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裏方の勇者  作者: ゆき
ユグドフレア編
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脱走

翌日、奴隷商が子爵邸に来るのに会わせて俺は牢屋から外に出される。魔術を使えなくするという手錠をかけられて、建物の外まで引っ張られる。

魔術の使えない牢屋はまだいいが、正直こんな手錠が存在するなんて知らなかったので、手錠を外さない限り真っ向から逃げるのは不可能だろう。


「御大層な護衛だな。」


俺の引き渡しの為なのかは知らないが、子爵と使用人見習いの他に4人の武装したエルフが俺を囲んで少しの間待機させられる。

大盾を持った大男と、両手剣の熱血そうな剣士、唯一女性の弓術士に爽やか系のイケメン魔術師といったところだろうか。一番面倒そうなのは盾だな。

全員が統一された感じの鎧を着こみ、いかにも子爵の騎士といった装いである。統一された感じというのは、役職や性別で少しづつ仕様が違うからだ。


「お前が変な事をしないようにだよ。」

「・・・そうか。」


これだけ厳重な警備をすれば逃げないと思ったのだろうか?まぁ、普通はここまでしなくても逃げないんだけど。


「本当に逃げ気でいたなら残念だったな。」

「・・・」


取引場所が外なのも、もしかしたら俺の脱走からの戦闘を考慮しているのかもしれない。信用されてないな。まぁその通りなんだけど。


「雑談はそこまでにしておけ。」

「失礼いたしました。」


ずいぶんと良くしゃべる使用人見習いに、子爵が待てをかける。特にしゃべりたい気分でも無かったので、止めて貰えて助かった。

後は逃げる算段とタイミングを計るだけである。



予定の時刻になったようで、小太りの男が護衛を引き連れて姿を現す。こいつが奴隷商人なのだろう。

護衛は、盾持ちの片手剣使いと槍使い、魔術師の計3人が増える形となった。


「彼が今回の奴隷ということで宜しいですかな?」


少し話した後、2人はやっとこちらを向く。奴隷商は俺を品定めするように視線を何往復化させる。


「あぁ、高ランクの冒険者だ。相当過酷な労働環境でも耐えるだろうさ。」

「それは素晴らしい。子爵様にはいつもお世話になっておりますので、色を付けさせてもらいますよ。」

「いくらでも構わん。」

「いえいえ、出来る限り勉強させていただきます。」


取り入りたい奴隷商側と、さっさと売り払いたい子爵側で譲り合いの様な話し合いをしているが、結局は奴隷商側がおれて相場程度の金額に決まったようだ。


「最後に言いたいことでもあるか?」

「・・・そうだな、3つあるが先に2つだけ言わせてもらおう。」


死に際に遺言を残させてくれるかのように、子爵が俺の言葉を聞いてくれる。丁度いいタイミングなので、ここでかっこよく決めて脱走するとしよう。


「ほぅ?」

「1つ目は、投獄生活が想像以上に快適だった。飯もそこそこ美味かったし悪くなかったな。」

「貴様が痩せこけていては売るときに困るだろう。」


拷問とか無かったし、食事もそれなりの量があった。どうやらそこには子爵なりの考えがあったらしい。もしかしたら照れ隠しで言っているのかもしれない。まぁ、おっさんのツンデレは需要ないんだけど。


「・・・なるほど。2つ目は、この辺りでトンズラさせてもらおうと思う。」


言葉を言い終わると同時に、近くに居た大楯の頭を蹴り飛ばす。


「がっ!!」


完全に油断していた大楯使いは蹴られた衝撃で数メートル吹っ飛び、何バウンドかして脳震盪で立ち上がる事は出来なくなる。


「貴様っ!」

「はぁ!」


子爵が状況を理解して怒気を孕んだ言葉を吐き捨てると同時に、剣士の一撃が俺へと振り下ろされる。


ガシャン


俺は剣士の渾身の振り下ろしを手錠の鎖で受け止める。


「・・・想像以上に頑丈だな。」


残念ながら鎖は切れる様子も無かったので、鎖を剣に巻き付けて引っ張り、体勢の崩れた剣士の鎧に蹴りを叩き込む。


「ぐふぅ」


鎧通し。鎧内部で衝撃が弾け、剣士は胃の中のモノを吐きながら前のめりに倒れる。

その瞬間、後ろからの殺気に反応して振り向くと、矢が俺の胸めがけて飛んで来ていた。俺は振り向きざまに矢を避けつつ、矢の腹に軽く触れて軌道をそらす。


「・・・っ!」


俺を通り過ぎた矢は、後方にいた奴隷商の護衛の槍使いの肩口に刺さり、痛みに声を漏らす。

今だ動揺している奴隷商の護衛達を尻目に、魔術の詠唱をしている子爵の護衛に向かって走り出す。


「・・・っあ・・・ぐっ。」


魔術師の横を走り抜け、すれ違いざまに手錠の鎖を魔術師の首に引っ掻けて絞め落とす。子爵の護衛は後1人。

奴隷商側は槍使いが負傷しているが、魔術師が回復させているのですぐに戦線に復帰してくるだろう。

俺は子爵側の護衛を先に片付けるべく、残りの弓術士に向かって走り出す。

走ってる間に飛来する矢を掴み取って投げ返し、バランスを崩したところへ鎧通しを叩き込む。


さて、子爵側の護衛はすべて片付いたので、奴隷商の護衛達へと目を向ける。


「・・・」


少しの沈黙の後、片手剣士が動き出す。先ほどの戦いを見ていたからなのか、十分な距離を保ちつつ槍使いと連携で俺に攻撃を浴びせる。

手を封じられた状態の俺は、手錠の鎖を巧みに使って何とか攻撃を凌いでいく。

時間をかければ騒ぎを聞きつけた子爵の護衛の増援が来るかもしれないので、背に腹はかえられず奥の手を使う。

俺は魔術師の攻撃の爆発に乗じて距離を取り、右手で左手の親指を根元から掴んで関節を外す。

さらにその勢いで、手錠を掴み力任せに左手の輪っかを引き抜いた。


「・・・っ」


脱臼の痛みと、手錠を無理に引き抜いた痛みで声が漏れるが、激痛を気合でねじ伏せて護衛達に向き直る。

どうやら全員がドン引きしている様だ。俺だってこんな事やりたくなかったさ。


相手が呆けている今がチャンスだ。

俺は剣士の方へと縮地を使って走り出し、いまだに信じられない顔をしている剣士に向かって外腕刀、通称ラリアットを叩き込んだ。ついでといわんばかりに戻ってくる衝撃で外した親指を嵌める事に成功する。

剣士は1回転半して地面に頭を叩きつけて気絶する。


「はっ!」


治癒したばかりで本調子とは言えない槍使いの刺突を難なく受け止め、魔術師の方へと投げ捨てる。

投げられた槍使いは詠唱に夢中になっていた魔術師と激突してきりもみしながら転がる。

これで護衛達は全部片付いた。


後はこの手錠をどうするかだな。

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