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裏方の勇者  作者: ゆき
ユグドフレア編
165/186

脱走2

さわぎを聞きつけた使用人たちが慌てて外へと駆けつけてくる。ここでの増援はあまりうれしくない事態だな。

使用人たちに気を取られていると、横から魔術の発動兆候を感じ取る。


「おっと失礼。」


俺に死角から魔術を発動しようとしていた子爵に突撃して、空いた方の手錠をかけて腕を捻り上げる。

手錠がかかった事によって子爵も魔術が発動できなくなり、発動前の魔術が砕け散る。


「ぐっ」


子爵は腕を捻りあげられて苦悶の声を上げ、俺を睨みつける。

偏見だが、エルフの得意科目は中遠距離のはず。この状態で負ける事はほとんどないだろう。それに子爵とくっ付いていれば使用人たちも俺に手出しは出来ないだろう。

もちろんマンガとかでよく見かける超人執事や超人メイドが居なければの話だが・・・

俺は警戒して周りを見まわすが、使用人たちは俺を囲んで武器を構えるも、子爵が人質になっていてどう対処すればいいのか迷っている様子。

どうやら子爵は超人を飼いならして居ないようだ。となれば、子爵と直接交渉して平和的に外に出してもらうのが良いだろう。


「変な動きをしたら腕をへし折る。出来れば傷つけたくないから動かないでくれ。」

「貴様。」


俺は言葉を発しながら軽く関節を極めると、苦悶の声と共に子爵から怒気を孕んだ声が返ってくる。


「言いたい事はわかってくれると思うけど、手錠の鍵をくれ。」

「・・・わかった。手錠の鍵を開けろ。」


こんな状況下でも淡々と言葉を発する俺に、子爵は早々に諦めて使用人たちに指示を飛ばす。

手錠の鍵を持っていた見習いくんが来て、俺の方を先に開けてくれる。


「いや~助かったよ。」


俺は手錠によって付いた手首の跡を擦りながら、奴隷商人に向かって歩き出す。


「ふんっ。引っこ抜けば良かっただろ。」

「痛いから嫌だ。」


子爵は手錠を外して貰いながら俺を睨み付けてて嫌味を言ってくるが、やるわけがない。

引っこ抜く代償に親指脱臼してんだぞ。嵌めたイコール完治でもないし、使い勝手は悪い。

両手が使えないとキツいから苦肉の策で使った技なんだが、いつでもどこでも使える変人と思われたくないな。


「・・・ひっ。い、命だけは。」


俺が近づいてきた事によって、奴隷商人は尻餅を付いて後ずさる。


「何もしないって。ギルドカードを返してくれ。あと、金借りるね。」

「わ、わかった。」


腰を抜かしたままの奴隷商人から俺のギルドカードを受け取り、隣に落ちていた俺の購入資金であろう巾着袋から金貨を貰っていく。


「子爵、金貨二枚借りたから返しといて。ついでに言いたい事の3つ目なんだけど、ループスとマジックバッグは預けとくから、今度この立替金と交換してね。」


俺は、奴隷商人からかってに借りた金貨を子爵に見せて、悪いことはしていないと証明する。


「素直に従うとでも?」

「これは善意で言っておくけど、もし売り払ったら後悔することになるよ。」


ループスは仲間だし、マジックバッグもフィーレが強化してくれたものだ。何かあれば、全力で取り返しにいかなければいけなくなるだろう。その後で子爵がどうなるのかは考えたくも無い。


「お前を指名手配してこの王都で生き延びれなくしてやろうか?」

「あんたはそんな事をするタイプじゃないだろ。」

「何?」

「色々と考えたんだが、あんたは外聞を結構気にするタイプだ。やられたらやり返すよりも、先ずやられるなんて言う汚点を作りたくないんじゃないのか?だとすれば、魔術の使えない俺に御自慢の護衛達が全滅させられたという事実は隠しておきたいだろうな。」

「わかったような口を利く。」


俺が子爵の立場なら隠蔽に走る。貴族社会の事は詳しくないが、捕えていた人物に逃げられたとあっては面目が立たないだろうし、他の貴族に舐められるかもしれない。


「まぁ、これは憶測の話だからどうなるかは知らんが、もし正解ならば俺は指名手配よりも暗殺に気を付けるべきなんだよ。Sランク冒険者を暗殺できる奴がいればの話だけど。」

「・・・」


子爵は俺の推論を聞いて苦虫を噛み潰したような顔で押し黙る。どうやら正解の様だ。話も終わった事だしこの辺りで撤退させてもらおう。これ以上長居するとまた戦闘になるかもしれない。

俺は子爵に背を向けて出口へと歩き出す。


「いろんな方面に手を打っておくから、せいぜい頑張ってくれ。」


後ろ向きに手を振る俺に対して子爵がやけくそ気味に魔術を放ってくるが、俺は振り向きもせずに頭を傾けて魔術を避ける。


「チッ。」


子爵の怒りをよそに、俺は子爵邸を後にした。




「さて、残された時間はそう多くないな。」


俺をどうしようも出来ないとなると、向こうはレイラさんの結婚を早める方針に切り替えるかもしれない。

急いでいるのが子爵だけなら問題ないのだが、侯爵側も急いでいるとなると残りの時間はわずかと言っても過言では無いだろう。ここはゴリ押しで止めにかかって行った方が良いかもしれないな。


「今夜、侯爵邸に侵入するか。」


俺は独り呟いて、念のために身を隠しながら夜を待つ。




深夜、身を隠しながら侯爵邸の前に立つ。


「デカいところだな。ガサ入れも大変だ。」


子爵邸もそれなりに大きい建物だったが、ここは子爵邸の倍くらいの広さがあるんじゃないだろうか。

正面ゲートには門番が左右に1人ずつ立っており、怪しい者が居ないか目を光らせている。


「行くか。」


俺は気合を入れて、音も無く走り出す。

極限まで気配を消しながら門番の片方に近づいて、額にデコピンを放つ。鎧通しを使ったでこピンによって、門番は脳震盪で意識が途切れて崩れ落ちる。


「おい、どうしt----」


片方の門番が倒れた事に気が付き、残りの方が声をかけるも、言い終わる前にデコピンによって昏倒した。


「クリア。」


俺は何となくスパイ映画で見るセリフを呟き、カモフラージュとして買っておいた酒瓶を2人の口にツッコミ、空き瓶を転がしてから侯爵邸の中へと侵入する。

目標としては、メイドに会う事と、黒いであろう侯爵の商材を掴む事だ。メイドに関しては捜索の魔術と勘だけが頼りなのでほとんど運だが、最悪犯罪になる証拠が出てこれば何だっていいので怪しいところをしらみつぶしで回っていくとしよう。


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