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裏方の勇者  作者: ゆき
ユグドフレア編
152/186

喫茶店

店を出て、俺とレイラさんは貴族街側のオシャレな商店街を散策する。

冒険者が集まる酒場の騒がしさも嫌いではないが、1人でいる事の多い俺にとって静かな町を歩くのは割と好きだったりする。


「何の人だかりだ?」


そんな中、小洒落た店に行列が出来ているのが目に入る。


「ハヤト様はご存じではなかったのですね。最近オープンした喫茶店で、勇者様方の世界のスイーツを提供するお店です。店内飲食から持ち帰りまで出来て、最近話題になっている行列必至の人気店ですよ。」

「アイツら、そんなもん作ってたのか。」


町の景観を損なわない程度に新しくリフォームされた外装。看板には『Le cafe de YUI』と書かれている。なぜフランス語?勇者のと言うよりも完全に結衣の店だな。

店内飲食スペースは元より、店の外にも広がったテラステーブルも満員状態だった。

店内入り口とは別に設けられた持ち帰り用の窓口にも人が並び、ショーケースには色とりどりのケーキや焼き菓子が並んでいる。

確かにここまで見た目からこだわったお菓子は見てこなかったが、どこの世界でもこういうのは女性にうけるようだ。


「他にも肌着や衣服のデザインも持ち込まれています。もちろん貴族向けの高級品になりますが。」

「マジか。」


いろんな事業起こし過ぎじゃないですか?生産チートまで手に入れたら手が付けられないな。



「レイラさんは時間と胃袋に余裕はある?」

「大丈夫ですが、もしかして並ばれるのですか?」


俺はレイアさんに確認をとると、レイラさんは意外そうに並ぶのかを聞いてきた。この世界の男は甘いものは食べないのだろうか?

レイラさんの胃袋に余裕が無ければ、ディアとフィーレの差し入れ用にショーケースに見えるマカロンらしき物体だけでもゲットして帰りたい。と言うか全種類コンプリートしておきたい。


「嫌だったらいいんだけど、ちょっと寄っていきたい。男一人だと入りづらいからな。」

「行きましょう。」


即答だった。レイラさんもデザートは別腹タイプなのだろうか?率先して進んでいき、列の最後尾に並ぶ。


「レイラさんは甘いもの好きなのか?」

「好きです。その、ムシャクシャすることが多々ありますので、食べると忘れられますし。」

「あ~成る程ね。」


ふと思った質問をぶつけると、さらっとそんな答えが返ってくる。レイラさんも立場上苦労することが多いのだろう。

十中八九ガイアス絡みだろうが、俺がムシャクシャの要因に入っていない事を切に願うばかりである。


「ハヤト様も甘いものはお好きなのですか?」

「好きと言うよりも、ここの看板に書いてある結衣が幼馴染みなんだけど、結衣がお菓子を作っては食せてくるから結構食べる習慣があるな。美味いから良いんだけど。」

「そうですか。」


結衣は料理関係がかなり上手い。昔から作っては俺を味見係として利用していた。

最初は持ち前の運動音痴で器具を落とわ壊すわでかなり酷く、味も色々と材料を間違えるせいで食べれるようなものではなかったのだが、なぜか料理の腕前だけは上達が早かった。

結衣が持って来てくれるお菓子は美味しかったので、特に嫌いになることはなかった。その名残か、一般的な男よりはスイーツを食う方だと思う。



他愛もない会話で時間が過ぎていき、ついに席へと案内される。

椅子に座ってメニューを開くと、軽食からデザートまで幅広い種類の料理が存在していた。

金額は見間違いかと思うほどに高い。まぁ、貴族相手に安く出す方がおかしいのだが、この価格設定でこの行列はさすがである。


「どれも美味そうだな。」

「パンケーキ?とパフェ?が人気みたいですよ。」


レイラさんの語尾に?が付いているので、パンケーキとパフェの存在を知らないのだろうか?


「元居た世界でも人気だったよ。」

「そうなんですね。では、私はこのベリーソースのパンケーキにします。」

「じゃあ、俺はミックスフルーツパフェにしようかな。」


普通のショートケーキからロールケーキやタルトといったものまで何種類ものケーキがあったが、ここはレイラさんの知らないモノを食べるべきだろう。



少しして、注文した品が運ばれてくる。

レイラさんの方は、大皿に乗った厚みのあるスフレのようなパンケーキにトッピングでベリーソースとバニラアイスの様なモノが添えられている。非常に映えそうな仕上がりだ。


俺の方は深みのあるグラスにキレイな層が出来たパフェで、トップにはソフトクリームが巻かれている。トッピングも豪華で色々なフルーツが突き刺さっていた。かなり完成度が高い。


「見た目からすごく可愛らしいですね。」

「時代の最先端だな。」


レイラさんは、パンケーキを切り分けて口へ運ぶ。口に合うか不安になって俺まで緊張してしまう。


「パンケーキはすごく柔らかいですね。それに、とても美味しいです。温かいパンケーキと冷たいアイスクリームがこんなにも合うとは思いませんでした。」


食べた瞬間、レイラさんは美味しそうに顔をほころばせて、少し興奮気味に感想をいう。


「あ~確かに、俺も初めて食べたときは結構な衝撃だったな。」

「ハヤト様のパフェの上のアイスクリームは何ですか?」

「ソフトクリームの事?」


確かにジェラートは在ったが、ソフトクリームは見た事が無かったな。もしかして、アイツらはソフトクリームの機械まで作ったのか?


「それはアイスクリームと何が違うのでしょう?」

「あ~、詳しくないけど形?」


結衣か雫辺りに聞けばわかると思うが、俺には違いがわからん。


「成る程。一口いただいても良いですか?」

「良いよ。はい。」


俺はレイラさんの方にグラスを差し出す。レイラさんは一瞬キョトンとして受け取ったパフェを食べ、返してくれる。

何だったのだろうか。しかし、その疑問は一瞬で解消された。


「ハ、ハヤト様もどうぞ。」


レイラさんはお返しにとパンケーキを切り分け、フォークですくって俺の方へ差し出した。


「え?」


俗に言う『あ~ん』であるのだが、いまいち状況が飲み込めずに俺はフリーズした。


「パンケーキはお嫌いでしたか?」


レイラさんは不安そうに聞いてくる。俺としては好き嫌いと言う状況ではない。さっきまでレイラさんが使ていたフォークを差し出されている。つまり、食べれば間接キスだ。

こっちの世界の人はそういうのを気にしないのだろうか?


「いや、いただきます。」


レイラさんをこのままの状態で待たせるわけにもいかずそう口走る。早まったかもしれない。

色々なモノがフラッシュバックして頬が熱くなる。しばらくレイラさんを直視出来そうなない。

せっかくのレイラさんの好意を無駄にするわけにはいかない。そう言い聞かせて何とかパンケーキを頬張る。


「美味しいですか?」

「あぁ。」


味なんて全くわからなかった。

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