連絡
一方その頃、隼人は王宮の正門に来ていた。
「止まれ!何者だ!?」
正面から堂々と近づいていくと、門番をしている騎士に止められる。
勇者が来ているからなのか、元々なのかはわからないが、若干ピリピリした様子で騎士は俺に対して武器を構える。
「怪しい者ではないから武器をおろしてくれ。」
「それで、何者だ?」
俺は両手を上げて戦意が無い事をアピールすると、騎士は武器を下ろすことなくゆっくりと俺の方に近づいてくる。
さすがに警戒し過ぎじゃないのか?
「俺は隼人、Sランク冒険者だ。」
俺は一度騎士に断りを入れてからポケットに手を突っ込み、奴隷商から取り返した唯一の持ち物であるギルドカードを取り出して身構えたままの騎士に渡す。
騎士は出て来た金のギルドカードに驚きつつも、偽物でないかの確認を入念にし始める。
まぁ、Sランク冒険者が増えたなんて話はまだ届いていないだろうし、疑うのは当たり前なんだろうな。
「・・・本物のようだな。だが、Sランク冒険者が増えたなどという連絡は入っていないが?」
「最近仲間入りしたんだよ。」
やはり情報は門番までは入って来ていなかったらしい。
「それで、そんなSランク冒険者様が何のようだ?」
「中にいる勇者に連絡を取りたい。」
「なんだ、勇者様のファンか。生憎と勇者様はお忙しい身だ。たとえSランク冒険者の頼みであってもそれはできない。」
ファンじゃねーよ。
即答で断られるのも、光輝のファンと思われるのもなんだかむかつく。
しかし、ここで門番と喧嘩してもなにも良い事は無いので、イラつく感情を押さえて下手に出る。
「そんなこと言わずに頼むよ。」
「ダメなものはダメだ。貴様のようなファンがいるから勇者様は気軽に外へ出られなくなっているんだ!」
門番からすると俺はファンで確定してしまってらしい。というか、光輝達は今そんな事になってたのか。ドンマイだな。俺は別行動で良かったよ。
「最悪は俺が来たことを伝えてくれるだけでいいんだけど。」
俺が来たことを伝えてくれさえすれば何とかなる。
俺がわざわざこんな所まで会いに来るなんて普通はありえないから、来た事が伝わりさえすればきっと何かしらの返答があるはずだ。
「何があろうとも勇者様との面会は出来ない!帰れ!」
「この国のためにもなる話を持ってきたんだけど。」
もう何を言っても無駄だろうけど、取り敢えず粘れるだけ粘ってみる。
ディアの言う通りに聖騎士の名前を使ってしまっては、後から出て来るであろう問題が多くなる。
出来るだけ穏便に済ませるにはユグドフレア王国の騎士に出て来てもらうのが手っ取り早いんだが、どうしようもなくなったら1人で何とかするしかない。
「くどいぞ!帰らないなら牢屋にぶちこんでやろうか?」
「それはちょっと困るな。」
光輝達には会えるかもしれないけど、またディアに怒られてしまう。
「わかったならーーーー」
「何を騒いでいるんだ?」
門の前で騒いでいると、門番たちの上司なのだろうか?奥から少し豪華な鎧をまとった騎士がやってくる。
「隊長!申し訳ございません。この男が勇者に会わせろと言っておりまして。すぐに帰らせます。」
「まぁ待て、勇者様に会いたい理由は?」
隊長と呼ばれた人物は、門番の持っている俺のギルドカードを見てから少し考えて、俺にも意見を聞いてくる。
隊長は大して驚きもしなかったので、上層の人たちにはすでにSランク冒険者の話が届いていたのだろうか?
「敵味方が解らない状況で話すことではないので控えさせて貰います。勇者には隼人が早急に会って話がしたいとだけ伝えてください。」
「王宮内に敵が居るとでも?」
隊長は王宮の人間すら疑ってかかる俺を睨みつけるが、仕方ないだろう。侯爵の知り合いとか子爵の知り合いとかに見つかったら大変なんだから。光輝達と会うどころか指名手配されてしまうだろうさ。
「それはわからない。」
大丈夫、嘘は言っていないはずだ。侯爵のヤバい地下からするともしかしたら本当にそんな人が居るのかもしれない。
なんとなく誤魔化しておくけれども・・・
「残念ながら勇者様は予定がつまっている。すぐには無理だな。」
隊長は更に何かを考えるそぶりをして頷く。
「つまり、伝えてくれると言うことで良いのですか?」
「伝言くらいしかできないがな。」
「十分です。」
後は光輝達の迅速な行動に期待するしかない。最悪どうしようもなかった時の事も考えておかなければいけないけど、まぁ何とかなるだろう。
「連絡を取るにはどうすればいい?」
「明日また来るのでその時にお願いします。」
俺は逃亡生活の為に宿なんてとっていないので、来てもらう事なんて出来ない。すぐさま来ることを選択する。
「わかった。」
「じゃあ俺はこれで。」
隊長をどこまで信じれるかはわからないが、何とか光輝達に話が行きそうで安堵する。
俺の望んだ結果とまではいかないが、及第点だろう。
隼人が去って行った後、門番は隊長に話しかける。
「あんな約束して良かったのですか?」
「取り敢えず伝えるだけだ。相手が王族ではないから正式な手順もいらないし、もしかしたら本当に知り合いで大事な用事かもしれない。後は勇者様の判断に任せるしかないだろう。」
「確かにその通りですね。」
Sランク冒険者ともなれば、それだけである程度の信頼を置ける存在だ。無下に扱う訳にはいかない。王族目当てで来たのならばもちろん有無を言わさず叩き返されるが、今回は目的が勇者なので本人に聞いてみるしかない。
「それに、わざわざSランク冒険者と事を構えなくても良いだろう。恩は売れる時に売っておくものだ。」
隊長に伝わっている話では、隼人はアルカディア王国出身であり、勇者と面識がある可能性が高い。突き返して問題になるよりも多少怒られてでも話を通してしまった方が被害は少ないし、その際の言い訳はいくらでもできる。
「わかりました。」
「勇者様には私の方から伝えておく。お前達はそのまま門番の仕事を続けろ。」
「はっ!」
隊長は門番の肩をポンポンと叩いてから王宮内部に戻って行った。




