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裏方の勇者  作者: ゆき
水の都騒乱編
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ダンスではない体術だ

アトランティスの王宮住まいを始めて数日、特にやる事も無く適度な運動を繰り返していただけだが、ついに勲章授与の式典が始める。

因みに俺は国王陛下との交渉の末に、勇者パーティーの一員ではなくアルカディア王国出身の冒険者として参加している。

部隊長クラスの騎士から始まり、尽力した貴族・勇者パーティー・高ランク冒険者・商人と、名前とその功績が読み上げられていく。褒賞も同時に発表され、貴族は陞爵・騎士は叙爵・冒険者は報奨金・商人は今後の商売の融通など、様々な褒賞が用意されていた。

そして光輝はと言うと、王妹であるフィオレ様を婚約者にするという話が上がり、会場は大いに沸いた。

これで、光輝の婚約者は王族が3人になった。さすが光輝といったところだ。別に羨ましくはない。

王族3家にがんじがらめとか俺なら夜逃げする案件だな。

今回の一件を機に、光輝は保留にしていた婚約者候補の話を婚約者にすると決め、すでに各国に話を通している。


対する俺は、他国の冒険者なので報奨金が贈られる事となった。正直、現ナマが一番うれしいな。

ライフルの借金もこれでチャラに出来て、ついに借金地獄から解放される。

こっちの世界に来てからというもの、幾度となく借金を負ってきたが今度という今度は完全に解放されたと言っても過言では無いだろう。

服もそろえ、装備もそろえ、何も破壊していない。俺はついに金を余らせたのだ。




その夜、褒賞を貰った人達を中心に、アトランティスの貴族を加えてパーティーがおこなわれた。

立食形式のパーティーで、フロア中央では曲にあわせてダンスが行われている。

そして、一番目立っているのはフィオレ様と踊っている光輝だ。

フロアの中心で優雅に踊る2人は、見ている人達の目を釘付けにしている。


『青天の霹靂』や『鏡花水月』の面々も呼ばれていて、ちゃんと参加してはいるのだが、冒険者達にはあまり馴染みがない世界なので、俺を含めて少し浮いている印象を受ける。



「隼人も踊ろ~よ~」


ダンスなど無縁な俺が、料理を貪りつつボーッと眺めていると、結衣がそんなことを言い出し始める。


「そう言われても、踊ったこと無いんだけど・・・」

「ダンスの練習に参加しなかったからじゃないかしら?」


雫が話に加わり、いつもの小言をくれる。


「隼人だもんね~」

「そもそも、王宮に居なかったからですわ。出来ればわたくしも・・・」

「・・・」


結衣のよくわからないフォローと、杏華の追撃。最後の方は小声でよく聞き取れなかったが、取り敢えずスルーしておく事にする。


「私が踊り方教えてあげよ~か~?」

「・・・結衣にそんなことを言われる日が来るとは。」


結衣は昔から運動音痴だ。

雫達の話を聞いてる限りではダンスもてんでダメだったはずだが、上達したのだろうか?


「あ~、ひど~い。」


「さすがに結衣では教えられないと思うわよ。」

「雫ちゃんまで~」


どうやらそんな事は無かったようだ。


「じゃあ、俺は飯食ってるから好きに踊っててくれ。」


王宮料理なんてなかなか食えないので、結衣を無視して料理の方に歩いていこうとする。


「じゃ~踊ろ~よ~」

「俺の話聞いてたか?」


結衣は俺の腕を掴み、駄々をこね始める。周りの目が痛いので、すごく止めて欲しい。


「わ、わたくしもお願いしますわ。」

「いやいや、無理だって。」


なにかを決意したように、杏華からも誘いがかかる。何で俺なの?新手のイジメ?


「隼人、女性から誘われて断るとかありえないわよ?」

「そこで加勢するなよ。俺のせいで二人が笑われるのは本意じゃないだろ。」


勇者パーティーの女性陣がダンスで笑い者になるとかかなりイメージが悪いと思うんだが?

俺は雫に助けてくれとアイコンタクトをおくる。


「何とかしなさい。」


しかし、全く通じなかった。


「・・・やれば良いんだろ。」


俺は諦めてもとの位置に戻り、フロアで踊る光輝に目を向ける。恐らく、このフロアで光輝が一番上手い。その手足の動き、重心移動を見逃さないように目で追っていく。


「雫、やっぱり杏華の方が上手いよな?」

「・・・そうね。」


光輝のダンスを見つつ雫に聞く。


「ひど~い」

「仕方無いじゃない。結衣の運動音痴は控え目に言って壊滅的なんだから。」

「む~。そ~だけど~」


雫の発言に頬を膨らませて怒るが、結衣自身もその事については諦めているので、特に空気が悪くなることはない。


「そういうことで、結衣は後な。杏華、一緒に踊って貰えるか?」


丁度曲も終わり、次の曲に移ろうとしたところで、俺は杏華に手をさしのべる。


「も、もちろんですわ。」


杏華の手を取りフロア中央まで歩いていき、曲にあわせて動き出す。

光輝をガン見して覚えた基本的なステップを手探りしつつ刻んでいく。


「隼人さん、本当に初めてですの?」


「そうだけど、何か変か?」

「いえ、初めてとは思えないほどお上手ですわ。」

「ありがと、光輝をガン見して必死にイメトレしたかいがあるよ。」


きっと比較対象は結衣なのだろう。割りと踏み外しているものの、杏華から誉められる。


「ふ、普通それだけでは踊れませんわ。」

「まぁ、使える足技を多用して何とか?」


格闘技由来のダンスもあれば、その逆もある。体捌きの応用をリズムに合わせれば、なんとかカッコだけはつけることが出来る。と、信じている。

動画を撮っている訳じゃないからわからん。


「さすがですわね。」


序盤はたどたどしかった動きも後半には無くなり、何とか一曲踊りきる。

杏華も満足してくれたようでよかった。



しかし、ここからが大変である。

杏華はさすが光輝の妹といったところで、そうとう上手い部類に入るだろう。

経験者として初心者の俺をフォローしてくれたが、結衣にそれは期待できない。


「さて本番か。結衣、俺と踊ってくれるか?」

「しょ~がないな~」


そして、この満面の笑みである。この元凶め。



結衣と踊り始めて数秒でダメだとわかる。


「あ、ごめんね~」


もうすでに何度か足を踏まれている。


「・・・結衣、これは下手過ぎるだろ。」

「む~隼人のリードが悪いんだよ~」

「・・・俺の所為ですか。」

「そ~だよ~」


俺のせいにしないで欲しい。杏華には踏まれてないんだから。

結衣もちゃんとした講師の元で練習してたと聞いているんだけどな。


「しょうがないな」


結衣の手を少し強く握り、抱いている腰も少し固めに抱き寄せる。


「おぉっと!」


結衣が俺の足を踏もうとしたところで、少し大きめに動いて投げるような形でバランスを崩させる。


「わわっ!」


さらにガッシリしたホールドで、結衣をコントロールしてバランスを崩した結衣を上手いこと立たせる。

足を踏まれそうになる度にそんな動きを繰り返し、足にダメージを負うことなく曲が終わる。



「何とか踊りきったな。」

「そ~だね~何かジェットコースターに乗ってるみたいだった~」

「結衣さん、お上手でしたわ。」


やっぱり結衣に対する上手いのハードルは低いようだ。集中力を使いまくった俺は、隅にいって壁にもたれ掛かる。


「隼人、どうやったの?」

「崩しと投げの応用?」


俺はやったことを雫に説明する。


「良くできるわね。」

「足を踏まれたくないから仕方無くやったけど、何とかなったな。」


これでひと安心である。礼儀として雫を誘っておいた方がいいかと聞いたら、必要ないと言われたので後は飯を食って時間を潰すことにした。



結衣達は貴族様に誘われてダンスをしに行ってしまったので、俺は一人でゆっくりする。

貴族との付き合いも大変だ。


「あ、あの。少しお話しませんか?」


食事の手を止めた俺に声がかかる。


「え?俺と?光輝じゃなくて?」

「は、はい。」

「・・・わかりました。」


助けを求めようにも周りに誰もいないなで仕方無い。

どうせ雫が居たら恥をかかせちゃだめよと言われそうなのでOKをだす。

そして、何人かの女性と世間話をする。

モテ期が来たかと思ったが、残念ながらそうではなかった。

下級貴族が自分のところの息女を使って、勇者パーティーと仲の良い高ランク冒険者を引き入れようとしているだけだった。

社交辞令で何人かと踊り、疲れて皆のところに戻ったら次は結衣と杏華から質問責めにあった。


もう勘弁してくれ。

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