発注
大所帯で、鍛冶師の所へ向かう。
「ハヤト殿、今から紹介する鍛冶師なのだが、気難しい方でな、私の紹介だろうと自分が気に入らないと武器を作ってくれない可能性が高い。実力をはかるために、腕試しをされると思うが、気分を悪くしないでくれ。」
「俺がそんな事で怒ると思ったか?」
「念のためだ。ハヤト殿は、冷水を掛けられても怒らなさそうだ。」
「さすがに冷水掛けられたら怒るよ。」
そりゃそうだ、悪口と違って実害があるからな。
「そうか・・・」
「ハヤトさんは、さっきの人達にも怒らなかったですよね。」
「だから舐められんだよ!ぶちのめせばいいだろ!」
「・・・ぶちのめしたところで、利益出ないだろ。」
「そういう問題なんですか?」
「そういう問題だな。マジックバッグを貰えるなら喜んでぶちのめすよ。」
「意外と現金な人だったんですね・・・。」
あれ?何で皆、呆れた感じになってんの?普通だろ?
ワイワイと盛り上がりながら商店街を進んでいく。
ひとつ奥の道にに入ったところまでいき、鍛冶屋の近くまで来たところで、アレンが話しかけてくる。
「武器作って貰えると良いな。」
何でコイツこんなにニヤニヤしてんの?殴りたいこの笑顔って感じだな。
そんなテキトーな事を考えていると、ちょんちょんと服の袖を引っ張られる。
「あ・・・アレンくんは・・・ま・・・まだ作ってもらってない・・・です」
だからか、俺が断られるのが楽しみなんだな。性格悪い奴め。
「ハヤト殿、ここだ。」
あれ?この店って・・・
一同、店の中へと入っていく。最後に俺も入っていった。
「ん?リリィじゃねぇか!またその小僧の武器を作れってか?」
「出来れば作って欲しいところだが、今回は別の人を紹介したい。」
「あんまり人増やすんじゃねぇぞ!」
「すまない。紹介すると約束してしまってな。」
「誰の紹介だろうと、腕試しはさせてもらうがな!で、どいつ----って、ハヤトじゃねぇか!」
世界は狭いもんだな、まさか紹介される鍛冶師がカサリだとは思わなかった。
これでは、紹介してもらうまでもなかったな。まぁ、カサリの腕が本物だったと解っただけでもも儲けもんだろう。
「なんだ、2人は知り合いだったのか?」
「この前、壊れた手甲を探して俺の店にきやがったんだ。」
「カサリ、俺の武器はお前に頼む事にするよ。」
「がっはっはっは。だから言ったろ、俺が作る事になるって。」
「・・・そうだな。」
「何だその嫌そうな目は?で、何を作って欲しいんだ?」
「手甲と足甲だ。出来ればチェーンメイルも作って欲しいところだが、出来ないなら防具屋を紹介して欲しい。」
「手甲と足甲は作ってやる。何でチェーンメイルなんだ?」
「動きを阻害されたくないんだよ。俺は戦い方的に、防御力を捨ててでも機動力をとらなきゃダメなんだよ。」
「つまり、可動範囲が広ければチェーンメイルにこだわる必要は無いってことか。」
「そうだが、そんな装備が在るのか?」
「在るぞ、ただ素材はあるが、俺では作れない。」
そう言って奥から、銀色の糸のようなものを持ってくる。
「何だそれ?」
「こいつはミスリルの糸だ。昔鍛冶師たちが、技術を結集して作ったものなんだが、使いどころが無くてな、倉庫に眠ってたんだ。出来たは良いが、武器や防具として使い道がないからな。これで服を作るくらいなら鎧を作った方が効率がいい。」
「確かにチェーンメイルよりも良さそうだ。貰っていいのか?」
「金は払えよ。」
「わかってるよ。」
「本題に入ろうか。手甲と足甲は何の素材で作るんだ?」
「サラマンダーだ。ルカ、黒い方を出してくれ。」
ルカが収納からカオスサラマンダーを出し、カサリに見せる。
「何だこいつは。」
「カオスサラマンダーだろ。見た事無いのか?」
「こいつは違う、カオスサラマンダーの亜種だ。ハヤト、こいつの炎は何色だった?」
「蒼だったぞ。普通の上位種は蒼じゃないのか?」
その言葉に、全員が驚く。どうやら普通ではないらしい。
まず、サラマンダーが初めてなのに、上位種やら、亜種が出てこられても全くわからんよ。
「バカ野郎!サラマンダーとカオスサラマンダーの見た目の違いは身体の色と大きさで、炎は同じ色だ。」
「レアを引き当てたか、ラッキーだったな。」
「亜種ってのはだいたい通常より強いんだよ!よく勝てたな。」
「本気で戦ったからな。結構辛勝だったぞ。」
「お前がおかしい事は良く解った。それで、作る武器に要望はあるか?」
「可動域を広く取って欲しいのと、全力の纏いで壊れないモノを頼む。最後に、最高の仕上がりにしてくれ。」
「あったりめぇだ!楽しみに待ってろ。」
その後、色々と採寸してから、武器とミスリルの代金を払って、店を後にする。
オークを売った金では足りなかったので、足りなかった分は、カオスサラマンダーの素材を持っていってもらうことにした。
ミスリルの糸を貰ったので、ミレディの店によって扱えるか聞いてみようと思い、そのまま皆で向かっていく。
無理だったら、リリィさんにまた紹介してもらおう。
道中アレンが落ち込んでいたのは触れない方が良いだろう。
あっさり武器を作ってもらうことになった俺を悔しそうな目で見ていた後、だんだんとテンションが下がって行ってしまった。
そして、さらに追い打ちをかけるように、ミレディの店に近づくにつれて、アレンの様子がおかしくなっていく。
「お・・・おい待て、ここに入るのか?」
アレンが完全にキョドっている。さては、ミレディと何かあったな。
次はこっちがニヤニヤする番だな。
「店長以外はまともな店だぞ。」
「そのまともじゃない店長がやべーんだよ!」
店の入り口で騒いでいると、声を聞きつけてご本人様が出てきてしまう。
「騒がしいわねぇん。あらあらぁん、ハヤトじゃなぁい。また来てくれたのねぇん。」
「あんまり来たくないんだがな。」
「久しぶりだな、ミレディ殿。」
「あらぁん、リリィちゃんじゃなぁい、あてぃしの服を買いに来てくれたのぉん?」
「今日は付き添いだ。」
「そぉなのぉん?確かに知らない顔が多いわねぇん。」
俺たちを見回すミレディ、リリィさんは知り合いだったみたいだが、初めて会うメンバーはその強烈なインパクトに絶句していた。皆、白目向いて固まっている。
アレンに至っては、冷や汗をかきながら、小さくなって震えていた。どんなトラウマを植え付けられたんだよ。
「あらぁ、ワンちゃんじゃなぁい。」
「ワンちゃんじゃねぇ!」
2人がじゃれ合いを始めてしまう。子犬のようにキャンキャン吠えるアレン。本当に何があったんだ?
「ミレディ、そんな事よりも中に入るぞ、近所迷惑だ。」
「ハヤト、今あてぃしを名前で呼ばなかったぁん?」
目を輝かせてこちらを見てくるミレディ、キモいしウザいな。
「気のせいだろ、店長。入るぞ、それでこれを見てくれ。」
店の中に入り、カウンターに先ほど買ったミスリルの糸を置く。
「ミスリルの糸なんて、また珍しい物を持って来たわねぇん。」
「扱えるか?」
「出来るわよぉん。」
その即答に、一同驚く。ミスリルの糸の存在を知っている事もそうだが、平然と扱えるという、その技量がおかしい気がする。
ルカに、サラマンダーの魔石を出してもらい、両方ミレディに渡す。
「じゃあ、この材料で服を作ってくれ。代金は引き渡しの時でいいか?あいにく手持ちを全部使っちまったんだ。」
「良いわよぉん。かっこよく仕上げてあ・げ・る。」
ウインクしてくるミレディ。特に何か飛んで来るわけでもないのだが、なぜか直線を躱す様に、ウインクを避けてしまった。
カオスサラマンダーの鱗を少し渡して、合いそうな色の服を作ってもらうことにした。
これで俺の装備も整いそうだ。
ミレディの店を出て、帰路につく。
「強烈な方でしたね。」
「・・・す・・・すごかった・・・です」
「あの人は男なのかしら?女なのかしら?」
「女だろう。」
「いや、リリィさんアイツはキモい男だろう!」
「第三の性別だ、男女では言い表せないもんだ。」
帰りの話題はずっとミレディで持ちきりだった。
皆と別れて、教会へと帰っていく。
夕方だというのに、教会は、多くの人でごった返していた。
忘れてた。ディアが見つかって、今その話題で持ちきりなんだった。会えないだろうけど、一目見ようと多くの人が教会に押し掛けるのは、少し考えればわかるだろう。
人を押しのけて、いつものように教会の奥へと進んでいくが、騎士に止められてしまう。
「何者だ、止まれ。」
「ハヤトだ。いつもここで寝泊まりさせてもらってるんだが、通してくれないか?」
「女神様を一目見たいからって、そんな見え透いた嘘をつくんじゃない!怪しいやつめ、連れ出せ!」
「おい、ちょっと待て。せめてマリエルさんに会わせてくれ。」
「ええい!うるさい!牢屋にぶち込まれたいのか。」
結局、教会からつまみ出されてしまう。
勇者を怪しいやつ呼ばわりしてんじゃねぇよ!
これからどうしようか?宿屋も回ってみたが、女神さま効果ですべて満室。
ここにきて野宿するのか?いや、とりあえずギルドに顔を出してみよう。何かいい案があるかもしれない。
ギルドに到着し、安定のレイラさんに何かいい案は無いか聞いてみる。
「そ・・・それは、災難でしたね。一応今回の騒ぎで宿が無い冒険者のために、ギルドの休憩室を宿泊できるように開放しています。ただ、人数が多く、雑魚寝になってしまいますので、あまり疲れは取れないかと・・・」
「背に腹は代えられない、しばらくやっかいになるよ。」
こうして、俺は、ギルド難民になった。




