クラン
「今日はハヤトさんのサラマンダーを売りにいくだけなので一緒に行きましょう。その後で、クランに案内しますね。」
「・・・あぁ、頼む。」
俺なんか連れてっても楽しくないだろうが、スゴく喜んでる感じがするのは気のせいだろうか?
寝床が見つかるのは非常に嬉しい事なのだが、倫理観的なところで大丈夫なのかが問題だ。
ルカは男だが、線の細い体格と中性的な顔立ちで、おそらく熱烈なファンが多いだろう。
付いて行って相部屋になったら、俺は刺されないだろうか?
「では、ギルドに行きましょう。サラマンダーであの服屋の代金くらいまかなえるでしょう。」
「そうだな」
ギルドへ行き、特に問題もなくサラマンダーを換金することができた。
そして、ルカのクランの本拠地へと向かっていく。
「ところで、ルカの部屋に泊まって大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ、ハヤトさんならリリィさんの信頼もありますし、リーダーの許可も貰えるはずです。なぜか僕の部屋は2人部屋なのに誰も入ってきてくれないんです。」
少し肩を落とすルカ、違うきっとそうじゃない。
やっぱり宿泊の許可がとれたところで、俺は刺されるんじやないだろうか?
「ルカは嫌われてない。理由は何となくわかる。ただ、俺も泊まれないかも。」
「えぇ!?そうなんですか?」
「たぶん」
「一度お願いしてみますね。あ、あそこです。」
ルカが指さした方を見ると、豪邸が建っていた。
「ずいぶん豪華なお屋敷だな。」
「昔、とり潰しになった貴族の屋敷をリフォームしたらしいです。」
門には、クランのシンボルマークの描かれた旗が掛かっており、結構入りにくい。
ルカはスイスイと進んでいく。俺は敵地に単身乗り込む気分で、敷地へと足を踏み入れる。
「ただいま戻りました。」
「お邪魔します。」
玄関をくぐった先は、ロビーになっていて、2グループほど会話に花を咲かせていた。
「ルカくんおかえり!後ろの人は?」
「この間、一緒に討伐遠征に行ったハヤトさんです。」
俺の名前を聞いた瞬間、ロビーに居た全員が少し嫌悪感のある視線を向けた後、ヒソヒソと話をしている。
いきなり嫌われるようなことしたか?思い当たる節が全く無いんだが。
よくよく耳を澄ましてみると、雑魚狩りやら腰巾着やら、最近付いたらしいあだ名を口にしていた。
「すみません、ハヤトさん。」
「言いたい奴には言わせておけば良い。行こうか。」
「はい。」
テンションの下がったルカの屋敷の奥へと進んでいく。
一番奥の少し豪華な扉の前で立ち止まり、ノックをする。
返事があり、扉を開けて中へと入っていく。
「「失礼します。」」
「おかえり、ルカくん。後ろの彼は誰かな?」
中に居たリーダーが問いかけてくる。
リーダーは20中盤ほどの年だろうか?銀髪のイケメンだった。
「こちらは、先日一緒に討伐遠征に行ったハヤトさんです。」
「隼人だ、よろしく。」
「僕は、パトリックだ。クラン・竜の息吹のリーダーをしている。やっぱり世間の噂は当てにならないな。歓迎するよ、ハヤトくん。」
机を挟んで、握手を求められる。こちらも右手を差し出し応答する。
力強いな、握手じゃなくて手を握り潰しにきてるだろ。最近こんなんばっかりか。
「今日は、お願いがあってきたんだが。」
「何かな?」
「あ。ハヤトさん、僕が説明しますね。」
「・・・あぁ、頼む。」
ルカが、割って入ってきて、パトリックに現状の説明してくれる。
「なるほど、事情はわかった。僕一人では判断できないね。ルカくん、リリィくんを呼んできてくれないか?おそらく訓練場にいるだろう。」
「わかりました。」
早足で出ていくルカ。
部屋には、俺とパトリックが残された。
「さて、キミはルカくんと付き合ってるのかな?」
「・・・はぁ?付き合ってねぇよ。」
確かにルカはかわいい方だが男だし、恋愛対象ではないだろ。
「そうか、キミもまだか。実は、僕はルカくんの事がが好きなんだ。」
・・・とんだ変態じゃねーか。何でいきなりそんなことカミングアウトしてきたんだ?
そういうことにオープンな人間なのか?
だとするとよくこんな人数の人が付いてくるな。こんなんじゃ、まったく人望無くなるだろ。
「・・・ルカを変な道に引きずり込むなよ。」
「すごい独占欲だね。しかし、ルカくんはまだ、誰のものでもない。正々堂々と戦おうじゃないか。」
「ちょっと待て、俺はノーマルだぞ。」
とんだ誤解じゃねぇか!ソッチ系の人だと思われてんの?
「隠さなくても良いじゃないか!同族は匂いでわかるものだよ。キミもルカくんに、かわいらしい服を着せて恥じらう顔を愛でたいんだろう?」
・・・レベルたけぇな、ドン引きだよ。
「お前の嗅覚は腐ってるから、今すぐ鼻をちぎって捨てたほうがいい。」
「まだ隠すと言うのかい?なかなか強情だね。」
「・・・・・・」
ルカ、頼むから早く戻ってきてくれ。
コイツの暴走を止められない。
願いが届いたのか、ちょうど扉がノックされる。
「どうぞ。」
ルカとリリィさんが入ってくる。助かった。
「リーダー、リリィさんを連れてきました。」
「失礼します。パトリック殿、何かご用ですか?」
入ってきたリリィさんと目が合う。
「お邪魔してるよ、リリィさん。」
「ハヤト殿、とうとうクランに入ってくれる気になったか?」
「違うよ、リリィくん。ハヤトくんは、宿が無くなってしまったそうだ。しばらく泊めてほしいそうなのだが、僕では判断しきれなくてね。リリィくんに、信頼できるかを聞きたかったんだ。」
パトリックは、二重人格なのか?急にまじめな感じになったぞ。
さっきのふざけたパトリックはどこ行ったんだ?戻ってきてほしくはないけど。
「そうでしたか。でしたら問題ないと言っておきます。」
どうやら、リリィさんは、味方に付いてくれたようだ。これなら泊まれる方に進んでいく気がする。
「そうかわかった。では宿泊を許可しよう。ただし条件がある。」
「何だ?」
条件か、無理難題じゃなければいいか。ルカ関連かもしれないな。
「最近、冒険者パーティーの壊滅が数件確認されている。森に強い魔物が住み着いた可能性がある。うちのクランにも、調査要請が来て、1パーティーが調査に出ている現状だ。よって、初級から中級クラスまでの、戦力向上を計り、訓練場で強化講習をしている。キミには講師として若者を指導してほしい。と言うのと、ルカ君との相部屋は無しだ。」
「なるほど、良いよ。訓練メニューを作っておくよ。明日からでいいのか?」
「構わないよ。よろしく頼む。」
女神人気のほとぼりが冷めるまで、クラン・竜の息吹で、教官をしながら寝泊まりさせてもらえる事となった。




