学校帰り
「隼人~寄り道して帰ろ~」
授業が終わり、結衣が隼人に声をかける。
「何で俺なんだよ。」
テンション高めの結衣に対して、隼人は気怠そうな様子で答える。
隼人は入学から他人と関わらないスタンスを貫いて来ているので、雫達も基本的にからむ事を控えている。
「色々あって結衣にボディーガードが欲しいと思ってたのよ。」
「すでに光輝が居るだろ。」
基本的に光輝と結衣と雫は一緒に居る事が多い。隼人もその中に入る事はあるが、結衣が誘わない限り行動を共にする事は無い。
隼人としては、ボディーガードが欲しいと言われても、完璧超人の光輝が居る時点で問題が起きる気がしなかった。
もちろん光輝が火種の場合は除くのだが。
「光輝は絶賛ケンカ売られ中よ。」
「・・・あぁ。そうか。」
問題は光輝が火種の場合である。
光輝は女子人気が非常に高く、告白されている回数は1年の中でトップであることは疑いようがない。
その為なのか、男性人気が異様に低い。
女子人気の高さに嫉妬した人が光輝を妬み、追い打ちをかけるように光輝自身の言動でしびれを切らして勝負を挑むといった事が日常茶飯事に行われている。
光輝はその勝負を全て受け、相手の土俵で叩き潰すという行為を何度も繰り返してきた。
不幸にも自分の得意分野で勝負を挑んだ男たちは全員が燃え尽きて意気消沈としている。
今日もまたどこかの誰かの心がへし折られている事に、隼人は心の中で手を合わせる。
「ということでヨロシクね~」
「面倒臭い。」
知らない人に同情してしんみりしている隼人をよそに、結衣は話を勝手に進めていく。
「決定~」
「聞けよ。」
結衣は隼人の言葉を完全に無視して袖を掴み、強引にずんずんと進んでいく。
隼人は特に抵抗する様子も無く、諦め気味になりながら結衣に引っ張られるままに付いていく。
珍しい組合せでクラス中から興味や妬み、羨ましそうな視線が隼人に突き刺さり、隼人としてはもうどうでもいいのでさっさとこの場から立ち去りたい気持ちでいっぱいになる。
「それで、どこ行くんだ?」
3人は学校を出て商店街の方へと足を進めていく。
針のむしろを抜けた隼人は、悪態を尽きながらもなんだかんだで結衣の後に付いていく。
結衣も隼人の事をきちんと理解していて、早々に掴んだ手を放して我先にと商店街の方へ歩いていった。
「最近出来た~ハニートースト屋さんだよ~」
「また甘ったるいモノを。」
隼人は甘味自体は好きなのだが、急に来られても困るといった様子で肩を落とす。
「大きいらしいから~皆で食べようね~」
「雫はそれでいいのか?」
ハニートーストは映えを狙っているのか食パン一斤を使ったボリュームのある一品らしく、結衣はともかく体形維持の為にカロリー制限をしている雫が居たところで戦力としては乏しい。
光輝もいないので代打として隼人を誘う流になったのだが、1つのハニートーストを切り分けるという事は雫が色々と気にするかもしれないと思い、隼人はそれとなく雫に探りを入れる。
「そんな気にするような間柄じゃないでしょ。」
思いのほか淡白な返答に、隼人は拍子抜けする。もちろん特に気にしないから読んだことはわかっているのだが、隼人からしてみると自分ではなく他の女子でもいいのにと思う点はあった。
「まぁな。それで、本当に何で俺を呼んだんだ?」
「ここだけの話なんだけど、結衣がサッカー部の先輩に告白されたのよ。」
「なんだ、ヤバイ奴なのか?」
雫の発言を聞いて、隼人の目つきが変わる。能天気で気怠そうだった雰囲気が張りつめたモノに変わり、肌をひりつかせる。
「本人は彼女をコロコロ変えてるチャラ男って感じかしら?それよりも、その先輩の取り巻きが怒ってるみたいなのよ。もしかしたら何かしてくるかも。」
「なんだそんなもんか。それで、近くに男が居れば手を出しにくいってすんぽうだな。」
隼人の考えとは裏腹に、対して深刻な状況では無かったので安堵する。
それと同時にピリピリとした空気もどこかへと消えていく。
「そうね。いちおう気にかけておいてくれるかしら?」
「わかった気にしとく。」
「ほんと、あんたって結衣の事になると素直よね。」
今までの一連の流れを肌で感じた雫は、ため息を付きながらぼやく。
入学から一向に気を出さない隼人だが、結衣の事となると何度か感情を面に出す事があった。
雫としてはここまでオーバーなモノは要らないものの、この十分の一でもいいので日常的にやる気を出してほしいと思っていた。
「そんなことないだろ。」
隼人は特に気にした様子も無く雫の言葉を否定するが、誰がどう見てもそうとしか言いようが無かった。
「も~2人とも遅いよ~」
「悪い。」
「すぐ行くわ。」
結衣をハブってコソコソと話していた2人は、遠く先を歩く結衣の声でハッとして前を向く。
結衣がオーバーな動きで早く来いと手を振っており、隼人と雫はお互い顔を見合わせて結衣の方へと駆け寄る。
雫は秘密の話が出来なくなった事に対して思うところはあったが、今回は仕方ないと諦めた。




