出発
ファイヤーボールのコントロールをメインに切り替えて、修行の日々を過ごした。
ファイヤーボール1個分の魔力なら弾丸程度のサイズに出来て、形状も先端を尖らせて完全に銃弾と化した。
威力はゴブリンの、頭を貫通して額に小さな孔を開ける程度で、2・3発分の魔力を込めたらオークも貫通した。
ただ、そこまでやるのに集中し過ぎて狙撃でしか使えないので、まだまだ練習あるのみである。
オークを倒すだけならファイヤーボール10発分を野球ボールサイズにすれば余裕で倒せるようになったので、当面はそれで問題無いだろう。
ゴブリンばっかりを狩り続ける毎日で、あのハゲに大声でディスられていた事もあり、[腰ぬけ]やら[雑魚狩り]やら言いたい放題の二つ名が付いていた。
まぁ、他人の評価なんて気にしないんだが、神託の仲間を増やすという目的がまったく達成されないのは大丈夫なのだろうか?
そんなこんなで、魔術の修行に明け暮れていると、予定よりも少し遅れてリリィさん達が帰還した。
1日休養をとってサラマンダー討伐に来てくれるらしい。
かなりのハードワーカーっぷりである。
そして出発当日、集合場所まで行くと、リリィさんを含め、5人と馬車が待っていた。
「すまん、待たせた。」
「まだ時間になってないよ、ハヤト殿」
「そっちの皆は?」
予定にない人員増加について聞いてみる。
「今日のパーティーだ。勝手に人数を増やして申し訳ないが、同行者がいるのは問題あるか?」
「大丈夫だ。立場上、仕方ないんだろう?」
クランの事はよくわからんが、Aランクともなれば、きっと役職みたいなのがあるだろうし、後輩育成で連れてかなきゃダメな時もあるんだろう。
「理解が早くて助かるよ。では揃った事だし出発しよう。自己紹介は馬車の中で大丈夫だろう。」
そう言って馬車に乗り込み、出発した。
「では自己紹介をしようか。知っているとは思うが、私はリリィだ。ギルドランクはA、レイピアと風の魔術を使う。」
リリィさんが仕切ってくれて、俺の方に次にやれとサインを送ってくる。
こういうのは、目立たない辺りでコソッとやるタイプなんだがな。ご指名だから仕方ない。
「ハヤトだ。ギルドランクはC、武器は拳で火の魔術を使える。」
「テメェ、拳とか言っておきながら手甲が片方しかねーじゃねーか!」
「手甲はこの前壊した。素手でも問題無い。」
「ふざけんなよ!オマエみたいなやつが----」
「アレン!」
さすがにリリィさんからストップがかかった。
「ッチ、すいませんリリィさん。オレはアレンだ。Bランク寸前のCランク。武器はロングソードだ。」
さっきから突っかかってきていたヤンキーは、アレンと言うらしい。
耳と尻尾がある。獣人と言うやつだろうか?
目つきが非常に悪く、熱血ヤンキーの番犬くんである。
ギルドランクも俺に対抗したんだろうが、奇遇にも俺ももうちょっとでBである。
きっと面倒なことになるので言う事はないんだけど・・・
「ワタシはリンカよ。Cランクで武器はこの杖よ。水と風の魔術が使えるわ。」
髪のい色は、ミドリがかったアオ、ターコイズブルーと言うのだろうか?落ち着いた色をしていて、属性はピッタリなんだが、なんだろうか?固定観念なのかもしれないけど、水っぽくない人だ。
火の方がイメージに合ってる気がする。
「わ・・・私はシアです。Dランク、ち・・・治癒じゅちゅ・・・治癒術師・・・です。」
噛んだ!
あがり症なのか、恥ずかしがり屋なのか、噛んだせいで尻すぼみになって後半何言ってるか聞き取れないくらい声が出てなかった。
今も顔を真っ赤にしてすごく小さくなっている。
この子は確実に、小動物系の守ってあげたくなる女子だ。
見ててほっこりするし、優しい空間になるな。
若干1名こちらをめちゃくちゃ睨み付けてくる狂犬がいるが、カップルなんだろうか?
ほらシアちゃんがオロオロし始めちゃったじゃん。
「僕はルカ。バックパッカーです。戦闘が不得意で、ランクはEです。」
少しギスギスし始めた空気を、ルカ君の明るい高めの声で拭い去ってくれた。
声もそうだが、華奢で線の細い男の子だ。
顔だちも中性的で、一部の方々から絶大な人気を誇りそうなシルエットである。
バックパック背負ったらひっくり返るんじゃないだろうか?
「ルカは空間魔術が使えて、物を別空間にしまえるんだ。戦闘はできないが、それ以外の荷運び、行者、料理は一級品だ。」
「それは凄いな。パーティーに1人は欲しい人材だ。」
「やらんぞ。」
「残念だ。しかし、アンバランスなパーティーじゃないか?」
前衛3人、後衛1人、バックアップ2人、集団戦は詳しく知らんが、後衛が少ないだろう。
「私が遊撃で動こうと思う。魔術で中距離までなら攻撃できる。必要になればの話なのだがな。」
こちらへと目配せをしてくるリリィさん。
えぇー、俺がこのメンバーのお守り役をやるの?アレンの手綱を握る自信無いんですけど。
とりあえず気づかないふりをして、首をかしげてみる。
「ハヤト殿、頼むよ。」
「・・・わかった。」
・・・残念だ。言われてしまったら無視できないな。
「・・・リリィさん。」
気配に気づき、リリィさんに声をかける。
「気づいたか。」
どうやらリリィさんは気づいてたみたいだ。
「どうかしたんですか?」
突然、真剣な話をし始める 2人に対してルカ君が問いかける。
「魔物が近くにいる。まだ遠いが、向こうは隠れて待ち構えてるな。」
「本当ですか。では戦闘の準備をしましょう。」
「オレ1人で大丈夫だ!オマエは見てろ。」
急に戦闘モードに入ったアレンが、こちらに格の違いを見せ付けようと躍起になる。
・・・仕方ない、フォローの準備だけしておこう。
近づくと皆気配を感じとったみたいで、いつ戦闘になってもいいように気を引き閉める。
「だりゃぁああぁぁぁぁ!」
アレンが一番近くに隠れてる左側の魔物へと突撃していく。
まだ姿も見えていない魔物に飛び付くなよ。
俺がわかっている魔物は4匹で、アレンが突っ込んでいった1匹と、道を挟んだ右側の2匹、更に後ろに1匹回り込んだな。
リリィさん以外の全員がアレンの方を向いているので、リンカさんに話しかける。
「道を挟んだ反対側にもいる。警戒してくれ。」
「なぜ、あなたが仕切るんですか。」
「誰がやってもいいだろ、来るぞ。」
次の瞬間、後方と右側から1匹づつこちらに向かって魔物が飛び出してくる。
二足歩行の狼みたいな魔物だ。確かワーウルフだったか?レイラさんに、道中に出てきそうな魔物は教えてもらっていたので、多少は動き方もわかる。
基本は引っ掻きと噛みつきだ。
リンカさんは、焦りながらも魔術の詠唱をし始めた。
後ろからのワーウルフは、例に漏れずシアちゃんへと腕を一閃。
間へ割って入り、ワーウルフの腕をつかみとり、そのまま投げて地面に叩きつけ、ファイヤーボールで止めをさす。
「あ・・・ありがとうござい・・・ます」
「すまん、後ろはもう大丈夫なはずだ。」
リンカさんの方を見ると、魔術の発動が間に合わなかったみたいで、ワーウルフの攻撃を杖でなんとか防いでいた。
鍔迫り合いをするような格好で、こうちゃく状態におちいってしまっている。
ワーウルフの腹を横から蹴り飛ばし、リンカさんの方を向く。
「もう一回、魔術で攻撃して。」
今度は落ち着いて魔術の詠唱をするリンカさん、ウィンドカッターだろうか、風の刃が飛んでいき、ワーウルフを切断した。
もう1匹隠れていたワーウルフが不利を悟ったのか、逃げ出していく。
ファイヤーボールで仕留めようと手を前に出したところで、1匹仕留めてきたアレンが戻ってきて逃げた1匹に切りかかる。
上段からの、唐竹割りを一閃、一撃で切り伏せた。
「見たか!これがオレの実力だ!」
これが実力か・・・
前に出していた手をそのままに、アレンの方へファイヤーボールを放つ。
「「「「なっ!!」」」」
突然の攻撃に驚く4人。
ファイヤーボールはアレンの横を通り過ぎ、先ほど切ったワーウルフの頭を消し飛ばした。
「仕留めそこなってたぞ。」
ワーウルフの死体をルカ君に回収してもらい、また進みだす。
そこからも何度か魔物に襲われたが、危なげなく返り討ちにできた。
途中で昼休憩を取りつつ、楽しく雑談しながら順調に進んでいく。
ルカ君の用意してくれた昼食はマジで美味かった。
さらに、事あるごとに噛みついてくるアレンをルカ君が上手いことコントロールしてケンカしないように立ち回ってくれる。
ルカ君マジ有能。
アレン以外とはそこそこ仲良くなれたと思う。
日が落ちる前に、開けた場所で野営の準備をして、野宿することとなった。




