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裏方の勇者  作者: ゆき
ユグドフレア編
179/186

暴走の爪痕

侯爵家の騒動が終わって数日、王宮内はあわただしく動き回っていた。


侯爵家の逮捕と崩壊。

隼人の最後の一撃によって文字通り侯爵家は破壊され、瓦礫の山と化した。


今回の騒動の主犯の侯爵本人とインカとドーラの三人?はインカを除いて死亡。残りのインカは逃亡という結末になり、情報が集まらず思い通りに調査が進まない。

詳細を知っている上層部は全員牢獄行きで、仕えていた使用人達も一時的に王宮で拘留中だ。拘留中と言っても普通に部屋を用意されて事情聴取されているだけなのでそれほど窮屈な生活はしていない。

そして最後に、『蒼炎の勇者』がいまだに目覚めていなかった。


隼人の身体は結衣の治癒魔術によってケガや火傷は完治することが出来たが、たまに身体の一部がノイズが走ったようにぶれる時がある。

誰も見たことの無いこの症状が隼人を目覚めさせない要因だと思われるが、見たことがない為に治し方がわからなかった。


勇者パーティーは勇者としての公務を最小限に減らし、空いた時間のほとんどを隼人の一早い回復の為に動いている。

レイラも同様にギルドと王宮を行き来して情報収集と看病を繰り返している。

しかし、どちらも難航していた。



一番精神的に参っているのは結衣で、事ある毎に隼人に治癒魔術をかけて治そうとするが、ケガや火傷が治った時点から進展していない。

ほぼ付きっきりで看病していて食事も必要最低限しか口にしていない為、少しやつれている。

そのせいもあって勇者パーティーにいつもの明るさはなく、王宮にもどんよりとした空気が漂っていた。


「結衣、ちゃんと食べないと本当に倒れるわよ。」

「大丈夫だよ~」


雫は隼人の隣のベッドで安静中。しかし、ベッドの周りには魔力暴走が引き起こした事件や事故の資料が散らばっている。

雫は剣で刺されながらも隼人の動きを見よう見まねで真似し、身体をよじってなんとか致命傷は避けていた。

結衣の異常な治癒魔術もあってすぐに動けるようになったが、念のため養生をとって安静。軽いリハビリをしつつ資料を読み漁り、いつも通りに皆にお節介を焼く。


そんな雫でも今回の結衣の落ち込みっぷりには手を焼いていた。


光輝は一人で出来る公務は全て引き受けて他の皆の時間を作り、杏華も取り乱しているが、光輝のサポートをしつつ時間を作っては雫と一緒に資料を読む日々が続く。


雫は基本ベッドの上なので結衣といる時間が長い。

空いた時間のほとんどを看病に当てる結衣をどうにかしたいと思いながらも、結衣の思いの強さを知って強く引き留められないでいた。


「隼人が目を覚ました時に何か言われるわよ。」

「必要な食事はとってるから~これはただのダイエットだよ~」

「そうは見えないのよ。隼人の事も心配だけど、私は結衣の方がよっぽど大切で心配なんだからね。」

「私も雫ちゃんの事大好きだよ~」


結衣は雫の方を見る事無く隼人の看病をしながら話を続ける。


「無理しないでね。」

「わかったよ~」


結衣は雫との話を終えて隼人の治療に専念し始めた。



「・・・はぁ。重症ね。結衣の事が大切ならさっさと戻ってきなさいよ。」


雫は何度も繰り返した結衣とのやり取りを終えて、半ば諦め気味に資料に目を落として結衣にも聞こえないようにそっと呟く。




夜の定例会議で、王宮とギルドを行き来していたレイラがついに情報を持って帰ってくる。

レイラは隼人の状況から詳しく知っていそうな人物にコンタクトを取っていた。


「ここ数日、ハヤト様の置かれている状況に詳しそうな人物を当たっていたのですが、やっと連絡をつけることができました。」


レイラの報告を聞いてその場にいる全員が『おぉー』っと感嘆をもらす。

わざわざその話をしたという事はいい手がかりを見つけたという事だと思い、皆から少し笑みが溢れる反面レイラの表情は険しかった。


「・・・あまり良い話ではなさそうだね。」


いち早くレイラの雰囲気を察した光輝が発言し、全員の表情が引き締まる。


「もし私の聞いた通りの症状であれば、状況はあまり良くないです。」

「それで、誰に何を聞いてきたんだい?」


動揺が走り固まる一同を代表して光輝が話の進行をうながす。


「情報提供者はSランク冒険者ヴァネッサさんです。話の内容は纏いの身体付加が限界時間を越えた場合の仮説です。」

「隼人が身体付加をしたと?」

「それってやっちゃダメって言ってたやつだよね~」


光輝達は、隼人がブチギレて制御できなくなった魔力が暴走し、その後の大爆発で自身を傷つけたという結論に至っていた。

しかし、身体付加をしたかもしれないという違いがどんなものになるのかは見当もつかなかった。


「私には速すぎて見えませんでしたが、戦闘の余波や戦闘後の症状を考えるとあり得ない話ではないかと思われます。」

「そうだと仮定した場合、隼人はどんな状況にあるんだい?」


ヴァネッサは特異体質と言えるほどに雷属性に異常な適性があり、纏いを身体に付加しても軽く雷の刺激がある程度で自身が雷で黒焦げになることはない。

そして身体付加した時、ヴァネッサの肉体は雷と同化して意思を持った魔術のような状態へと至る事が出来る。


「ヴァネッサさんの場合はあの状態に制限時間があります。ヴァネッサさん自身の体調にもよりますが、維持できるのは数分が限界だそうです。」

「確かにここぞという時に使っていたね。」

「その限界を超えると、肉体を元に戻せなくなると言っていました。」

「雷のままになるのか。」


光輝は肉体という枷を取り払う程の大魔術にリスクが無いのもおかしな話だと思っていたが、元に戻れないとなるとかなり使い勝手が悪く感じた。


「その通りです。もしハヤト様がさらに一歩踏み込んでいたら、元に戻る方法は無いかと思われます。」


光輝は顎に手を当てて考え込む。

隼人の症状と今の話を比べると、信憑性が高く思える。しかし、仮定の仮定という程度の話なので、最悪の可能性の一つとして考えておいた方が良いだろうと結論付ける。


「そんなこと無いよ。隼人は私が治すから大丈夫だよ。」

「結衣!まだそうと決まった訳じゃないから大丈夫よ!」


突然、結衣が立ち上がって涙ながらに訴え、涙ながらに会議をしていた部屋を飛び出していく。

雫の声も届かず、会議室は沈黙におおわれた。


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[一言] フィーレならあっさり治せるのだろうか
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