受け取り
手甲が完成する予定日となり、カサリのところへ受け取りに行く。
「何で皆付いてくるの?」
「ハヤト殿の武器が早く見たくてな。」
「レアなんだから気になるだろ。」
「私も気になって」
「僕もです。」
「・・・わ・・・私も・・・です。」
なぜか、サラマンダー討伐に行ったメンバー全員が付いてきてしまった。
まぁ、問題ないか。
店に着き、中に入ると、やっと来たかといった表情のカサリが出迎えてくれた。
「ずいぶんと大所帯で来たな、ハヤト。」
「悪いな。本当は1人で来るつもりだったんだが、皆新しい武器を早く見たいとかで付いてきたんだ。」
「構わん。付いて来い。」
そう言って工房の奥へと入っていくカサリ。
その後を追って、全員工房の中へと進んでいく。
「こいつが、カオスサラマンダーの亜種で作ったハヤトの装備だ。」
カサリが指さす方には上質な箱が鎮座していた。
無造作に置かれているもんだと思っていたが、箱詰めしてあるとかカサリって意外と几帳面なんだな。
箱を開けると、黒地に深い青のアクセントのある手甲と足甲が顔を出す。
取り出して、手甲を装備してみる。
軽くてかなり頑丈そうである。手を動かしてみても、引っかかる事も無く、可動域も広い。
「いい出来だ。気に入ったよ。」
「あったりめぇよ!誰が作ったと思ってんだ!」
「カサリの腕を疑ってはいない。ただ、予想以上に要望に応えてくれていて驚いた。試しに身体を動かせる所は無いか?」
「裏手の庭に試し切りの人形が置いてある。使ってくれ。俺も見てみたい。」
更に奥へと案内されて、建物の外に出る。
大きくはないが、塀で囲われた庭に人形が置いてあり、試し切りで身体を動かすぶんには全く問題ないスペースがあった。
「良い所だな。」
「あたりめぇよ!使って違和感があったら言いな!直してやる。」
「あぁ、頼む。」
受け取った手甲と足甲を全て装備して、軽く準備運動をする。
実際に本気で動く前に、纏いを使ってみる。
魔力を込めると、手甲は蒼い炎を纏った。
・・・スゲェ、中二病っぽいんですけど
「残念だよカサリ。返品だ。」
「おいおい、どこか不具合でもあったか?言ってくれれば直すぜ。」
手甲を返品と言われ、心配そうな声になるカサリ。
「こんなもん使ったら目立つだろうが!何だこの炎の色は!赤に戻せ!」
「知るか!おめぇが持ってきたサラマンダーだろうが!そんな理由で返そうとすんじゃねぇ!」
一変してキレるカサリ。
普通に使う魔術はどうなるのかと思い、ファイヤーボールを出してみると、普通の色だった。
「赤いじゃないか!」
「ふざけてんのかテメェ!」
ケンカしそうな2人を止めに入る皆。色々とカオスである。
結局クーリングオフは認められなかった。
ガスバーナーのイメージか炎色反応で着色するか?
そんなことしても温度が足りないな。保留にしとくか。
「仕方ない、我慢するか。」
「次ふざけたら、店から締め出してやるからな!」
「わかったよ。じゃあ本気で試させて貰うよ」
皆から離れ、庭の中央あたりまで行き、手甲に本気で魔力を込めて、纏いを使う。手甲は悲鳴を上げる様子もなく、完璧に俺の魔力に耐えてくれる。
そのまま、足甲にも纏いを使ってシャドーや型をやってみる。
「良い感じだ。全く問題ない。」
「そうだろう!俺の作品の中でも最高クラスの仕上がりだ!最近だとリリィのレイピアを作って以来だな。」
「じゃあ実際に攻撃してみるか。」
人形から離れた位置に立ち、陸上のロケットスタートの様な姿勢をする。
イメージするのは、今までのブースターではなく、ロケットエンジン。実際のロケットの燃料は液体水素と酸化剤であり、小学生でも知っている現象だ。水素と酸素を混ぜて、火を付ければ爆発する。それで飛べる。
魔術を使う時に必要なのは、体内魔力と自然魔力を混ぜ合わせて想像を具現化させる事で、その際重要なのがイメージであり、詠唱はイメージを固めるための手段に過ぎない。
何が言いたいのかと言うと、水素と酸素・体内魔力と自然魔力を混ぜ合わせて着火し、ロケット打ち上げのイメージをすれば、理論上飛べるはず。
今回は人形に向かって水平に進む訳なのだが・・・
手のひらと足の裏に集中し、踏み切ると同時に発火させる。
「あっ」
予想以上の爆発による急加速で、目標の人形を通り過ぎ塀に激突した。
「ハヤト殿、大丈夫か?」
いきなり塀に激突した俺に、皆が集まってきた。
「あぁ、なんとか。こんなにスピードが出るとは思わなかった。」
「ハヤト、テメェ塀が壊れたらどうすんだ!」
「・・・俺の心配をしてくれよ。」
立ち上がり、あっちこっち怪我してないかを探したが、問題無さそうであった。
「だ・・・大丈夫・・・です・・・か?」
「大丈夫だ。身体強化をしてなかったらやばかったかも。」
「何しようとしたんだ?」
「高速移動だよ。空も飛べると思ったんだが、コントロールが難しそうだ。」
ロケットエンジンでの攻撃は一旦やめて、人形に近づき普通に纏いを使って攻撃して、手甲の具合を試す。
問題が無いとわかったところで、今度は上に飛んで見る事にした。
真上に飛び上がり、水平に方向転換して、ぐるっと一周回って庭に着地した。
「しんどい。魔力バカ食いする」
理由はわかってる。
魔力を放出する圧力が足りないんだろう。
推進力の変換効率が悪すぎる。要改善だな。
「ハヤト、おめぇ本当に人間か?」
「どっからどう見ても人間だろ。」
「普通の人間はそんな風に空を飛んだりはしない。」
カサリに続いて、アレンまで非常識認定してくる。他の皆を見てみると、おおむね皆変なものを見るような目でこっちを見ていた。
この世界で飛べると言ったら、風属性魔術のフライくらいだろうか。ロケットエンジンの無いこの世界では、確かにおかしな技術かもしれない。
手甲の性能を確かめる事が出来たので、カサリにお礼を言って店を出る。
「次は、ミレディの店だな。」
「!・・・お、俺は帰るよ。手甲も見れた事だし。」
ミレディの名前を聞いて、投げ出そうとするアレン。
その肩をつかみ、がっちりとホールドする。
「俺の装備を見に来たんだろ?最後まで付き合えよ、アレン」
アレンは、必死に逃げようともがくが、結局振り切れず、俺に引きずられてミレディの店まで来てしまった。
「あらぁん!みんな、いらっしゃぁい!」
「店長、俺の服は出来てるか?」
「出来てるわよぉん。あてぃしが着せてあ・げ・る。」
「自分で着るから渡せ。」
「んもぉ!ハヤトのい・け・ず。」
「キモい。」
そんな、いつも通りのやりとりをしながら、服を一式渡される。
こちらも、黒を基調として青のアクセントが入った服を一式とミスリルのインナーを渡される。
「良い感じだ。気に入ったよ、店長。代金はいくらだ?」
製作費を渡し、ミレディの店で着替えて、今日の装備をフルでつけた状態で店を出る。
かなり良い買い物が出来た。
やっぱり新品は素晴らしいな。明日からも頑張ろう。




