受け取り
「なんだ、ハヤトも来たのか。」
「俺が来たら問題でもあったか?」
着いたとたんにカサリがぶっきらぼうにそんな事を言う。俺だって来たくて来ている訳ではない。なぜか強制的に連れて来れれたんだ。
というか、先に客になったのは俺だろうに。やっぱりこいつもなんだかんだで男よりも女性客の方が嬉しいのだろうか?
「ねぇよ。お前さんなら好きにしてて良いさ。」
「じゃあそうするよ。」
そう言ってカサリは杏華を連れて奥の部屋へと入って行く。どうやらライフルの最終調整をして引き渡しのようだ。
おれは、特にやる事も無いので、カサリに言われた通り工房を見て回る事にする。
「触って壊すなよ。」
「そんなことするか!」
職人の工房を一通りグルっと見たり、店内の武器も手に取ったりして時間を潰していたが、本格的にやる事が無くなってしまう。
仕方ないので、杏華の調整を見に奥の部屋に入って行く。
新しいライフルを杏華が試射してはカサリが微調整をする。そんな事を何度か繰り返し、お互いが納得したところで最終調整が終わった。
「お待たせしましたわ。」
そして、杏華の満面の笑みである。
「新しいライフルの調子は?」
「最高ですわ。試作機では壊れそうでしたので本気で撃てませんでしたが、これなら問題なく全力を出せそうですわ。」
杏華は嬉しそうにライフルを抱えて頬ずりまでしている。ちょっとそのテンションについていけない。
そんなハイテンションな杏華とは裏腹に、俺はライフルを与えてよかったのか良く解らなくなっていた。
「あぁ、あれで全力じゃなかったんだ。」
「もちろんですわ。それに、新しい空のマガジンも貰いましたし、撃てる弾を増やしますわよ。」
杏華は、スポ魂マンガばりに瞳に炎を灯して拳を握る。お嬢様、そんなキャラじゃなかったでしょ。
杏華のハイテンションという名の暴走は少しの間続き、素に戻った時に少し恥ずかしそうににしていた。
「じゃあ、帰るか。」
「そうですわね。」
カサリに残りのライフルの代金を一括で払い、少し小さくなった杏華とカサリの店を出る。
2人ともこの後に用事は無く、ゆっくり歩きながら王宮へと向かって行く。
「そういえば、結衣さんのお店をご存知ですか?」
「知ってるよ。行列のできる店だろ。」
王宮に行くためには貴族区画を通る事になる。結衣の店は少し脇にそれれば見えてくるはずだ。
「ご存じとは意外ですわね。」
「まぁ、色々と。」
おととい行って来たばかりなのだが、ここは何も言わないでおこう。言えばきっと追及される。
「では、行きますわよ。」
「えぇ~。」
三日連続で結衣の店のスイーツである。
美味いし種類も豊富だからいいんだけど、毎日食うもんでもない気がする。
「嫌ですの?遅刻した隼人さん。」
杏華が足取りの重い俺を煽り始める。どうやら杏華本人が行きたくて仕方ないらしい。
「遅刻はしてないだろ。まぁ、杏華が行きたいなら行こうか。」
「はい。」
興奮のあまり、杏華は俺の手を取って足早に店に向かって歩き出す。
わざわざ店に行かなくても、結衣に頼めば作ってくれると思うんだけどな。まぁ、喫茶店は半分雰囲気を楽しむような場所でもある訳だし、王宮で食べる物とは一味違うのかもしれない。
今日も行列に並び、やっとのことで席に案内される。相変わらずの繁盛っぷりだ。
パフェ・焼き菓子ときたので、今日はケーキにした。
ラインナップが豊富なので、何度来ても違う物が食えるのは良い事だが、ここのパティシエは過労で死なないだろうか?非常に不安である。
「隼人さんはなんでこのお店をご存じだったのですか?」
「ついこの間来た----」
・・・あ。
「どなたとですの!?」
俺は慌てて口をふさぐも、俺の声が聞こえてしまった杏華は俺につかみかからんとする勢いで相手が誰かを効いてくる。
「1人で来たという選択肢はないのか?」
「絶対にありえませんわ!1人で来たら確実に目立ちます。隼人さんならば、そんな場所にわざわざ来る事は無いはずですわ。それに、1人で来たなら今の言葉を堂々と言い切っているはずですわ。さぁ、誰と来たんですの?」
素晴らしい名推理だ。杏華は探偵になれるんじょないだろうか?俺としては、こんなところでそんな一面を見せて欲しくなかったのだが、バレてしまっては仕方ない。
「・・・今回の依頼人とです。」
諦めて全部吐く事にする。
「依頼人は女性なんのすわね?」
「ハイ。」
「む、(やっぱり依頼を止めてもらった方が良いかもしれませんわね。)」
杏華が急に険しい顔つきになる。
元々キツめの顔つきだが、険しい顔をするとかなりの迫力だ。もちろん悪い意味ではないのだが、俺はここから生きて帰れるのだろうか?
「何か問題でも?」
「危険ですわね。」
「ルーも居るし、安全は確保していくつもりだぞ。」
ふざけた事を考えていたら、急に心配され始める。
ループスに乗っていけば確実に次の町には到着できるので、何も問題が起きなければ、野営する事無く町から町へと進んで行けるだろう。これ以上安全な航路など無いはずだ。
「そうではありませんわ。これは一度王宮に戻る必要がありそうですわね。(雫さんに相談してみませんと。)」
「そうか。」
杏華は考え込んでブツブツと独り言を言い始める。
そんな杏華を、安全に王宮までエスコートして長い一日が終わる。




