連絡2
翌日、約束通り門に向かうとちゃんと話が通っていて、明日の午後に時間を作ってくれたという言伝をもらう。
特例だとか無理して空けただとか色々と念を押されたが、そんな事を言われても困るな。
というか、コイツらが光輝のファンじゃないのか?ムダにテンション高いし。
そんな事を思いつつ、再びコソコソそ隠れながら、研究日誌を読んで明日を待つ。
内容はかなりヤバいモノだったので、光輝達にコンタクトを取ったのは正解だったと思う。
約束の時間が近づき、王宮の門をくぐる。
メイドに案内されて歩くユグドフレア王国の王宮は敷地は、アルカディアの王宮よりも広いようで、ガーデニングというよりも森に近い並木を抜けて、やっと宮殿にたどり着く。
宮殿内は使用人達が少しあわただしい様子で働いている。本当に忙しい時に時間を割いて貰ったのかもしれない。
もちろん王宮が忙しいのと勇者が忙しいのは別かもしれないが。
案内された部屋で待っていたのは、光輝・結衣・雫・杏華・アリア王女といういつものメンバーだ。
ユグドフレア王国の人が居ないのは忙しそうにしているからだろうか。
「君のほうから来るなんて珍しいね。」
「すごく面倒事な気がするんだけど。」
「ま~ま~。話を聞いてみないと~」
「そうですわ。怒るのはその後ですわ。」
あれ?なんか怒られること前提で話が進んでる感じ?
確かに面倒事を持ってきたが、いきなり憎まれ口を叩かれたり怒られる前提で話が始まるのはいかがなモノだろうか。
「色々あって手伝ってほしいんだけど。」
取り敢えず俺が至った答えから切り出す。ひとまず内容はどうでもいいので、手を貸せる状況なのかだけは聞いておきたい。
門番の言うところによると外出が出来なさそうなので、身動きが取れないなら取れないで俺がやる事だけ伝えてプランを練り直さなければならない。
「手伝うのは構わないけれど、僕達も立場上この国で勝手には動けなくてね。」
アリア王女と行動している手前、アルカディア王国の人間として扱われているのかな?
となると、今まではなんだかんだで要請があったから好き勝手やって来れたが、普通は他国で勝手な行動をとるのは無理という事だろうか。
「そもそも、そんな話なら持ってこないんじゃないかしら。もしそれが、私が思ってる物だったら動く理由になるわよ。」
雫が珍しく俺をフォローしてくれる。視線が俺の持っている本にいっているので、ムスぺリオスのクラリス第二王女みたいに雫には何か見えてるのかもしれない。
もしそうだとしたらなんだか相当パワーアップしてる気がするんだが気のせいだろうか。取り敢えずそっちには触れないでおこう。
「話が早くて助かるよ。」
俺は持っている本をみんなの前に見えるように置き、一緒に拝借した魔石と粉も並べる。それを見た瞬間、全員が漆黒の魔石に身構える。
「どこで手にいれたんだい?」
「デ・フィッセル侯爵家から拝借してきた。」
モノの出どころははっきり伝える。入手方法は教えないけど。
「勝手に持ってきちゃったの~?」
「・・・そういう事になるな。」
と思ったが、付き合いの一番長い結衣に一瞬で看破されてしまった。幼馴染おそるべし。
「・・・隼人。」
「・・・何だ?」
盗品と聞いて、雫が俺をすごい目で睨みつける。心なしか周りに黒いオーラが見えるのは気のせいだろうか?俺の魔力知覚のレベルが上がったと思いたいがきっと幻覚だろう。
「正座。」
「はい。」
オーラでいつもより一回り大きく見える雫のひと言に、俺は反射的に従ってしまう。
「ユグドフレア王国に来てからの行動を全部教えなさい。」
「そうですよ。下手したら国際問題になります。」
ここでアリア王女も俺のバッシングに参戦してきた。はたして俺は生きてここを出られるのだろうか?
威圧する2人に委縮しながら事のあらましを要点をかいつまんで説明していく。中盤から雫がこめかみを押さえ始め、話し終わるころにはアリア王女が頭を抱えていた。
「バカじゃないのかしら?」
「事後処理をどうやってすればいいのでしょう。」
雫は呆れ、アリア王女はブツブツと何かを呟いている。
「よく捕まらなかったね~」
「普通に犯罪ですわね。」
「逃亡犯なのに、よく指名手配されていないな。」
残りの三人はなんだか平和そうだそっち側に行きたい。
俺だって話しててバカみたいな状況になってることは再認識している。
不敬罪から始まって、脱走・暴行・不法侵入・窃盗等。日本でも逮捕される犯罪のオンパレード。中々の無茶苦茶っぷりである。
「丸く収める方法は一応考えてある。」
この針のむしろのような状況から逃げるには俺のしてきた犯罪をひっくり返すだけの何かが必要だ。盤面をひっくり返すようなプランが欲しいところではあるが、まずは堅実に行くしかないだろう。
「嫌な予感氏かしないのだけど、一応聞いてあげましょうか。」
「取り敢えず、侯爵家は犯罪者だからこのままユグドフレア王国に報告して逮捕してもらう。子爵に関しては勇者パワーで何とかする。以上。」
侯爵の物的証拠はすでにこちらにある。後は残りの資料を隠される前に乗り込めば現行犯で捕まえるしかないはずだ。
「それはまた、簡単に言ってくれるね。」
「言うのは簡単でも実行するのは大変よ。」
「だからお願いしに来たんだろ。」
勇者パワーで何とかしてくれよ。
「無理です。侯爵の件は漆黒の魔石の所持で事情聴取くらいは出来るかもしれませんが、入手経路に問題があります。貴方の犯罪行為は帳消しに出来ません。子爵についても、勇者の名は捕まる時に出しておくべきでした。後から出されても一蹴されるのがオチでしょう。」
「勇者の称号は意外と使えないな。」
チヤホヤされるだけの称号なのか?自由に外に出られないとかデメリット多すぎだろ。
「犯罪を無かった事にするって、使い方が悪いのよ。」
確かに勇者パワーで犯罪を帳消しにしたら印象が悪いな。
「聖騎士の名前を出したらひっくり返さるのか?」
「結論から言わせて貰えば可能でしょう。しかし、事後処理はもっと大変になりますよ。ユグドフレア王国はアルカディア王国ほどではないですがディアーナ様の信者が多くいます。そんなところでディアーナ様の名前を出してしまったら、ウワサは瞬く間に広がって侯爵と子爵へのバッシングがすごい事になります。貴方もうかつに動けない立場になるでしょうね。」
「今後が穏便には進まなくなるのか。子爵の話は後から考えるとして、やっぱり公爵の方はユグドフレア王国の騎士を動かしてでも止めたい。」
漆黒の魔石関係で勇者が動くと言えば、きっと騎士たちも手伝うよう動いてくれるはずだ。そうでなければ他国から叩かれることになるかもしれない。
「掛け合っては見ますが、先ほども言った通り犯罪者として捕えるのはは難しいですよ。」
「それで構わない。」
俺としては婚約を解消できればそれでいいからな。
話しがひと段落着きそうになったところで、部屋の扉をノックされる。
「失礼します。」
入って来たのは身なりの良い女性。流れからすると王女様だろうか。
「リーゼロッテ様、お忙しいのにすみません。」
「構いませんよ。そちらがハヤト様ですね。」
リーゼロッテと呼ばれた女性は俺の方を向いて笑顔を向けてくれる。こんな責められてる状況なので、かなり心が安らいだ瞬間である。
「冒険者の隼人です。よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしく願いします。わたくしはこの国の王女、リーゼロッテ・ユグドフレアです。以後お見知りおきを。勇者ハヤト様。」
すでに俺も勇者だと教えてたんですか・・・




