Sランクの心得
スイーツを完食し、紅茶を飲んで一息つく。
何やかんやで俺はレイラさんを直視できず、チラッと見た限りではレイラさんも若干頬を染めて気まずそうにそわそわしているようだ。
「そ、そう言えば、昨日のギルド長の呼び出しは何だったのですか?」
「あぁ、ランクアップだってさ。」
レイラさんはランクアップと聞いて目を見開いて驚く。
どうやらレイラさんにも俺のランクアップの情報は伝わっていなかったようだ。本当に良いタイミングだったのかもしれない。
「お、おめでとうございます?」
前回もそうだったが、レイラさんは喜んでいいのかわからない様子だ。
俺としては、ディアに著名化計画と言われた時点で無名でいる事は諦めている。
「もう普通に祝ってくれていいよ。Sランクは面倒だろうけど、これ以上ランクは上がらないし良くも悪くも気が楽になった。」
有名になれば面倒事が増えるだろうが、もしかしたら面倒事の方も俺のランクに気が引けて近づいて来ないかもしれないという淡い期待に賭けている。きっと無理だろうけど。
「それにしてもすごいですね。Sランク昇格まで最速記録じゃないでしょうか。」
「だろうな。俺ほど不幸に巻き込まれてる奴なんて他にいないだろ。」
大進行に魔王騒ぎが2回、その全ての戦場で最前線に居たんだからそうなるよな。
「そうですね。こう言っては何ですが、その為に召喚された方々ですので、仕方ない事かと思います。」
言ってしまえば勇者パーティー全員もそうなるのか。
まぁ、冒険者ではないので俺のようには悩む事の無いのだが、元から目立ちまくりの連中だから今の俺の方が幾分かましなのか?
「残りは全部光輝に行ってくれると助かるな。」
「どうでしょうか。」
魔王も面倒事も全部向こうに行ってほしい。光輝は主人公だからかなり役得なポジションに収まってるし、話の筋としてはそれが王道だろう。
すでに王族3人も婚約者についてるとか意味不明だろ。俺には1人もいないんですけど?
すごい大変そうだし、別に羨ましくも無いけどね。
「Sランクって何すればいいんだ?」
「特に決まっていませんよ。Sランクともなると基本的にどこかの国や貴族がスポンサーとしてついていて、大規模なクランを指揮していますが、ハヤト様の場合立場が立場ですので後ろ盾になれる相手が居ません。クランを作る気が無ければロレイさんのように自由に出来るのではないでしょうか?」
「それは気楽そうでいいな。」
団体行動すら向いていない俺が、リーダーシップを発揮するとか考えられん。
1人でで優雅に行動できるならそれに越した事は無い。
「ただし、先日の大進行のような場面では先頭に立って指揮する必要がありますし、王族勅命という断れない依頼が舞い込む可能性があります。」
「マジか。断れないのか?」
結局それなりの地位についたらやらなきゃいけない仕事は増えるのか。一度、誰かに指揮のとり方を教えてもらおう。
「後ろ盾が居れば、基本的にそちらを優先しなければいけないので、どうしても手が回らなければ断る事は可能です。ですが、ハヤト様の場合は恐らくどの国も平等に権利を主張されると思いますので、もしかしたらもっと恐ろしい事になるかもしれません。」
「それって一番大変なポジションにいないか?」
どこかの国についてたら回避できるのに、俺には使えないのか。フリーのSランク最悪だな。
「各国1人くらいはSランク冒険者が滞在していますし、騎士様もおります。よっぽどの事が無いかぎりそちらで対処してしまうかと思います。」
「何かフラグにしか聞こえんな。」
気を落とす俺にレイラさんが必死にフォローしてくれるも、もう俺にとってはフラグにしか聞こえない。
複数の国が前回のアトランティスのような状況になった時に俺はどれだけ戦場を引っ張りまわされる事になるのだろうか?考えるだけで頭が痛くなってくる。
「大丈夫ですよ。そもそもそんな大事件は頻繁に起こりませんし、たまたま近くに居たとか、たまたま巻き込まれたとかしない限り王族勅命を受ける事は無いでしょう。」
「だと良いけどな。Sランク昇格って大々的に発表されるのか?」
これ以上レイラさんにフラグを立てられないように話を逸らす。
Sランク冒険者はこの世界に十人ほどしか居ない冒険者のあこがれだ。権威を見せつけるためにパーティーを開かないといけないかもしれない。
「ギルドからは特に何もしません。ですが、Sランクに上がる方たちは大体クランを率いていますので、昇格祝いで大規模なパーティーをされる方が多いです。そうすると勝手に広まっていきますし、ギルドカードを出せばわかってしまうのでやる必要も無いかと。」
「じゃあ俺はコソコソとしていよう。」
お偉いさんにばれていても、気配を消して静かに黙っていれば面倒事に巻き込まれないかもしれない。
「わざわざSランクを隠そうとするのはハヤト様だけだと思います。」
「性分なんだよ。」
俺はなんとしてでもSランクがバレないように動こうと思った。




