露店
勇者のお披露目式の日が近づくにつれて王都は人で賑わい、喧騒を増していく。
出入り口の門は長蛇の列ができて、クエストで外に出たら戻ってくるのにかなり時間がかかりそうだ。
しばらくは外に出ることも出来ないだろう。
町の中では、広場で行商人が露店を開き、各地の特産品を販売し、料理屋も便乗して屋台を出し、お祭りのようになっていた。
クランでの訓練は休みにして露店巡りをすることにした。
「だから何で皆付いてくんだよ。」
「うるせぇな、別に良いだろ!」
「そうよ、いかがわしい事をするわけでもないんでしょ!」
討伐に行ったときから思ってたけど、リンカさんは、アレンと一緒にいたいだけじゃないのか?
「門があの状態では、王都の外に出るわけにもいかないからな。」
「だからって俺に付いてこんでも良いだろ。」
「良いじゃないですか。大人数も楽しいですよね。」
「・・・うん・・・楽しい・・・です」
チームサラマンダーの皆が付いてきた。いや、それだけなら良かったんだが・・・
「僕も皆と友好を深めたくてね。」
変態、もといクランのリーダーパトリックまで付いてきてしまった。
「お前は帰れ。森の調査も終わってないんだろ。」
「それは出来ないな、ハヤトくん。抜け駆けは許さないよ。」
何故そうなるのか?
「2人はスゴく仲が良いですね。」
パトリックの知られてはいけない性癖の話なのでコソコソと話してたらルカからそんなことを言われる。
パトリックは、全くお近づきになりたくないタイプの人間なんだけど・・・
「ハヤトくんは、同士であり好敵手でもあるからね。」
「リーダーにそこまで認められるなんて、やっぱりハヤトさんはスゴく強いんですね。」
「基本コイツの勘違いだ。」
「強情だな。確かにハヤトくんは強いけど、僕の方が一歩上を行っているだろう。」
「そんなに僅差なんですか?」
「かなり強敵でね、油断していると持って行かれそうなんだ。」
「そうなんですか。本当にライバルって感じなんですね。」
何で微妙に会話が成立できてるんだ?
「ところでルカ、小腹がすいたんだが、この辺りの出店で美味いものはどれだ?」
あんまりこの会話を引き延ばすとボロが出そうだから話を逸らしてやる。
「うーん、あれなんてどうですか?コカトリスの串焼きです。脂が少ないのに肉質は柔らかくて絶品ですよ。それとアイアンクラブのカニ脚1本焼きなんてのもおいしいですよ。」
「アイアンクラブって何だ?」
「この辺にはいない魔物ですね。金属の殻を持っていて、食べる金属で強さが変わる蟹ですね。大体体長3m程度でしょうか?外殻が硬ければ硬いほど身の甘味がますらしいです。市場に流通するのはほとんどが銅や鉄のアイアンクラブですね。」
でかいなと思い屋台をのぞいてみると、本当に1mちょいの足を丸々1本炭火で焼いていた。
「でか!美味そうだな。ちょっと買ってくる。」
屋台に突撃していく。アイアンクラブは金属で金額が違っていて、流通の多いと言っていた、銅と鉄の二種類を販売していた。
鉄を1本とコカトリスの串焼きを人数分買って、皆の所へ戻っていく。
「食べ歩きしながら回ろうか」
串焼きを全員に渡してまた歩き出す。
「ありがとうございます。」
「1人だけ食っててもやらしいからな。カニも食べるか?」
「はい、いただきます。」
話も一段落し、串焼きが冷める前にかぶり付く。
炭火の香りと甘じょっぱいタレが口の中に広がる。
コカトリスの肉は弾力がありつつも柔らかく、口の中でほどけるように崩れる。
噛みしめる度に肉の味が広がり、タレと絡まってしっかりとした余韻を残す。
「美味いな。」
串焼きを一瞬で食べ終わり、アイアンクラブに手を付ける。
直径10センチはありそうなアイアンクラブの脚に豪快にかぶり付く。
プリっとしていて程よい弾力があり、ジューシーな肉質。
シンプルな塩味が肉の甘みを引き立てる。
なぜ俺は、食レポの様なことをしているのだろうか?
「これも美味いな。食べる?」
「はい。」
ルカは、受け取ったはいいものの、食べ方に困る一品。どうしようかと悩んでいる様子。
「・・・すごく大きいですね。」
「豪快にパックッといけばいいじゃん。食べ歩きなんてそんなもんだろ。」
意を決して豪快に行くルカ。
「美味しいですね。シンプルな塩味が丁度いい塩梅です。」
「ハヤトくん、僕ももらっていいかな?」
「あぁ、良いぞ?」
パトリックの方を見ると、邪悪な目をした男がいた。
「フッフッフ、このタイミング・・・ルカくんと間接キ----」
・・・まずい、変態が暴走しかけてる・・・
「アレン」
「あぁ?なんだ----あがぁ」
とっさにアレンに声をかけ、こちらを向いた瞬間に、カニ脚をアレンの口へとシュートする。
「テメェ!何しやがんだ!」
「悪い、これで一つの世界を救う事が出来たんだ。」
「何わけのわからんことを言ってんだ!?」
「ハヤトくん、何をしてくれてるのかな?」
この際、パトリックの事は無視して行こう。
「リリィさんとリンカさんも食べるか?」
「「「いただこう」きます」・・・ます」
女性陣には、食べにくいかと思ったが、意外にも返答はイエスだった。
「ハヤト殿、皿をそのまま持っていてくれ。」
言われた通り、皿を動かさずに持っていると、リリィさんがナイフを取り出し、素早く振るう。
手に持っていたカニ脚が、一瞬にして一口大にカットされた。
鮮やかで美しいお手並みである。
その後、カットされたカニ脚を串でつつきながら露店を歩き回った。
行商人達の出す店なので、この辺りではなかなか見ない素材やアクセサリー・雑貨・魔術道具などバラエティーに富んだラインナップで、見ていて飽きない空間だった。
「ハヤトさんは、何も買わないんですか?」
「あぁ、もともと見て回るだけの予定だったし、掘り出し物があればと思ってたくらいだからなぁ。」
「買ってあげるような人もいないんですか?」
「いない----あぁ、ルカ。珍しいお茶菓子とかないかな?」
「お茶菓子ですか・・・さっき通った店に、ユグドフレア産のジャムクッキーがありましたよ。」
・・・ユグドフレア?
「有名なのか?」
「はい、木の国と呼ばれるほど、ほとんどが森の国で、木の実やフルーツの加工品が有名です。」
なるほど、お茶請けにぴったりの食べ物だな。
「ありがとう、大量買いしてくる。」
ジャムクッキーは、かなりの種類があったが、ディアの好みがわからないので、一通り全部購入した。
次にディアに会うのはまだ先になりそうだが、用意しておくにこした事は無いだろう。
なんだかんだで一日めいっぱい露店巡りを楽しみ、またクランの修行の日々に戻り、式典の当日を迎える。




