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裏方の勇者  作者: ゆき
ユグドフレア編
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潜入

難なく屋敷内に侵入し、捜索を開始する。

人に見つからないように物陰に隠れつつ、捜索でヒットした人物をしらみつぶしに当たっていく。

いくつか重なってヒットしている住み込みメイド達の寝室や深夜作業をしている部屋を当たってみるも空振り。

数人外したところで、徘徊している当たりの人物を発見する。


「・・・むぐぅ。」

「静かに。聞きたいことがあるから付いてきてくれ。」


俺は背後から忍び寄り、口をふさいで小声で囁く。

メイドはコクリと頷いたので、そのまま人気のなさそうなバルコニーへと連れていく。


「ここなら大丈夫か?」


ずっと密着しているのもあれなので、叫ばれないように警戒しつつもメイドを開放する。


「貴方達はなんなのですか?私の邪魔をして楽しいのですか?」


殺されるとでも思ったのか、俺の意図を理解してくれたのか、さわぎにならないように小声で俺に聞いてくる。

恐らく後者だろうな。すごい勢いで睨まれてる。


「なんだと言われても返答に困るな。ただ、あんたの邪魔をしてる訳じゃないから気にするな。俺は俺の都合で動いてるだけだ。」

「それで、夜中に女性を拉致してどうするのですか?人を呼びますよ?」


ごもっともである。

穏便に事を運ぶためにはこれしかないと思って行動していたが、言われてみると人攫いと変わらない動きをしているな。


「それは困る。まず、手荒な真似をしたことは謝罪しよう。あんたには協力してほしいんだ。」

「私は侯爵家に仕える身です。他を当たってください。」


有無を言わさず否定される。まぁ、いきなり出て来た不審者を信用しようとする人の方がおかしいので正常な反応といえるのだが、話に乗ってきてくれないとこの人の事も気絶放置させるしかなくなってしまうので何とか避けたいところである。


「自殺しようとするところまで追い込まれてるのに、そこまでする義理は無いだろ。」

「貴方に何がわかるのですか?」

「何もわからんけど、あんたは脱走出来なくなるほどの何かを知っていて、どうしようもなくなって秘密を抱えたまま自殺を計ったってのが俺とレイラさんの見解だ。だから取り引きをしたい。」

「そんなことは出来ません。侯爵様と対立すれば、逃げる事なんて出来ません。」


しないではなく出来ないというのがネックだろうか。自殺未遂から考えると人質を取られているという線は薄い。となれば、死んだほうがましな運命にあるという方が濃厚だな。


「権力がの問題なら安心していいよ。俺のバックに居る方にかかれば侯爵なんて一ひねりだから。国とか教会が動くかもね。」

「嘘はたいがいにして欲しいですね。」


・・・普通は信じないよね。

頑張れば本当に動くと思うんだけど、どっちを使っても事後処理が面倒くさい。流石に今回は使わなければいけない場面が出てきそうだが。


「そもそも、なぜそこまでされるのですか?」

「・・・理由は二つある。まずは、自分の周りに居る人が困っているのら力になってあげたいって事だな。」


日本人としてこの良心は忘れてはいけない気がする。必要に駆られないとやらないけど・・・


「その為にこんな事までするのですか?」

「まぁな。次に、さっきも言った後ろに居る方が最近ご立腹でね。主に俺の所為なんだけど、ここらで大勝利を飾っておきたい。丁度よく表れた悪者の侯爵をパフォーマンスでボコすのは仕方のない事だ。」


確かに。よくよく考えると、良心だけで公爵に喧嘩売るとかぶっ飛んでるよな。

まぁ、乗りかかった船だという事と、ディアとフィーレの名誉の為にも侯爵には尊い犠牲になってもらうしかない。

恨むなら黒幕の馬上さまを恨んでくれ。俺だって怒られたくないんだ。


「・・・頭がおかしいんじゃないですか?」

「自分で言っててもそう思う。そこで取引だ、国と教会がついているバカの提案に乗ってくれれば、あんたを功労者として助けてやる。事が終わった後は、そのコネを使って何とかしてやろう。」


さっきから思っていたが、このメイドは考えた事が素直に口から出てしまうタイプらしい。頭おかしいという暴言の部分をしれっとバカに変換しておく。

助けるといった手前、こいつがメイドとしてどれだけ出来るのかはわからないが再就職の斡旋先を考えなければいけない。

まぁ、俺が頼れる所といったら王女様かオルコット卿辺りに頼み込んで雇ってもらうしかないだろうな。最悪女神パワーで教会にぶち込もう。


「・・・何をすればいいのですか?」


半信半疑ながらも、メイドは協力を申し出てくる。まぁ、実行犯でなければ疑われても知らぬ存ぜぬで通るだろうし、内容を聞いてから逃げる考えているのかもしれない。


「ちょっと教えて欲しい事があるだけだ。主に侯爵の秘密、販売しているモノの正体と製造方法。」

「・・・わかりました。」


そして、メイドは深呼吸してからゆっくりと口を開く。

教えてくれた情報は大きな犯罪といえるものではなかったが、メイドや奴隷、妾に対する折檻と体罰。対立して捕えた者への度を越した拷問。それらを楽しんでいる癖といったところだ。

販売しているモノの正体は相変わらず不明ではあるが、拷問している地下で作っているらしい。

まぁ、怪しいとしか言いようがないが実物を見ない事には何とも言えない状況だ。


「ちょっと地下に行ってくるか。助かったよ、えーと、そう言えば名前を聞いて無かったな。」

「セシルと申します。」

「俺は隼人だ。じゃあ、セシルはいつも通りの生活に戻ってくれ。レイラさんの件を片付けるついでに助けに来る。」

「期待せずに待っております。」


そこは期待していてほしいのだが、どうやら最後まで毒を吐き続けてくれるらしい。だが、最初と比べると幾分か表情が柔らかく感じる。多少は信頼を得る事が出来たのだろうか?とは言っても最初が最悪なのでこれ以上落ちようがない状況だったのではあるが・・・



俺はセシルを帰して教えてもらった地下へと向かって行く。

特に誰かに会う事も無く、地下への侵入が成功する。

まず気になったのが地下の臭いだ。血や腐臭、吐瀉物や胃液の刺激臭が鼻を襲い、幾人かのうめき声の様な者が聞こえてくる。


「最悪の地下だな。」


換気が出来ないので仕方ない部分もあるのだろうが、ここを見るとマジで子爵の地下牢は天国だったと言えよう。

今度またお礼を言っておこう。

薄暗い地下を警戒しつつ進み、牢屋のエリアにたどり着く。


「・・・」


人間やエルフや獣人、多種多様な人達が縛られ、拷問にあっているようだ。

体は痣や傷で血まみれになり、正常な部分が見えない。寝ているのか死んでいるのかも判らないが、起きてうめき声を上げている連中の目からは生気が完全に失われている。



そんな牢屋のエリアを通り抜けて、ついに地下生産場へとたどり着く。


「趣味悪いな。」


牢屋を改装して作ったであろう地下生産場の壁には拷問器具が立ち並び、床は良く解らない魔術の陣があちこちに書かれている。

部屋の奥にはポツンと机が行かれており、調剤器具と思われる道具が一式と理科の実験で使っていそうなフラスコやビーカーを組み合わせて作った機械。後は紙とペンと本が数冊。


「取り敢えず怪しいところが机だけなのは助かるな。」


俺はそう呟いて机に向かって行く。


「何でここにこんなモンがあるんだよ。」


真っ先に見つけたのは漆黒の魔石。

恐らく材料である魔石と、機械の先にある完成した物であろう真っ黒な粉。


「俺一人ではどうしようもないスケールになって----」


きたな。と言おうとしたところで、後ろからの歩いてくる音に反応する。


「やっぱりここは匂いがダメだ。獣人にはキツ過ぎる。」

「シッ!扉が開いているぞ。」

「なに!?」


警備の巡回だろうか?2人いる声の主は、警戒しつつ気配を消して近づいてくる。

俺は聞こえてくる声に意識を集中しつつ、急いで魔石と粉を紙で包み、すぐ傍にあった本に挟んで服の中にしまい込む。

そして、ゆっくりと気配を消して入口へと向かい、逃げるタイミングをうかがう。


「行くぞ。」

「おぅ」


聞こえてくる突入の合図に合わせて、攻撃を叩き込む。


「「へぶ!」」


ガシャン。


警備の2人が倒れる音がしてしまったので、俺は一目散に地下を出て屋敷の外へと駆けだした。

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