入学
家族会議後、2人の人生は大きく変わり始めた。
隼人は珍しくやる気をだし、近所の道場に入門。めきめきと実力をつけて同世代では敵なしというところまで成長。
トレーニングも毎日やり、早起きして柔軟とランニング・筋トレがが日課となった。
結衣は母親の料理上手が遺伝したのか、すぐに危なげなく包丁を振るうようになった。
特にお菓子作りに凝っている。
そして月日が経ち、小学校を卒業。
2人は親につれられて頻繁に会って居たのだが、特に家が近い訳ではなかった為、中学校の学区が違っており小学校を卒業したら別の学校へと進学する。
12才ともなれば皆が若干ながら男女の性について意識し始めており、ずっと一緒に居たら周りから変な誤解を受けてからかわれた事もあった。
2人は若干のわだかまりを残したまま別々の道へと進んでいった。
そして結衣は親友の雫と出会い、隼人はボッチの道を歩んでいく。
さらに時は流れて、高校の入学式。
隼人が桜舞い散る校門を抜けて学校の奥へと歩いていく。
クラス分け見てから体育館で入学式をおこなうらしいので、先にクラス分けを掲示している場所を目指す。
「あれ~?隼人もこの学校だったんだ~!」
キョロキョロと辺りを見まわしながら歩いていると、後ろから聞きなれた声がかかる。
声の聞こえた方を振り向くと、成長した幼馴染が手を振りながら走ってくるのが見えた。
約3年ぶりの再会だ。
中学の3年間で2人ともかなり成長していたが、物心ついた時から一緒に居た2人は一瞬見ただけでその人だと理解する。
「結衣か、久しぶりだな。」
結衣は隼人までの少しの距離を走っただけだが追いついたところで膝に手を当てて呼吸を整えている。
隼人は、相変わらず結衣の運動音痴は健在かと思い顔がほころぶ。
「そ~だね~小学校以来だね~」
呼吸を整えた結衣は、久しぶりの再会にテンションが上がったのか身体を起こしてこれ以上ないくらいの笑みを浮かべる。
別れの時は若干ギクシャクしていたものの、一番距離を取りたがるような年は過ぎ去った2人は再会の喜びもあいまって元の状態に戻ったように軽い挨拶をする。
「だな。そっちの人達は?」
少し喋ったところで、結衣と一緒に登校してきた2人が追い付いてくる。
「えっとね~中学校で友達になった雫ちゃんと光輝君で~す。」
結衣は自慢でもするかのように2人を隼人に紹介し始める。
幼少期から隼人以外の男の子には一定の距離を保っていた結衣だが、普通に光輝と接している事に隼人は一瞬だけ喜びと悲しみを混ぜたような顔をする。
「一条雫よ。よろしく。」
「橘光輝だ。」
「石田隼人だ。」
結衣以外のメンバーが一通り軽く挨拶をかわす。
「隼人はクラス分けも~見た~?」
「今から見に行くところだ。」
「じゃ~一緒に行こ~」
「そうだな。」
普段は後ろをついていくタイプの結衣に先導されて4人は軽い雑談をしながら歩いていく。
クラス分けを掲示している場所に着き、各々がバラバラになって掲示板の自分の名前を探し始める。
隼人は自分の名を見つけてクラスの名簿をざっと見てみると、結衣・雫・光輝の全員の名前を見つける。
「やった~みんな一緒のクラスだね~よろしくね~」
全員が同じクラスだと理解した結衣が、両手を上げてオーバー気味に喜んでみせる。
それを見て、全員から笑みがこぼれた。
「にぎやかになりそうね。」
「そうだね。僕としては雫が居てくれると色々と楽で助かるよ。」
「何で初めから私に頼る気満々なのよ。」
「ま~ま~。楽しそうでい~じゃん」
雫と光輝のやり取りに結衣が割って入る。
「仕方ないだろう。アフターフォローが得意じゃないんだ。」
「控えめにしなさいよ。」
「そうしたいのは山々なんだけどね。」
雫と光輝が夫婦漫才と呼べるほどのやり取りを始め、結衣がいさめる。
隼人はそんな様子を眺めながら、きっと中学時代からこの三人はこういうやりとりを繰り返してきたのだろうと思い、置かれている状況に一抹の不安を覚える。
どれだけ控えめに言っても3人ともモテるであろうことは明白だ。しかも仲が良い、その中に凡人が入ると多方面からの嫉妬の眼差しはすごい事になるだろう。そしてそこには厄介事が降り注ぐに違いない。そうなれば平穏な学校生活は送れないと予想できる。
「これからは隼人も一緒に遊ぼうね~」
「・・・そうだな。騒がしくならない事を祈ってるよ。」
すでに隼人は結衣との係わりを絶つのは出来ないと諦め、ほどよい距離間で3人と接していこうと考えを巡らせる。
「それは難しいかもね~」
「・・・ですよね。」
隼人はどれだけ考えたところで答えは出ず、なかば諦め気味に肩を落として体育館へ向かって行く。
最初から隼人の望みは通じることなく、体育館に集まっている人達の視線が集まる。視線の先に居るのは光輝なのだが、結衣や雫もかなりの男性票を集める。そして、隼人に若干場違いだと言わんばかりの冷えた視線が刺さり、隼人のテンションが底をついた。
入学式で会場中が浮かれる中、1人だけ負のオーラを出している事以外は滞りなく進み、新入生代表の挨拶となる。
代表はもちろんと言わんばかりに光輝だった。光輝は何故この高校を選んだのかすら謎に思えるほどに圧倒した成績の人物だ。選ばれない理由が無い。
入学式も無事に終わり、教室で軽いミーティングを行って高校生活の一日目が終わる。
隼人はこれから関わる事になるであろう3人のメンバーが目立ち過ぎて、すぐにクラスどころか学校の中心になっていくであろう事実にどっと疲れを感じながら一日を終えた。




