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裏方の勇者  作者: ゆき
ユグドフレア編
176/186

ヒーローは遅れてくる

「ぎりぎりセーフってところかな?」

「・・・。」


良いところで口上を止められた俺は、主人公の様に遅れて入ってきた光輝を怒りの眼差しで睨み付ける。

そんな俺の感情に対して光輝はヤレヤレといった表情でおどけて見せる。



俺と侯爵の間に張られていたウォーターウォールが崩れ落ち、水しぶきが散る。


「これはこれは勇者様、今は取り込み中なのですが、どんなご用件ですか?」


ウォーターウォールが消え去った事によって介入してきた人物を理解した侯爵が光輝に語りかける。


「侯爵邸で騒ぎがあると聞いたので加勢に来ました。」

「それはちょうどよかった。ここに居る賊の討伐に協力して頂きたい。」


侯爵は俺を指さして光輝の助力を願う。

その瞳には俺に対する嫌味な感情がこもっており、勝利を確信した様な表情で口元をゆがめている。


「デ・フィッセル侯爵。残念ながら今回加勢するのは貴方側ではありません。」


侯爵は光輝に対して助力を願ったが、その問いに答えたのは到着したばかりのリーゼロッテ王女だった。

どうやら相当急いできた様子のリーゼロッテ王女は、額に汗を浮かべながら息を切らしている。引き連れてきた数人の騎士もそれなりに身体が温まっている様子だ。

1人だけ涼しい表情をしている光輝は流石だと言わざるを得ない。


「・・・つまり王女殿下はそちらの賊に加担すると言っておられるのですか?」

「その通りです。今回の騒動については王宮にてしっかりと事情聴取させて頂きます。」


侯爵の強気な物言いにリーゼロッテ王女は一度呼吸を整えてからハッキリと答える。


「貴女にその権限があると?」

「もちろん私はお父様であるユグドフレア王の承認を得てここに来ております。ユグドフレア王国の意思として貴方に同行を求めさせていただきます。」


王族に詰め寄られても焦りの表情すら浮かべない侯爵に対してリーゼロッテ王女は決定的な言葉を口にする。

リーゼロッテ王女の独断であれば侯爵として今まで得てきた地位や信頼で何とかできたかもしれないが、国の判断ともなればたとえ侯爵出であっても無視することはできない。


「私を拘束することの意味をもっと考えられた方が良いと思いますが?」

「貴方を失う事による影響は大きいですが、野放しにしておく方が甚大な被害が出るという結論に至りました。」


リーゼロッテ王女達の到着が遅くなったのは国王の承認を得ていたからであり、侯爵の今後の対処も考えられている様だ。


「ここは素直に引くしかありませんね----」

「おやおや、騒ぎを聞きつけて来てみれば、ずいぶん悲惨な事になっておりますね。」

「職場が半壊。後片付けが大変そうです。」


国に捜査されてはどうしようもないと言った表情で侯爵が逃げる算段をつけ始めると、そこに新たな介入者が現れる。

介入者を見て光輝達が驚いた表情をする。確かにこいつ等は気配を消して入って来たけどそんなにも驚く事だろうか?


「丁度いいところに来てくれました。ドーラは撤退の殿を、インカは私を護衛しつつ撤退しましょう。新薬の実験が不十分ではありますが、仕方ありません。」


介入者の姿を見た瞬間に侯爵の顔がまた余裕の表情に戻る。


「その必要はありませんよ。」

「何----がっ」


インカと呼ばれた執事の様な男が侯爵の腹に指先を突き立てる。

ここに来てまさかの裏切りだ。

腹に指が突き刺さった侯爵はインカを睨みつける。


「データは少なくなりますが、ここで最終実験とさせていただきましょうか。」

「キサマ、裏切るのか。・・・があぁぁぁぁぁ!」


侯爵が絶叫し、先ほどの護衛達とは比べ物にならない量のドス黒い魔力の嵐が侯爵を包み込む。


「侯爵程の魔力の持ち主が限界の2倍以上のクスリを摂取した場合に何が起きるかを見て貰いましょうか。」


インカは無邪気な子供の様な笑みで侯爵の行く末を見守る。


「ぁぁぁぁ・・・」


魔力の嵐が収まり、変わり果てた侯爵が姿を現す。

肌は漆黒に染まり、逆に髪からは色素が抜け落ちたかの様に真っ白になっている。侯爵の周りを漂うドス黒い魔力の影響で、辺り一帯は重苦しく淀んだ空気に変えられてしまう。


「何とか失敗作にならずに済んだようですね。魔王程の魔力を秘めたこのサンプルを何と名付けましょうがはっーーーー」

「・・・」


状況を面白そうに語るインカを侯爵の成れの果てが無言で殴りつける。

異常な速度で放たれた侯爵のパンチはインカの顔面を消し飛ばし、頭を失ったインカは力なくその場に崩れ落ちる。

しかし、これで黒幕が居なくなったわけではなかった。インカだったモノの首から漆黒のモヤが噴き出し、辺りを漂う。


『クスリに込めた反抗出来ない契約は壊れてしまいましたカ。まさか一撃で肉体を壊されるとは思いませんでしタ。』


モヤはインカと同じ声で語りかける。どうやらこいつは人間ではなかったらしい。

侯爵の後ろには魔王が居ると思っていたのだが、当てが外れたかもしれない。

黒幕の正体がこんなモヤだと誰が思っただろうか?


「待ってくれ、貴方はハイゼンベルク公爵ではなかったのか!」


『それはそのカラダの元の持ち主デスヨ。ワタシはインカと名乗っておりまス。そんなことよりも、ソレが戦いたくてウズウズしてますヨ。』


誰だか知らないけど、光輝達はインカの正体?を知っていたようだ。そして、中身が違うモノになっていたらしい。

まだ何か話したそうにする光輝をよそに、漆黒のモヤは今にも襲ってきそうな侯爵へと意識を無むけさせる。


「チッ」


光輝は舌打ちをして漆黒のモヤから目を離し、侯爵と向かい合う。



「隼人~」


リーゼロッテ王女の到着からさらに遅れてやっと結衣と雫が到着する。

すごい緊迫していたはずなのだが、一瞬で空気がゆったりしたモノに変わる。


「2人とも来たのか。杏華はどうしたんだ?」

「杏華はアリア王女と一緒にここを狙撃できる高台にいるわ。」

「あー成る程。」


どうやら戦闘になると踏んでポジション取りを済ませているらしい。

結衣がここに来たのは少し心配だが、戦闘態勢が出来ているなら心強い。なんたって苦戦した化け物よりもかなり強そうな奴と戦う事になるのだから。


ハイゼンベルク公爵は第2章を参照してください。

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