し始めた。
これもスゴいサービスかと思ったが、キッチリ代金は貰っていた。
慈善事業じゃないんだし当たり前か。
酒場側も混雑し始めたので、席を立ちレイラさんの居る受付カウンターの方へ行く。
「おはよう、レイラさん。」
「おはようございます、ハヤト様。早起きなのですね。」
「あー・・・実はいつもこれくらいなんだ。人混みが嫌いだから朝一のギルドには来ないけど・・・」
「そうだったのですか。勘違いしてました、すみません。」
レイラさんと他愛もない会話をして時間を潰し、少し早めに門に向かうことにした。
ケイトさん達”安らぎの風”はギルドに来ておらず、恐らく直接門の方に向かうのだろう。開戦前に会って最終打ち合わせをしておきたい。
「ハヤト様、どうかお気をつけて。」
ギルドを出ようと後ろを振り向いた時、少し不安そうなレイラさんから声がかかる。
「俺は面倒な事が嫌いだし、やりたくない。だから、すぐに終わらせて帰ってくるよ。」
「はい。」
門に着くと、既にちらほらと冒険者が集まり始めていた。
”安らぎの風”はまだ来ていないようだった。
「おはようございます、ハヤトさん。」
俺を見つけたルカが、走って近づいてきた。
「おはよう。」
「昨日は戻ってこられませんでしたね。」
「あぁ、部外者に聞かれたくないような話も有っただろうし、ギルドに泊まらせてもらった。」
「そうだったんですか。そんな気遣いは必要なかったんですけどね。」
「そうか?重要な作戦会議は聞かれたくないもんだろ。」
「ハヤトさんはみんなの実力を知ってるじゃないですか。」
「隠してる事の10や20はあるだろ。」
「多いですよ・・・そうだ、何か荷物はありますか?僕が持って行きますよ。」
「悪いな、でも大丈夫だ。大荷物は持ってなくてね。」
「わかりました。僕は今回運搬の仕事をしてるので、何かあったら言ってくださいね。じゃあほかの人にも聞いて回ってきます。」
「何かあったら頼むよ。」
ルカは大きく手を振って走って行ってしまった。元気だな。
話し相手もいなくなってしまったのでまた、”安らぎの風”探しを再会する。
どうやらルカと話している時に着いていたようで、すぐに見つかった。
近づき声をかける。
「おはよう」
「おはよう、ハヤト。さっきのは”竜の息吹”の確か名前は・・・ルカだったか?」
「あぁ、空間魔術の使い手で、荷物の運搬をやってるらしい。移動に邪魔なもんがあったら頼むと良い。」
「そうか。昨日も思ったんだが、”竜の息吹”とは仲がいいのか?」
「最近は、よく一緒にいるな。」
「クランに入るのか?」
「いや、リリィさんに誘われてたんだが、断った。」
「ちょっと待て!リリィさんに誘われただと!?」
突然ジャックが噛み付いてくる。
「ジャック!すまんな。ジャックはリリィのファンなんだ。ところで、断った理由を聞いてもいいか?」
「集団行動が苦手なだけだ。どこかに入って規則に縛られたくない。」
「そうか。じゃあパーティーもあまりよくないな。この依頼が終わったら誘おうかと思っていてんだが。」
「気持ちだけ受け取っておく。」
「そうだ、何か言いたいことがあってきたんじゃないのか?」
「コンディションを聞きたかっただけだ。後は、魔術が暴走しそうになったら勝手に消してくれて良いって事くらいか。」
「コンディションは良好だ。ついでの方が重要じゃないか。やはり暴走しやすいのか?」
「おそらくだけど相乗効果で制御が難しくなるんじゃないかと思ってる。コントロール不能になるくらいなら、無理やりにでも消してもらった方が良い。」
「わかった。きつくなったらそうさせてもらう。」
話がひと段落したところで、集合時間になったようだ。
騎士も到着し、戦場となる森の手前まで移動を開始する。
遠目にだが、光輝たちの姿も見て取れた。新品のように光り輝く、。かなり良い装備をしている。
俺は必死こいて集めた装備に対して、向こうは王宮の倉庫にしまってある、最高クラスの装備を貰ったのだろう。
このチート野郎共め。
見つからないように、人を盾にしながら歩き始める。
移動は休憩をはさみつつも、まったく問題もなく、進んでいく。
ジャックに先ほどのリリィさんの話をやたらと聞かれた。暑苦しい。
昼頃には、戦場前の拠点に着きまた休憩となる。
この作戦が決定してから作業を進めていたのだろうか?既に拠点の設営は完了していて、着いたとたんに休憩する事が出来た。
斥候が何人も大進行の様子をチェックしているようで、はぐれの魔物が出ない限りは安全らしい。
しかし、これからここが戦場になるというだけあって、空気は張りつめ、ピリピリとしていた。
皆、気を抜かず装備の確認や戦闘隊形の最終打ち合わせをしてその時を待つ。
回復用のポーションや、魔力補充のポーションを受け取り、フラフラと散歩していると、ハゲのパーティーを発見した。
ここで絡まれることは無いだろうが、一々挨拶をする必要もないので、気づかれないうちにさっと通り過ぎる。
「良いかお前ら!大仕事が始まる。”竜の息吹”側に付いてしまったのは誤算だったが、可能な限りやるぞ!」
おぉ、どうやらハゲは反対側のグループらしい。
レイラさん辺りが気をきかせてくれたのだろうか?後でお礼を言っておこう。
1人の斥候が戻ってきて指揮官に耳打ちする。
どうやらだいぶ近づいて来ているらしい。
騎士の号令によって、冒険者を含めた全員がきれいに整列し、魔物の大群が来るのを待つ。
森の方からわずかに地響きがして来る。
だんだんと音が大きくなり、全員に緊張が走る。
森から魔物の姿が見え始め、一瞬にして森を隠すほどの大群が現れる。
まだ距離があるので、攻撃の合図は無い。
後ろで悲鳴に近いおびえる様な声がするが無視して魔物の大群を見続ける。
先頭のゴブリンとの距離が50mほどまで迫ったころだろうか、1発のファイヤーボールが空に打ち上げられ、空中で音を立てて破裂すると共に号令がかかる。
「撃てぇぇぇえぇえぇぇ!!」
魔物1万ちょっとと、騎士・冒険者連合の戦いが始まった。




