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裏方の勇者  作者: ゆき
ユグドフレア編
174/186

勇者会議

隼人が戦闘している頃、王宮に取り残された光輝達は少し焦りながら緊急会議を開いていた。

光輝が隼人の置いていった研究日誌を読み、残りのメンバーはリーゼロッテ王女に隼人の事を教えている。


「そんな事になっていたのですか。」

「隼人が聖騎士の名を出す前に止めに入らなければいけません。」

「確かにユグドフレア王国の騎士と聖騎士様が剣を交えたと広まってしまえば、他国からの糾弾は免れられないでしょう。ユグドフレア王国としてデ・フィッセル侯爵を止めに入るのは問題ないのですが、侯爵を捕らえる理由が弱いですね。その漆黒の魔石というモノがが侯爵邸あっただけでは喩え王族が動いたとしても言い逃れるのは容易です。何か決定的な証拠がないと事態を終息させられません。」


リーゼロッテ王女は顎に手を当てて考えながら呟く。

デ・フィッセル侯爵は地位も権力も資金力も全て兼ね備えている。資金力に関しては最近の新薬による恩恵が大きいが、それに付随するように他の力もつけていて容易に逮捕できるような存在ではない。

侯爵の人脈を使って逃げ道を用意している可能性も大いにあるだろう。


「それは大丈夫だよ~」

「なぜでしょうか?」


結衣が珍しくリーゼロッテ王女の考えを斬り捨てる。

リーゼロッテ王女は、普段からおっとりしている結衣がハッキリと否定したことに驚いて少し厳しい顔をしてしまう。


「隼人がわざわざここに来たからだね~」


結衣はリーゼロッテ王女にひるもせずにのほほんとした様子で意味不明な断言をする。

「それで通じるのは私達だけよ。」


結衣のマイペースな返答に頭を悩ませながら雫がツッコミを入れた。


「どういう意味でしょうか?」

「私たちに会いたいなら~多分コッソリ忍び込んでくるよね~」

「隼人さんなら本当にしそうで恐いすわね。」


結衣はリーゼロッテ王女の質問に答えているようで答えていない返答をして、杏華もそれに乗っかる。


「それはそれで大問題なのですが、公に来たからといって何が変わるのでしょうか?」


リーゼロッテ王女は忍び込むというワードに驚いて若干オーバーなリアクションをとる。


「正式に依頼できる内容だと言うことだと思います。やる気の隼人は事態を終息させるためならば使えるものは何でも使います。侯爵捕縛の正当性や事後処理の為にユグドフレア王国側にも話を通しておいた方が良いと判断したのだと思います。つまりはユグドフレア王国に動いてもらえるだけの証拠が研究日誌にあるという事です。」

「要するに、隼人は勇者と王国騎士が使えると判断したわけだね。」


雫の意見に賛同するように、読んでいた研究日誌から目を離した光輝が放しに参加する。

どうやらすべて読み終わったようで、光輝の硬くなった表情から内容のすごさがうかがえた。


「何かわかったのですか?」


リーゼロッテ王女が意を決して光輝に問いかける。


「結論から言うと、漆黒の魔石の精製方法から新薬の効果と隠された副作用まで書いてあったよ。」

「精製ってコレを人工的に作れるっていうの?」


雫は漆黒の魔石を刺激しないように気を使いながら持ち上げてまじまじと見つめる。吸い込まれそうなほどに真っ黒で鈍く輝く魔石は人工物である様には思えなかった。


「記述からすると自然発生の方が少なそうだよ。それに、条件がそろえば簡単に精製出来そうなのが問題だね。」

「どんな条件なのですか?」


誰もが光輝の話にくぎ付けになり、話が漆黒の魔石の方へとどんどん進んでいく。


「魔力が満ちていて負の感情がたまる場所だね。そこに核となる魔石があれば条件がそろう。後は負の感情が魔石に流れていくように誘導してやれば完成みたいだよ。そこまで大掛かりな施設も魔術も必要なだそうだ。」

「確かに自然にその条件を満たすのは大変だけど、魔術で陣を描いてしまえば人工的な精製自体は本当に簡単そうね。」


場所さえ見つけてしまえば誰にだって精製可能だという事実に誰もが息をのむ。

もし作り方が世に出回ってしまえば、混乱を収めるのは非常に困難だろう。


「そして、この日誌には伝聞の様な形で精製方法が書かれている所から書かれているんだ。恐らく作り方を教えた何者かが後ろに控えているだろうね。」

「それってまさか。」


真っ先に雫がその答えにたどり着く。


「恐らく魔王が絡んでいるだろうね。アンデッドロードもゴルゴンロードも漆黒の魔石を使っていたし、こんな研究をしているのがこちら側だとは思いたくない。」

「そうね。」

「それで、新薬の方はどんなモノなのでしょうか?」


雫が光輝に同意し、リーゼロッテ王女は認可した責任からか新薬の本当の姿について詳しく聞く。


「簡単に言ってしまえば、新薬は漆黒の魔石から狂化するエネルギーを抑えた物のようだね。」


魔術で漆黒の魔石から狂化するエネルギーを抑え、魔石にある膨大な量の魔力を身体の中に取り込み自身の力として運用する。それが新薬の正体だった。


「そんな事可能なの?」

「新薬自体は王宮でも成分を調査しています。そのような恐ろしいものではなかったはずです。」


王国は新薬が危険なモノでないかを検査しているが、その時は何も問題無かった。薬の成分が未知の魔石だった為に危険物として引っかからなかったのだ。


「勿論材料は漆黒の魔石だけではないよ。精神力や集中力を上げるのに良いモノを混ぜて薬にしている。ただし、魔力の増加に関しては魔石の力がほとんどだろうね。」

「魔石をそのまま飲むなんてことをしたらタダではすみませんよ。」


この世界の常識として魔石は食べ物ではない。魔石は小さい物でもかなりの量の魔力を有しており、人体に取り込むと魔力が暴走して最悪死ぬケースまであるのだ。


「そのとおりだね。個人の許容量を超えて摂取すると、魔力が暴走して抑えられていた狂化のエネルギーが弾けてムスぺリオスで見たような化け物になってしまうみたいだね。体内に結構な量を溜め込む形になるからムスぺリオス以上の脅威になるだろうね。」

「治す方法は無いのですか?」


リーゼロッテ王女にとってムスぺリオスの惨劇は伝聞でしか知らないのだが、ほぼ無敵のSランク冒険者のレックスが負傷したなどという話はしっかり耳に入っている。

それ以上の脅威となる可能性があるかもしれないとなると、事前に防いで行かなければ被害は相当なものになるだろう。


「残念ながらここには治療法は載っていない。もっとも侯爵は治療方法を検証する気も無いんじゃないのかな?」

「いつ暴発するかわからないとなると、かなり危ない代物ですわね。」


誰もが杏華の言葉に同意して頷く。


「もう一つ厄介なのが、この薬の許容量が個人の魔力量に比例するってところかな。勿論使うのは魔術師がメインになるだろうけど、魔力量のある人が大量に摂取した時の危険度は計り知れない。」

「すぐに流通を止めないと。使用量を間違えた魔術師が世界中で化け物になってしまいます。」

「それもそうだけど、まずは生産を止めないといけないね。僕達は魔王が控えているかもしれないからという理由で、リーゼロッテ王女は新薬の違法性という理由で緊急で動けそうだね。隼人はその辺りまで見越してこの話を持ってきたんだと思う。1人では手に負え無さそうだしね。」

「そうね。」

「隼人が変な事を言う前に治めに行こうか。」

「じゃ~行こ~か~」


隼人の事となると若干動きが早い結衣が真っ先に立ち上がる。

後に続くように全員が立ち上がり、各々がやるべき事を理解して動き出した。

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