知らない天井
光輝によってクラーケンが討伐された後、ダンジョンの調査に行っていた騎士数名が戻ってきて、ダンジョンの奥に石化の能力を持った魔物が居る事が報告された。その中に隼人が居た事も報告され、勇者パーティーはほっと一息ついた。
隼人の存在と、豪雨が止んだ事で魔物が倒されている可能性が高いと踏んで救援部隊を送り込み、石化された人達を王都内へと運び込んだ。
「なかなか起きないね~」
結衣は隼人の怪我を治し、目覚めない隼人をペチペチと叩く。むろんナイフの刺さっていた患部を見えるようにする為に上半身は脱がされている。
「結衣さん。そんなにペタペタ触ってはいけませんわ。」
「えぇ~いいじゃん~」
結衣は真っ赤な顔を手で覆っている杏華の制止を無視して隼人の身体を叩き続ける。
「ですが、怪我をされていた場所ですし----(い、意外と引き締まってますわね。)」
杏華は指の隙間から隼人の身体をまじまじと見つめる。
「何してるのよ貴女達は。」
「ひゃん!」
見る事に集中していた杏華は、後ろに近づいて来ていた雫に気が付かず、驚いて変な声を上げる。
「なんて声出すのよ。驚き過ぎでしょ。」
「な、何でもないですわ。」
杏華は特に変な事をしていた訳でのないのに、焦ってオーバーなアクションで何かを否定する。
「・・・騒がしいな。」
周りの喧騒に、目が覚める。
「あ~やっと起きたね~」
「隼人さん。」
「隼人、寝過ぎよ。」
三者三様の反応を示す勇者パーティー。女性陣だけで光輝の姿は見当たらない。
「開口一番にお叱りかよ。ところで結衣は何してんだ?」
そして、一番気になるのが結衣の手である。普通俺が起きたら離すと思うのだが、ナイフがさっさっていたであろう場所を撫でまわしている。
「私は触診だよ~」
「要る?」
石化していた身体は問題なく動くし、見た所ケガも全て治っている。
「さぁ~?こっちも治れば良かったんだけどね~」
結衣が今回さされた場所の近くにある縫った痕に触れる。
「そっちは治さんでいい。勝手に治すなよ。」
「えぇ~。他は~?痛いところは無い~?」
「頭痛がすごいな。」
俺はズキズキと痛む頭に軽く揉む。原因はわかっているのだが、頭痛と言うよりも脳が痛む感覚はどうも慣れない。
「大丈夫~?何かの後遺症~?風邪~?」
「似たようなもんだな。」
「メデューサになにかされたのですか?」
結衣も杏華も心配そうに俺の事を見る。
「すぐ治るから大丈夫だ。この頭痛は自滅みたいなもんだからな。タキサイキア現象って知ってるか?」
「スローモーションに見えるやつだったかしら?」
真っ先に回答をくれたのは雫だ。さすが頭が良い。
結衣と杏華は答えを聞いても頭にはてなを浮かべているように首をかしげる。まぁ、現象についてはみんな知っているだろうが、雫の様に正式名称を知っている人は少数だろう。
「そうそれ。危ないって思った時にスローモーションになる現象の事だ。メデューサとの戦いで自分が死ぬと脳を錯覚させて無理矢理タキサイキア現象を引き起こしたんだ。そのせいで脳を酷使し過ぎて知恵熱みたいになってるな。」
「隼人、本当に人間?」
「酷いな。そこを疑うなよ。」
ストレートに化け物みたいなことを言われたんだが、どっからどう見ても人間だろう。
「結構怪しいわよ。」
「ですわね。」
「ちょっと変だよね~そういえば~またあの変な技使ったでしょ~ナイフが抜けなくて大変だったんだよ~」
全員に異常判定をうけてしまった。結衣は何となく擁護してくれそうだったんだけどな。残念だ。
異常ついでと言わんばかりにもう一個情報が追加される。どうやら気絶していても『縮』は続いていたらしい。そっちについてはとぼけておこう。雫のジト目が心なしか痛い。
「それは俺のせいなのか?そんなことよりも、クラーケンとメデューサはどうなった?」
「やっつけたよ~」
「そもそも、メデューサを倒したのは隼人でしょ?」
「結末を知らん。」
蹴りは当たっていたはずだが、石化で感覚がマヒしていてどの程度ダメージを与えられたかが良く解らん。
「どんな戦いをしたのよ。」
「普通に?倒したなら良かった。」
目を瞑ってたなんて言ったらマジで雫の中の人間という枠組みから放り出されそうで怖いから言わない。
「メデューサの死体を見て騎士がドン引きしてたわよ。」
「・・・フルパワーで蹴ったからな。」
クリーンヒットしてたらメデューサにはオーバーキルだっただろうな。言い方的に多分クリーンヒットしてるだろうけど・・・
「蹴りの痕じゃなかったわよ。」
「あれは酷かったね~」
「ですわね。」
どうやら三人ともメデューサの死体を見てしまってらしい。どうなってたんだろ?逆にちょっと気になるな。
「まぁ、良いだろ。すぐに退院しても良いのか?」
「ダメだよ~」
「近々、今回の戦いで活躍した人に勲章が贈られるそうよ。それまでは居なさい。」
「・・・マジか。パスできないのか?」
そんなモノ貰ったら、この国で英雄扱いされそうじゃないか。面倒臭い。
「無理ね。」
あぁ、皆の監視がなかったら逃げだすんだけど、きっと雫は俺が逃げないように授与式まで監視の目を光らせて来るんだろうな。
逃げる算段を考えていると、病室がノックされる。
「失礼します。隼人さんもお目覚めですね。」
「おかげさまで。」
入ってきたのは王妹のフィオレ様とアリア王女だった。
「目覚められたばかりでお辛いかと思いますが、今回の戦いの話をお聞きしたいのです。休まれましたら国王陛下のころまで来てください。」
「・・・わかりました。」
「要件はそれだけです。宜しくお願いしますね。もう少し話を聞きたいところですが、まだ仕事が残っておりますので、失礼します。」
「くれぐれも逃げないようにお願いします。」
どうやら今回の騒動で王宮中がてんやわんやしているらしい。フィオレ様は若干疲れた表情をしながら一礼をして部屋を出ていく。
アリア王女も後に続くように俺の事をわかっているような発言をひと言残して去って行ってしまった。
「まぁ、直ぐ行っても良いんだけどな。」
「も~ちょっと安静だよ~」
面倒事はさっさと済ませたかったのだが、結衣にすぐさま止められてしまった。
「はいはい。」
俺はふてくされる様に布団をかぶって、体力回復のために仮眠をとることにした。
ボツコーナー
光輝は結衣に言われて隼人のいる病室を目指していた。
「ここ・・・か?」
病室には長蛇の列が形成されており、最後尾の看板を持ったスタッフまでいる。
おかしいところは、診察室ではなく病室なのに列が形成されている所と、並んでいる人間がケガ人ではないといったところだろうか。
光輝が入り口に近づくと、壁に『選定の儀』と書かれている。
「・・・?」
光輝は訳が分からず病室に足を踏み入れると、ツッコミどころ満載の光景が広がっていた。
一段上がったステージの上で、石化が解かれて生身となった隼人に対して大の男達がそれぞれ手足を押さえ付けている。
1人の騎士が意気揚々とステージに上がり、袖をまくって気合を入れる。
「はぁ!」
隼人に刺さったナイフを思いっきり引き抜こうと引っ張り上げるがびくともしない。
「お前には無理だー!」「次だ次ー!」「俺と代われー!」「お前は勇者じゃねーんだよ!」「俺が勇者だ!」
並んでいる人や、すでに失敗した人達がヤジを飛ばす。
「・・・どういう状況なんだい?」
光輝は異常な光景に独り呟く。
結衣の依頼であるので、光輝はこの意味不明な儀式に並び、無事ナイフを引き抜いた。
そして、真の勇者だとアトランティス中で崇められることとなった。




