教会
翌日、祝福を貰うため王女様と主に光輝が話ながら車で教会へと向かう。
驚いたことに、車が存在する。一般的には馬車が使われてているが、王族や上級貴族は権威を示すために車を使っているそうだ。
燃料は、魔物から取れる魔石で、燃費は最悪らしい。遠出はまだまだできないが、魔術技術の向上で年々燃費が上がってきているらしい。
「なぜ女神様の祝福なのに、病気を完全に防げないのですか?」
「いい質問ですね!勇者様!色々な説が在りますが、有力なのはお医者様の仕事が無くなるとか、貧しく寄付できない方々に病気のしわ寄せがいかないようにとか言われています。余り不平等にならないようにされているのではないでしょうか?」
因みに王女様の言う勇者は光輝の事であって決して俺ではない。
そのまま勇者であるという事を忘れてほしいものである。
「なるほど、不幸が無ければ幸福を感じられないってところかな?」
「そうかもしれませんね!」
「ところで、今から行く教会はどんな所なんですか?」
「豊穣の女神、ディアーナ様を奉った教会です。基本的にどの神様を信仰していても良いのですが、アルカディア王国には豊かな土壌や川が多く、農業が盛んなので王家では信仰しています。皆様もどの神様を信仰しても大丈夫ですが、今回は豊穣の女神様にお祈り下さい。」
「信仰すると何かあるのか?」
「熱心に信仰しているとステータスにボーナスが付きます。なので私たちは、国全体が豊作になるように祈っています。毎年王家主体の豊作祈願のお祭りもやっているんですよ。」
「それは楽しそうだね!」
「はい!皆さん盛り上がって楽しみにしてくれている人が多いのですよ!今年はぜひ一緒に楽しみましょう。」
「ーーーおっと着きましたね。」
馬車が止まり、降りるとバロック様式のような教会があった。
街並みも中世ヨーロッパみたいだが、道がアスファルトで整備されたかの様に平らな石で出来ていてガタガタしなくなっている。
サスペンションの無い馬車に乗っていてもケツが痛くないのもこの道のおかげだろう。
「おお~っ、なんかヨーロッパ感があってオシャレだね~」
「確かに、所々違いはありますが、ヨーロッパに似ていますわね!」
「魔法のおかげで建物も地球と変わってきてるのかしら?」
「王宮にも上下水が完備されていたし、科学が魔法にとって変わっただけなんじゃないのかな?」
「石造りで継ぎ目なく造るのは魔法だろうな。」
皆が一通り感想をのべる。
「その通りです。道から建物に至るまで土属性の建築家さん達が魔法で建てています。道に関しては、まだ大通り程度しか整備できていませんが、いずれは裏通りまで全て整備したいと思ってます。」
「それはスゴいな!僕もそんな街を見てみたいよ。」
「早くお見せできる様に頑張ります!では中へ参りましょう!連絡を入れてありますので迎えがきているはずです。」
階段をあがり教会正面に着く。
入り口には誰が見ても美人だと思えるような人の像がある。
おそらくこの人が豊穣の女神様なのだろう。
「アリア姫、正面の像がディアーナ様でいいのかい?」
「そうですよ勇者様、ですが気を付けてください。女神様をお名前で呼ぶのは不敬に当たります。出来れば豊穣の女神様と呼んでください。教会の方々に聞かれると怒られてしまいます。」
「わかったよ。アリア姫、忠告ありがとう。」
「いえ、私が教えていなかった事がいけないのです。」
イチャイチャしてるなー
爽やかな笑顔の光輝と顔を赤らめてくねくねしている王女様を感情のない目で見ていると教会の中からシスターが小走りで寄ってきた。
「ようこそおいでくださいました。姫様、勇者様方。私はここのシスターで聖女をつとめさせていただいております。マリエルでございます。本日は案内役を努めさせていただきます。以後お見知りおきを。」
マリエルさんの案内で教会へと入っていく。
「ところでアリア王女、先ほどマリエルさんが言っていた〔聖女〕ってなんですか?」
「雫さん、聖女とは神託を受けとる人の事ですよ。神様が地上へと降りてくる事はほとんどありませんが、神託を授ける事はあります。その時、神託の受けとり手となるのが聖女様です。神様に認められた凄い人なのですよ。」
「なるほど、つまりは豊穣の女神様に認められた方と言うことですね。」
尊敬の眼差しを向ける雫にたいしてマリエルさんは少し照れたような困ったような曖昧な表情をしている。
「姫様、あまり持ち上げないでくださいませ。私はただ、気まぐれで選ばれた人間で、たまたまディアーナ様がお声を掛けてくださっただけでございます。」
「謙遜はよくないですよ、マリエル様。豊穣の女神様が認めるほど、一生懸命に信仰してらっしゃる証拠じゃないですか。」
「祈りは当たり前の事であって、誇るような事ではないので、恥ずかしいのでございます。」
「マリエルさんは当たり前の事だと言うけど、僕としては毎日懸命に祈るのは凄いことだと思うよ。」
「ありがとうございます。勇者様」
マリエルさんは勇者に誉められて、今度は本当に照れた顔をしている。
ついに礼拝堂へと到着し、礼拝の仕方を教えてもらう。
「では皆様、すでにお布施は国王様より頂いておりますので、お祈りをお願いします。ステータスに祝福と書いてあれば終了でございます。」
各々、習った通りに豊穣の女神様へと祈りを捧げる。
変な病気を貰わぬようしっかりと祈り、ステータスを見てみると祝福と刻まれていた。
特に〔誰々の~〕というワードがないので、おそらくどの神様に祈ろうが祝福の効果は変わらないのだろう。
「皆様、終わりましたでしょうか?」
「「「「「はい」」」」」
「本来であればここで終わりなのでございますが、勇者様方には女神様より神託を頂いております。ですので別室でお伝えさせていただきます。」
「「「「「「えぇっ!!」」」」」」
その言葉に一同驚く。王女様まで驚いているということはおそらく知らされていなかったのだろう。
「マリエル様、豊穣の女神様より御神託があったのですか?」
王女様は興奮したのか、少し早口で聞き返した。
「はい。昨夜お言葉を頂きましたので、お伝えできておりませんでした。申し訳ございません。別室にて少しお時間を頂けますでしょうか?」
「大丈夫です。では場所を移しましょう。」
礼拝堂を出て、横の個室へと案内される。
会議室のようなスペースで長机を囲むように座りマリエルさんが話し始める。
「神託をお伝えする前に勇者様方がどこまでこの世界について理解しているのかを教えて頂きたく思います。勇者様の使命はどこまで知ってますでしょうか?」
はて、勇者の役目の話なんてまだ一度もされていないのだが、最初の言葉から察するに人々を苦しめる魔王を倒せばいいんじゃないのか?
「マリエル様、勇者様の使命については、城に戻ったときにするつもりでした。ですので、まだ何も話しておりません。」
「そうでございましたか。ではそこからお話させていただきます。」
マリエルさんの話をまとめると、
この世界には、魔界のような土地はなく、人や獣人、エルフ、ドワーフといった種族がいるだけである。
しかしダンジョンや魔物が生息する森や海が数多く存在し、定期的に間引きしないと強い魔物が生まれてしまい、下級の魔物を従えるような知性を持った上級の魔物や災害レベルの魔物まで出てくるそうだ。
近年、現れる魔物の数が多くなり、更には徐々に強くなってきているらしい。
この現象に対して、どこかで魔王クラスの魔物が誕生したのではないか?と噂になっていたそうだ。
過去形なのは、先日マリエルさんに魔王誕生の予兆があると神託が降りたからである。
すぐに各国に神託の内容を伝えたが、勇者が誕生している国はなく、まずいと思った各国の代表は、伝説の勇者召喚に踏み切る決断をしたらしい。
そして召喚は言い出しっぺであるアルカディア王国に白羽の矢が立ったそうだ。
全く迷惑な話である。
魔王についての話が終わり、ついに神託の内容へと移る。
「そして、勇者様への神託の内容なのですが、『厳しい戦いになるので、仲間をふやし、協力せよ。』とのことです。」
「マリエル様」
「なんでしょうか?」
「もっと具体的な話はなかったのでしょうか?」
「いいえ。これだけしか頂いておりません。仲間の規模もわからないのでございます。個人なのかそれとも国家間なのか、とにかく多くの味方をつくらねばならないのでございます。」
「わかりました。戻り次第各国に連絡を入れさせます。それでは城へと戻しましょう。本日はありがとうございました。」
そう言って席を立とうとした時、マリエルさんが口を開く。
「もう1つ、ハヤト様へ個人的にお言葉を頂いております。」
その言葉を聞き、王女様は眉をひそめる。
「個人にですか?」
「はい。ハヤト様のバッドステータスについてでございます。女神様より矯正プログラムをご用意して頂きましたので、教会にて一時お預かりさせて頂きたいのでございます。」
・・・はぁ?
おいおい嘘だろ、なんだその恥ずかしい仕打ちは・・・
王女様がめっちゃ睨んでるし・・・
「女神様にまで迷惑をかけるとは、なんと堕落した人なのでしょう」
「アリア様、うちのバカがスミマセン」
「隼人~やっちゃったね~」
「同じ世界出身として恥ずかしいですわ」
「はっはっは、僕は君らしくて良いと思うよ、こってりと絞ってもらうといい」
言いたい放題言い過ぎだろ・・・
そして皆ボロクソに言いながら退室していった。
マリエルさんと二人取り残された後、教会の奥へと連れられる。
「マリエルさん、俺はこれから何をさせられるんですか?」
「実は、私もまだよく知らないのでございます。それと、ここは公式の場ではございませんので、言葉を崩していただいても大丈夫でございます。」
「ではお言葉に甘えて。なぜ神託を預かったのに内容がわからないんだ?」
「矯正プログラムを用意したとしか聞かされていないのでございます。その先はお部屋に着いてから、でございます。」
教会の本殿を出て奥にある離れの方へと向かっていくマリエルさんに付いていく。
「どこに向かってるんだ?」
「私の私室でございます。」
「・・・えぇ!?・・・大丈夫なのか?」
「私もシスターでございますので、余計なものは持たず、整理整頓されておりますよ。」
「特に汚部屋の心配はしてないんだけど・・・」
「では、貞操の話でございますか?神様に仕えるーー」
「違います。何するか知らないけど普通は訓練場とか広いところじゃないのか?」
「着いてからのお楽しみでございます。そちらの部屋が私の私室でございます。」
教会の離れの一室、シスターや神父様達が生活しているエリアに何があるのかと思いながら、マリエルさんの部屋へと案内される。
中には絶世の美女と言えるような人が椅子に座って待っていた。
「お待ちしておりましたよ。勇者ハヤト様。」
隣でマリエルさんがスッと片ひざを付き頭を下げる。
「俺も同じ姿勢をとった方がいいのですか?」
「そのままで構いませんよ、勇者ハヤト。マリエルも頭を上げて椅子に掛けなさい。」
「はい」
そう言ってテーブルを挟み三人で椅子に掛ける。
「マリエルさんなんとなくわかりますが、ご本人様で良いのですか?」
「はい。こちらのお方は、豊穣の女神ディアーナ様でございます。」
・・・降りて来ないんじゃなかったの?
入り口の石像と同じ姿の女神様ご本人が目の前で紅茶を飲みながら俺を待っていた。