ですよね
「2頭も倒されたのですか?」
翌日、グレートボア討伐をレイラさんに報告したところ、やっぱり驚かれる事となった。まぁ、余裕で日帰りした事よりも2頭倒して来た事の方が驚きだったようだが。
しかし、やっぱり調子が良くないのかいまいちリアクションが薄い。驚かせてやろうと言う気はないが、これだけ薄いと寂しいものがある。
「厳密に言えば2頭しかだな。時間余ったんだけど次が見つからなかった。」
「普通は日帰りも無理なんですけどね。」
それに関しては足と機動力の問題だから何とも言えないな。さすがに常人には出来ない事だと理解している。
ループスも時速数百Kmは出せるし、俺が本気で飛べば音速を超えられる。そんな人間よりも早く帰って来れる奴はヴァネッサくらいのモノだろう。
「それに、1頭はルーが倒したしな。」
「そうなのですか?ルー様もスゴいですね。」
カウンターの上に乗ったループスをレイラさんは優しく撫でる。
「ガウッ!」
ループスも気持ちよさそうにレイラさんの手にすり寄っていく。何とも微笑ましい状況だ。
「素材はどうされますか?毛皮、肉、牙、魔石などが買い取り対象ですが。」
「一頭分の肉を残して全部売却で。解体も全部お願いしたい。
肉以外の物は要らなかったので、買い取り対象になっているのはありがたい。
肉が手に入ったらどうやって食べようか?やっぱり鍋が一番だろうか?それなりに血抜きは上手くやった気でいるから、焼肉でもイケるかもしれない。
焼肉以外は料理できないけどな。
そもそもこの世界に鍋はあるのだろうか?まぁ、無ければ結衣にお願いしよう。アイアンクラブも持ってるし、鍋には困らないな。
「かしこまりました。解体料は買い取り金額から差し引かせていただきますね。」
「わかった。」
話もまとまり、解体の作業所にグレートボアを持って行こうとしたところで、レイラさんは意を決したように口を開く。
「・・・あの、ハヤト様----」
「ハヤト!丁度良いところにいた!ちょっとツラ貸せ!」
カウンターの奥の方の扉が開き、非常に悪いタイミングでガイアスが顔話出す。
俺は知っている。こういう時は絶対にいい話を持って来てくれたわけではない事を。
「・・・今忙しい。」
「アァ!?レイラ、ハヤトを借りてくぞ。」
「はい。」
レイラさんは出鼻をくじかれ、話を切りださなければよかったといったような表情をしながらガイアスに返事をする。
レイラさんのそんな様子を見ると、何だかこっちが申し訳なくなってしまいそうだ。
「よし、奥に行くぞ!」
ガイアスはズカズカと大股で俺のほうに歩いて来て、一行に動こうとしない俺の襟首を掴んでガイアスが来た後方の扉へと引きずっていく。
「そういうところだぞ。」
ガイアスは空気を読まずに話を中断させるから恋人が居ないんだ。ギルドマスターだから儲かってるはずなのに。
「何がだよ。」
「そういうところだからな!」
俺にこんなこと思われるなんて相当なんだからな。
「だから何がだよ!とりあえず自分で歩け!」
正直かなり行きたくないし足取りはも重いが、引きずられたままなのもしゃくなので仕方なく歩き出す。
「それで?なんの用事だ?」
個室に案内されて早々に俺は本題を切り出す。今回は何もしていないはずだが、本当に何で呼ばれてしまってのだろうか。面倒事所無い事を祈るばかりだ。
「実は、アトランティスのギルドから機密文書が届いた。」
「だったら部外者に教えないで守秘義務を守っててくれ。」
ガイアスは真剣な表情で俺を見ながらそう言った。機密文書とか嫌な予感しかしないいんですけど?一切かかわりたくない匂いがプンプンする。
「それが、部外者じゃないんだな。お前に関する話だ。」
「何でそんなもんが機密文書でくるんだよ。」
俺は何もやっていないはずだ。メデューサ絡みでなんかおかしなことでも起きたか?
「俺が知りてぇよ!まぁ、とりあえず喜べ!ランクアップだ。」
「・・・マジか。」
ガイアスは真剣な表情を解き、ニヤニヤしながら言い放つ。
え?何?さっきまでの真剣な感じは演技だったの?滅茶苦茶ウザいんだけど。
つまりあれか。ディアの計画のせいだな。恐らく教会経由で神託まがいのお告げをしたから機密文書になってしまったんだろう。いい迷惑である。
「お前はアトランティスで何やらかして来たんだ?」
「書いて無かったのか?」
教会経由だから詳しい話はわからなかったのだろうか?
「あぁ、知りたかったら本人に聞けだとよ!」
「・・・どんな機密文書なのか逆に似たような気になってきたな。」
マジで何が書いてあったんだろう?著名化すると言っておきながら花々しい戦果を書いていないのは意外だな。もしかして俺に気を使ってくれたのだろうか?だとしたら2人にお礼を言っておかなければいけないかもしれない。
「で、何しでかしたんだ?」
「ちょっと成り行きで魔王を倒しただけだ。一応公式の発表では騎士と冒険者と勇者全員で協力して倒したことになってる。」
いずれバレる事になるだろうから、諦めて白状する。表向きには皆でやったと発表されているが、上層部の人間は大体の事実を把握している。ガイアスが本気で調べればすぐにわかる事だろう。
「それは成り行きでやることじゃねーだろうが!」
やっぱりこうなるよな。
「まぁ、落ち着けよ。」
「誰のせいだ!」
「で?またギルドカードを渡せば良いのか?」
俺は興奮して息が荒くなっているガイアスを無視して話を進める。Sランク昇格ともなると、大々的に発表されて面倒臭そうなイメージだったが、何だかひっそりと昇格できそうで一安心だ。
「いや、Sランクはチョッと特殊でな。各国のギルドに報告して承認を貰わないとダメなんだ。急いでも最低数日かかる。」
前言撤回だ。そうでも無かったらしい。全世界に俺の情報が流れるのか。有名税は高くつきそうだ。
「ゆっくりで良いぞ。」
「最優先事項だバカ野郎!」
こういう時に迅速な行動とかしてくれなくてもいいんだけどな。
「話はそれだけか?」
「あぁ。承認が降りたら連絡する。」
「じゃあ頼んだ。」
俺はガイアスを残して部屋を出る。
非常に残念な事態になってしまった。まさかこんなに早くディアたちが動くとは。ゆっくり事を考えていたのでどうすれば良いのかわからんな。
そんな事を考えながら、受付のカウンターまで戻ってくる。
そんな事よりもレイラさんだ。何か言おうとしていたタイミングでガイアスが邪魔してきたんだった。俺はレイラさんのいるカウンターへと進んでいく。
「レイラさん。今大丈夫?さっき何か言いかけてた話の続きをしたいんだけど。」
「えぇ。ですが、そろそろ混み合う時間になります。日を改めても宜しいですか?」
確かにそろそろ夕方で依頼完了の報告や呑みに来る冒険者で混み始めてしまうだろう。
やっぱりあのタイミングを逃したのは痛かっただろうか。
「わかった。日時はレイラさんに合わせるよいつが良い?」
「あ、明日はお暇でしょうか?仕事が休みなので、まとまった時間がとれます。」
「じゃあ明日にしようか。」
「で、では、明日のお昼頃待ち合わせしましょう。」
「わかった。」
恐らくはレイラさんが悩んでいた話だと思うのだが、どんな話になるのだろうか。




