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裏方の勇者  作者: ゆき
ユグドフレア編
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悩み

「ハヤト様。今日はわがままを聞いてくださってありがとうございます。」


レイラさんとの集合場所に行くと、時間前なのにもかかわらずすでに待ってくれていた。


「どうせ暇だったから、レイラさんの役に立てるなら喜んでいくよ。」

「ありがとうございます。では行きましょうか。」


集合して軽く挨拶をしたら、レイラさんの先導で歩き出す。


「どこに行くんだ?」

「前も一度行ったお店ですよ。あそこは個室なので落ち着いて話が出来ます。」

「なるほど。でもあそこって結構な高級店なんじゃないのか?」


レイラさんと行ったところと言えば、あの高級そうな店の事だろう。金額自体は全く分からないが、場所も貴族区画方面で個室の名店となれば、安いはずはない。


「静かに話すにはうってつけの場所ですし、それ以外の場所にはあまり詳しくないので。」

「そうか。」


確かに誰にも気を遣わず静かに話をするのにはあれくらいの店じゃないとダメだろう。もしかして、今からする話もかなり重要な話になるのではないだろうか?

俺はどんな話が出てきても狼狽えないように気を引き締める。



店に到着し、個室に案内される。他愛もない会話で料理が来るのを待った。

さすが高級店といった様子の見た目からこだわった料理が運ばれ、その美味しさに舌鼓を打つ。


「ハヤト様。その、今日来ていただいた理由なのですが。1つお願いがありまして。」


レイラさんは意を決したように深呼吸して気合を入れてから今日の本題を切り出す。


「今日の話は最近元気が無かった事でいいのかな?」

「・・・気づいていましたか。その通りです。その、お願いと言うのは。わ、私の婚約者になって欲しいのです。」

「・・・は?」


レイラさんの少し躓きながら紡がれた言葉を理解するのに、結構な時間を要した。

いや、恐らく言葉の意味は解っても、内容を理解しきれていない。俺の口からは変な声が勝手に漏れ、身体は動けずにいる。恐らくはたから見たらかなりのアホ面をさらしている事だろう。

そんな俺を見たレイラさんは自分自身が発した盛大な告白を思い返して、顔を一気に真っ赤にする。


「あ、いえっ。そ、その。ふり、ふりです。婚約者のふりをして欲しいのです。」


いつもの冷静なレイラさんからは想像もできない程のオーバーな身振り手振りで言い訳を始める。

そんな普段見れない慌てっぷりを見て、どこかへ飛んでいた俺の正常な意識が戻ってくる。


「・・・状況が全く分からんのだが、婚約者のふり?」

「そ、そうですね。すみませんテンパってしまって。まず、これを読んでください。」


全く顔にさす赤みが引いていかないレイラさんは、恥ずかしいのか少しうつむきながら封筒を俺に差し出してくる。


俺はその封筒を受け取って読み始める。家紋らしき豪華な蝋印や、上質な紙質からして、恐らくレイラさんの実家は貴族だ。内容は貴族の嫡男とお見合いをするといったような感じだった。

貴族のお見合いであれば、決まればそのまま結婚まで行ってしまうだろう。

貴族社会には詳しくないので良く解らないが、相手の爵位は格上だった場合、容易には断る事も出来ないはずだ。悩みはどう断るかと言ったところなのだろう。


「・・・つまり、結婚の話が上がったから実家に戻って来いという事か。」

「その通りです。そこに書いてある通り、私の実家は貴族です。政略結婚のような形で相手から交際の申し出があったのですが、出来れば断りたく思っています。ご迷惑かと思いますが、協力して頂けないでしょうか?」


レイラさんは少し暗い顔をしつつ俺に頭を下げる。


「良いよ。」


面倒事だが、悩む余地も無く即答する。

普段から世話になっているレイラさんの頼みなんだから断るなんて選択肢ははなっから存在しない。


「そうですよね。ユグドフレア王国まで行くのはたいへんですし----え?宜しいのですか?」


断られるとも思っていたのだろうか?レイラさんは珍しく俺の話を聞かずに自分の話を始めていた。


「良いよ。色々と心配事はあるけど、まぁ何とかなるだろ。」

「こう言っては何ですが、ハヤト様ですよね?別人ではなく。」


レイラさんに顔をのぞき込まれながらかなり失礼な事を言われる。


「即答したのがそんなに不自然か?」

「すみません。恐らく断られるだろうと思っておりましたので。」


まぁ、普段の俺からするとそう見えるのかもしれない。俺がやるかやらないかの違いは、いまだに結衣くらいしか理解してないのでレイラさんには意外だったのだろう。


「確かに面倒事だろうけど、レイラさんのお願いだからな。それに、レイラさんが居なくなったらギルドで俺の面倒を見る人が居なくなっちゃうだろ。これは俺の為でもある。」

「ありがとうございます。自分で言うのもなんですが、かなり面倒事だと思いますよ。」

「何?断って欲しいの?」


何故か頼んでる側が食い下がり始めて、良く解らなくなってくる。

レイラさんらしいと言えばレイラさんらしい状況だ。恐らく他人に迷惑をかけるのが嫌なのだろう。そんなレイラさんの頼みだからこそ受けるわけなんだが。


「そんな事はありません。」

「じゃあいいじゃん。それで、レイラさんの婚約者が出て行けば、その婚約は無しに出来るのか?」


ドラマとかでよくありそうなシチュエーションだが、恋人が出て行って婚約を蹴るなんて状況が、この世界でも通用するのだろうか?


「どうでしょうか?ギルドの娘達がこうすれば良いと言っていたので、お願いした次第です。」


・・・レイラさんもこのプランに自信がある訳ではないようだ。

他のギルド職員も皆が貴族と言うわけではないはず。そもそも貴族がギルド職員なんてやるのかすら怪しそうだ。その差し金となると、プランの情報源はどこになるのだろうか?まさかこの世界にもこの状況に似たような物語が存在しているのか?そうすると実際にフィクションを現実でやっても成功なんてしないだろう。


「なるほど、ほぼノープランか。色々な展開を考えないといけないな。そもそも何でレイラさんは婚約が嫌なんだ?良縁かもしれないだろ。」

「それはあり得ません。」


俺の言葉はレイラさんにきっぱりと否定される。あった事も無い相手だが、もしかしたら優良物件かもしれない人をバッサリと切り捨てるのは珍しい。


「どうしてだ?」

「私の家も相手の家もエルフの貴族なのですが、エルフは基本的に純血思想なのです。そんな中、私の父は火遊びで人族と交わり私が生まれました。人族の母はすでに亡くなっており、ハーフの私は屋敷で肩身の狭い生活を余儀なくされました。その生活に耐えかねて家出気味に屋敷を飛び出したのです。」

「結構無茶すな。」


いきなり始まったレイラさんの重い過去に、若干身構える。


「若かったんです。後悔もしていませんし、飛び出して良かったと思っていますよ。話を戻しますね。人族にとってハーフエルフは何とも思わない方がほとんどですが、エルフにとって混血は忌み嫌う存在です。そんな私を指名してまで欲しがる人なんて、あり得ないのです。」


レイラさんの表情からすると、実家での暮らしは本当にきつかったのだろう。そんな環境に戻る事になるかもしれないなら、どうにかして足掻きたくなる気持ちは十分にわかる。


「・・・性格が歪んでるか、変な思想の持ち主だという事か。」

「その通りです。」


DV目的なのか優しくして依存させたいのか、どちらにせよ良い相手だとは思えない。


「確かに話を聞く限りだと断った方が良いな。」

「はい。」

「家族が敵になっても良いのか?」


どうにかしてレイラさんを助けたいと思うが、大団円で終われる気はしない。きっと家族とは決別する事になってしまうだろう。

俺はレイラさんにその覚悟を問う。


「家出した時に貴族の名前は捨てました。私の家はギルドの皆です。」

「わかった。何とかしよう。」

「ありがとうございます。」


俺とレイラさんは、暗い話をさっさと終わらせて残りの料理を楽しんだ。


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