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裏方の勇者  作者: ゆき
ユグドフレア編
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侯爵の策

翌朝、侯爵邸では使用人たちも巻き込んで全員が右往左往とする大騒ぎとなった。

門番の飲酒騒ぎに始まり、巡回警備の行方不明。巡回警備の二人はすぐに地下で見つかったわけだが、そこで襲撃があった事が発覚する。


「それで、この侯爵邸に賊が入ったと?」

「はい。大変申し訳ございません。」


門番、と警備の4人に対して、公爵は眉を寄せて怒りをあらわにしながら尋問、もとい聞き込みを開始する。


「何を取られた?」

「判明しているのは研究日誌を一冊だけです。それ以外は調査中です。」


4人を代表して1人が侯爵に起きた出来事を説明していく。

隼人が魔石や粉と一緒に持って行ったモノは、新薬の生成過程から薬物投与実験の研究日誌だった。

魔石や精製した新薬はある程度量がある為、少しくらい拝借しても気づきにくい状況であったが、研究日誌は一冊しかないので無くなればすぐにわかる物だ。

明るみに出れば間違いなく問題になる本ではあるが、内容が内容だけに一般人が持っていても証拠として信用できるものではない。

侯爵としての信頼がある分、相手が何と言おうと世迷言として握りつぶせるものである。むしろ不敬罪でそのまま真相を闇に葬ることだって可能だ。


「賊の目的が本一冊というわけではあるまい。新薬周辺の物を取られたと見て間違いないな。」

「・・・はい。」


盗難を避けるために、材料の在庫はちゃんと把握できるようになっている。何がどれだけ取られたかはすぐに把握できるだろう。

侯爵は一巡し、自分の中で軽く状況を整理してから今後の行動を指示する。


「インカ、賊が何者であれ正体を突き止めて確実に殺せ。」

「はっ!」


支持を受けた執事は、護衛の中でも諜報に長けたメンバーを集める様にほかの執事に指示を出し、元の定位置に戻る。


「それとお前たち、賊程度にやられる兵は侯爵家に必要ない。地下に閉じ込めて新薬の糧としよう。」


侯爵は今回へまをした4人に向き直り、今回の処遇を伝える。

その瞬間、4人全員が冷や汗をかきながら絶望の顔を浮かべる。


「もう一度チャンスをください!」

「どうか、お情けを!」


4人は全員一目散に土下座をして、頭を床にこすりつけながら近い気を免れようと侯爵に縋りつく。


「ならん!ドーラ、コイツらを地下へ連れていけ!」

「はい。」


大の男が涙ながらに訴えるも、侯爵は意に介さない様子で近くの者に命令する。

4人は何を言っているのかもわからないくらいボロ泣きしながらインカを中心に近くに居た使用人たちによってに引きずられて部屋を退室していく。


泣き喚く声が聞こえなくなってきたところで、侯爵はインカに話しかける。


「子爵の言っていた虫の仕業だと思うか?」


侯爵は今回の事件で一番怪しいと思われる人物の予想を立てる。


「おそらくそうかと思われます。」


侯爵は公の場では至って真面目で、自分の仕事の妨害をしてくるような人物を作るような真似はしていない。

今回の新薬のビジネスで他の上級貴族から嫉妬されているかもしれないものの、相手が貴族であればこんなにフットワークの軽い動きはしないだろうと予想をたてる。

となれば、子爵が言っていた虫とやらが一番怪しいのだが、その場合の犯人はユグドフレア王国の者ではない可能性が高い。探すのには苦労するだろう。


「まったく、面倒なことをしてくれる。」

「しかし、これで子爵を責める口実ができました。」


侯爵は一つため息をつくが、反対にインカは面白いおもちゃを見つけたと言わんばかりにニヤリと笑う。


「あの娘をもっと有利な条件で手に入れることができるだろうな。」

「楽しみですね。」


いままで新薬の実験をしてきた被検体は、お世辞にも質が良いとは言い切れなかった。被検体のほとんどは犯罪奴隷や違法に拉致してこられた少女であり、侯爵自身が実験に夢中で被検体に十分な健康管理をしてこなかったためだ。

健康・成人・十分な魔力量がそろった被検体は早々現れない。それに加えてレイラはハーフエルフである為、多少躾が過度であっても誰も文句を言って来る事は無い。

まさに完璧な人材であると言える。子爵も今回の盗人の事件が自分たちの不始末となれば、文句を言う事はほとんどないと予想できる。

インカは今後の策を考える主をよそに、すぐそこまで迫った未来に胸を躍らせる。


「その前に、この話に寄ってくる虫をどうにかしなければいけないのだがな。インカ、護衛達だけでなくお前にも動いてもらうぞ。」

「勿論ですとも。」

「子爵に連絡して話を早めてもらう。それを餌に虫を一網打尽にするとしようか。」


侯爵は考えた作戦をインカに共有する。


「ご自分を囮にされるおつもりですか?」


流石のインカもこの発言には驚く。式を無茶苦茶にされる事が解りきっているからだが、一瞬考えてインカも賛成する。

賊が今回の話の破談を願っているのであれば確実に来るだろう。来ると解っていれば対処は比較的楽なものである。

もし来なくても、式が終わった後でゆっくり腰を据えて戦えばいいだけの話である。式だけでも終わらせるメリットは確実にある。


「警備の戦力は最大限に上げて式に臨むとしよう。」

「それがよろしいかと。」


式の話をここにいる2人で次々と決めていった。

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