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裏方の勇者  作者: ゆき
水の都騒乱編
145/186

ドン引き

「「「「「はっ!」」」」」


「「「「「やっ!」」」」」


訓練所に到着すると、騎士たちの声が聞こえてくる。

体力作りをしている組から、列を組んで素振りをする組、模擬戦をやっている組など何チーム化に分かれて訓練を行っていた。遠くの方で魔術士団や弓術士も的に向かって練習している様だ。


「私達は向こうに行くわ。」


雫が魔術士団の方を指さして杏華を引っ張っていってしまった。


「まって~私も行くよ~」


どんどん進んでいく雫を追うように、結衣は小走りで付いていった。


「僕は騎士の模擬戦に参加してくるけど、隼人はどうするんだい?」


軽いストレッチをしながら模擬戦組の方へ足を向ける光輝が、俺に問いかけてくる。


「言ったろ、一人で練習する。」


光輝は非常に挑戦的な目をしているが、そんなモノは無視するに限る。再三断ったので、さすがの光輝も諦めて模擬戦の方へ混ざりに行った。

残された俺は、人のいない木剣の訓練用のダミー人形の方へ歩ていく。



今回のメデューサとの戦いは反省点が多い、見えないならば見えないなりの戦いをしなければいけなかったのに、何故か通常の戦い方をしてしまった。

もっと冷静にならなければいけない局面であの立ち回りは問題だろう。とっさに出せる必殺の一撃を練習しなければいけない。

俺はダミー人形に軽く指先を当てて集中し始める。


「独りで何してるのかしら?孤高を気取ったボッチ君?」


どれだけの回数素振りをしたかわからないが、かなり集中していたところで後ろから声がかかる。振り向くと、タオルを持った雫が立っていた。


「酷い言われようだな。俺が騎士に混じったって剣振ってる横でシャドーボクシングするだけだから結果は一緒だ。」


礼を言って雫からタオルを受け取り、気づかない間にかいていた汗を拭く。よく見ると、日も落ち始めて騎士団も訓練を切り上げようとしている所だった。


「私が言いたいのは輪に入ってるか入っていないかの問題なんだけどね。」

「そもそも入るメリットが無いって言ってるんだよ。邪魔するならあっちいってろ。」


もう少しで何か掴めそうな気がしていたんだが、今日は時間的にこれまでだろう。もう少しキリの良いところまでやって俺も上がろう。

そうそう魔王の様な大物の相手をする事も無いだろうし、時間はまだあるはずだ。


「そういう事にしておいてあげるわ。それよりもさっきから気になってたんだけど、『寸勁』の練習?『ジークンドー』の。」


雫が俺の練習している技について聞いてくる。というか、寸勁なんて言葉よく知ってるな。


「当たらずとも遠からずだな。似たような技だけどもっとヤバイやつだな。」

「あ~・・・冗談で言ったつもりだったんだけど本当に出来るものなのね。」


また奇怪なモノを見る目で見られる。だから聞いておいて引くなよ。


「理屈は理解してるから使えるけど、俺の『発勁』はちゃんとした先生に習ったわけじゃないからなんちゃってだぞ。」


俺はそう言い終えて実践してみせる。ダミー人形に拳を軽く当てて集中し、息を吐くとともに発勁を使う。


シーッ


噛み締めた歯の隙間から空気が出ていき、音を鳴らす。

打ち出した拳は元からダミー人形に触れている為大きな音はならないモノの、人形はミシミシと軋みを上げて大きく揺れる。


「・・・木剣で叩く用のダミー人形が軋んでるんだけど、魔術どころか身体強化も何も使ってなかったわよね?」


雫が驚きの声を上げる。


「・・・何で解るんだよ」


身体強化を使ったら確実に人形が壊れてしまうので、今回の発勁は魔術関連のモノは一切使っていない純粋な体術だ。


「魔力知覚ってスキルのおかげよ。王女みたいにはっきりと見る事は出来ないけど、なんとなく解るわ。」

「・・・さすが光輝の幼馴染だな。」


雫の口からとんでもない言葉が飛び出し、今度は俺が驚いた。


「どういう事かしら?」

「雫も異常側だってことだよ。」


俺が死ぬ気になって身につけた魔力知覚を、ただの才能で身につけてしまった雫はやはり異常側だろう。あの光輝の隣に立つ人間がごく普通の一般人なんて事は無かったようだ。


「喜んではいけないような評価ね。私としては隼人も相当おかしな人間だと思ったわ。発勁なんてオカルトじみた技も使えるし。」

「オカルトじゃないだろ。中国医学まで通じてる大真面目な技だぞ。」


最近では回路医学っていう『気』を整える学術まであるくらいだからな。まだ科学的には完全に解明されていないだけの不思議パワーだよ。


「それは知らなかったわ。でもほら、気とか丹田って言われても普通はオカルトにしか聞こえないじゃない?」

「確かにな。1つ面白い事を教えやろう。丹田って5つあるんだぞ。」

「はぁ?もうわけわからないわね。」


一番有名なのはへその下にある下丹田だが、これは下から数えて二番めの丹田である。

因みに股下・へその下・胸の中心・眉間・脳天の5つである。



「それで、他には何が出来るの?有名どころでは『縮地』とか?」

「縮地は出来るぞ。ちょっとしか使わんけど。」

「・・・当たり前の様に出来るのね。」

「自分から聞いて来たのに引くなよ。」


やっぱり聞いて来たのに引かれてしまった。


「何で使わないの?」

「縮地は予備動作無しで動き出せるから、出だしで使うだけだな。後は身体強化の方が単純に早い。」

「言ってる意味が全くわからないわね。」

「でしょうね。」


縮地は重力を使って移動する為、予備動作を必要とせずに動き出せる。走る前の構えがいらない分通常よりも初動は速いが、そこから先は身体強化で走った方が早い。

棒立ちの状態からでも動けるので戦闘での一歩目には重宝する技術である。


「海の上を走ってたのは何?忍術?」

「忍術はさすがに使えんな。あれは単純に身体強化で水面を蹴ってただけだ。元の世界にも居ただろ、水面を走るトカゲが。」

「知らないわよそんなの。身体強化でどれだけ強化されてるのよ。」


雫はだんだん狼狽え始める。これに関しては皆出来ると思うんだけどな。


「どれだけって言われても---」


俺は人差し指を強化して、一本貫手でダミー人形に攻撃する。

強化された指は激しい音を立ててダミー人形に根元まで突き刺さった


「こんなもんか?」

「・・・」

「だから引くなって。」

「あんたは紛れもない変人って事がわかったわ。」

「酷い言われようだ。」


そんな会話を続けていたら日も落ち、結衣たちに呼ばれて残念ながら切り上げる事になってしまった。

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