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裏方の勇者  作者: ゆき
ユグドフレア編
162/186

侯爵

隼人が勾留された翌日、レイラとフランクはデ・フィッセル侯爵邸に来ていた。


「レイラ、昨日の事は無かった事にしてやる。くれぐれもデ・フィッセル卿に失礼のないようにな。」

「・・・はい。」


控え室でデ・フィッセル侯爵家当主であるドミニクス・デ・フィッセルの準備が整うのを待ちながら、フランクはレイラに釘を刺す。

そんなフランクの威厳のある言葉に、レイラは渋々頷く事しかできなかった。


「昨日も言ったが、お前とて子爵家の末席に名を連ねる者だ。貴族としての幸せはこの先にある事はわかるだろう。」

「・・・はい。」


フランクはそれが貴族の義務であり当然であるかのようにレイラを諭し、言質を取っていく。


「あの男の事はさっさと忘れる方が賢明だ。」

「・・・」


レイラはフランクの言う忘れろの意味について考えるが、処断か犯罪奴隷という末路しか思い浮かばない。

もし本当に会えなくなるのであれば、その後の自分がどうなろうとも隼人だけは牢屋から逃がす算段を立てる必要がある。

険しい顔をして考え込んでいると、控室のドアがノックされる。


「失礼します。旦那様のご準備ができましたので、こちらへどうぞ。」


案内役として入ってきたのは1人のメイドだった。


「・・・貴女はーーーー」


そのメイドを見てレイラは目を見開く。入ってきたメイドは先日王都に入る前に出会った女性だったからだ。

レイラは一瞬固まり、メイドもレイラに気が付いて目を伏せる。


「どうした?行くぞ。」

「・・・はい。」

「失礼いたしました。すぐにご案内いたします。」


フランクの声に、2人はハッと我に返って普段通りに動き出した。

長く永遠にも思える廊下を通り抜けてドミニクスの居る部屋へとたどり着き、メイドが一拍置いてからドアをノックする。


「子爵様をお連れしました。」

「入れ。」


すぐに侯爵の返事があり、ドアを開けたメイドを置いて2人は部屋の中に足を踏み入れる。中に居たのは侯爵であるドミニクス本人と、執事とメイドが1人づつ。


「失礼します。娘のレイラをつれて参りました。」

「子爵殿の迅速な行動には言葉も出ないな。」


フランクの言葉に、ドミニクスがニヤリと笑ってフランクに視線を投げかける。


「光栄です。他でもないデ・フィッセル卿の申し出に、可能な限り急いだ次第です。」

「素晴らしい心がけだ。」

「ただ、1つだけお耳に入れておきたい問題がございます。今回の一件で邪魔な虫を捕えております。取るに足らない些細な問題ですが、相手は虫です。他にも涌いてくる可能性がありますのでご注意を。」


ドミニクスは一瞬険しい顔をしたが、すぐになにかを思いついたかの様に嗤う。


「面白い。私の花の周りを飛び回る事がどういう事なのかを教えてやろうではないか。新薬の実験にもなるしな。」


レイラは自分の事を私の花などという表現をされている事にも気を止めずに考える。

デ・フィッセル侯爵家が目覚ましい発展をして居るのはその新薬のおかげだろうが、普通の薬であれば、もっと世間一般に認知されていてもおかしくはない。情報が規制されている以上、良からぬ何かがあるかもしれないと。


「それは、どういう薬なのでしょうか?」

「レイラ。お前が気にするような話ではない。」


レイラの詮索にすかさずフランクが止めに入る。わざわざ余計な話をしてドミニクスの不興を買う必要は無い。


「構わないよ。私が開発したのは一時的に精神力を向上させる薬だ。平常心を保ちつつ集中力を上げるものだね。主に魔術師や飛び道具を使用する人達の支えになるだろう。」

「能力を一時的に向上させる薬は効果がきれた時のリバウンドが問題になりますが?」


身体能力を一時的に上昇させる薬はすでに存在している。しかし、一般化していない理由は反動があるからだ。


無理矢理動けるようになった体は、薬の効果がきれると同時に反動で動けなくなってしまう。なので、前衛職の最終手段としてしか使用されない。


しかし、後衛職用の強化薬となると、土壇場で使うようなものではない。使用するのであれば、初手か決め手の二択だろう。つまりは最初から作戦に組み込む必要性が出て来る。

文字通り魔術師を使いつぶしていく戦いになってしあうだろう。


「副作用はほとんどないよ。多少の倦怠感と感情の高ぶり程度で時間を置けば治るし異常が残る事も無い。何より冒険者ギルドにも認められている。」

「そうでしたか。差し出がましい事を言って申し訳ありません。」


レイラの不安とは裏腹に、反動は小さく後遺症も残らないようだ。

しかし、レイラは心のどこかでそんな都合のいいものは存在しないと思うのだった。


「君は私のモノになる人物だからね。主人の事業を知りたがるのは悪い事ではないよ。」


それから少しの間他愛もない会話が続き、ドミニクスが取れていた時間が来たという事でお開きとなった。


「子爵、引き続き虫から私の花を守ってくれたまえ。」

「無論です。」


レイラはドミニクスに会釈だけして部屋を出る。来た時と同じメイドに案内されて子爵家の馬車に乗り込む。



「お父様、案内していただいたメイドに少しお礼を言ってまいります。」

「必要ない。」

「私が嫁ぐ家のメイドですので、多少は印象を上げておかなければいけません。」

「すぐに済ませろ。」


レイラはフランクにもっともらしい理由をつけて、メイドの所に駆け寄っていく。




「貴女に1つ質問があります。侯爵家に使えるメイドが、なぜ死にたがっていたのでしょうか?」

「貴女には関係ありません。」


レイラとしては気になっていた疑問の解消。侯爵家のメイドという格式高い職業でなぜそんな暴挙に及ぼうとしていたのかを問いかけるが、メイドはレイラの質問にたいして表情を変えずに答える。


「私もこの家の一員になる予定なのですが、それでもですか?」

「はい。」


断固として譲らないメイドに、レイラは質問を変える。


「最後の質問です。自殺したくなるほどの何かがあるという事で良いですね?」

「・・・」


メイドは一瞬だけ目を反すも、すぐに元の表情に戻った。しかし、それを見逃すレイラではなかった。

レイラは、それが本気だったのかわざとだったのかまでは判断がつかなかったが、目を反らしたという事はやましい何かがあると確信した。


「沈黙は肯定と受け取ります。それでは、案内ありがとうございました。」

「・・・」


レイラはそう言い残して馬車に乗り込む。

その後ろ姿を見ていたメイドがどんな表情をしていたかも知らずに馬車は子爵邸へと走り始める。

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