報告
ギルドに戻りレイラさんに報告をする。
「おかえりなさい。早いですね、何かありましたか?」
「前にギルドで絡まれたハゲに会ったんだ。面倒事になる前に切り上げてきた。」
「そうでしたか、御愁傷様です。それにしては、狩ってきた数が多い気がするのですが?」
レイラさんは後ろの荷物を見て質問してくる。
「泉には一番下の鹿っぽいやつしか居なかったんだけど、ハゲに何か変なもんぶつけられて、帰り道でめちゃくちゃ襲われた。」
それを聞いてレイラさんが眉をつり上げる。結構怒ってるみたいだ。
「投げつけられた物から甘い香りはしましたか?」
「あぁ、とっさだったから手で弾いた。何か不味いやつだったか?」
「今回は大丈夫だったみたいですが、それは魔物の好きな匂いがついた玉です。最悪寄ってきた魔物に殺されてしまいます。」
・・・なかなか酷いことされたな。殺人未遂じゃないか。
「匂いは無くなったけど、直ぐ手を洗った方がいい?」
「効果は10分くらいなので害は無いのですが、キレイなものでもないので洗った方が良いかと思います。」
「後で洗ってくる。そもそも何でそんなもんがあるんだ?」
「本来の使い方は、勝てない魔物に襲われた時に、遠くに投げて気を反らす為のものです。しかし、他の魔物も惹き付けてしまうため、暗黙の了解で、命の危険がある時しか使わないルールがあります。他人に投げつける物では決してありません。」
「逃げるための物か。これは犯罪にならないのか?」
「今回の場合は、実害が出ていないことと、ハッキリした証拠が無いため、罪に問うのは難しいです。」
「仕方ない、無視を続けるよ。」
面倒だが、こちらが手を出して罰則を喰らうくらいなら、大人しくしているしかないだろう。
「お力になれず申し訳ございません。一応ギルドとしても迷惑行為があったと報告を上げさせていただきます。直ぐには無理ですが、続くようであれば、ギルドランクの降格。もしくは、ギルドカードの剥奪のペナルティを科します。」
降格も失業もだいぶ痛手だろう。
「そこまでやっていいのか?一応、中堅冒険者なんだろ?」
周りの目もあるし、辞めるか拠点を移すかしないと、ここには居づらいだろうな。
俺なら無理だ、直ぐ辞める。
「問題ありません、彼らよりもハヤト様を失うことの方が痛手です。」
面と向かって言われると恥ずかしいな。
レイラさんは世辞を言わなさそうなタイプだし・・・
「わかった、宜しく頼むよ。」
「はいお任せください。」
やっと本題の買取りの話になる。
「鹿が二頭、フォレストバードが一羽、ゴブリンの魔石が20個、オークの魔石が2個ですね。すべてこちらで買い取りで宜しいですか?」
「頼む。」
「では、報酬をもって参りますので、少々お待ちください。」
レイラさんは奥に下がって、すぐにお金の入った袋を持ってきた。
「こちらが報酬です。」
「ありがとう。」
中をちらっと確認して、そのままバッグにしまう。
チラッと金貨が見えた気がした。10万越えか、冒険者って儲かるな。
「今回の報酬で旅の用意を一式揃える事が出来ると思いますよ。」
・・・初日で目標金額クリアか。
明日からはゆっくり稼げばいいな。
「それは良かった。ところで、旅の用意って何が必要なんだ?冒険者の知り合いがいないから聞くこともできん。」
「私もある程度しかわかりませんが、他の冒険者の方の話で良いものはいくつか知っています。」
「おぉ!それを教えて欲しい。」
「なかなか口では難しいのですが・・・実は明後日ギルドの仕事が休みでして、差し支えなければご一緒して説明しましょうか?」
「良いのか?せっかくの休みを仕事みたいな事に使ってしまって。」
「構いません。」
「じゃあ、宜しく頼む。」
「お任せください。」
閑話
「見たかあのガキの逃げっぷり!今頃死んでるんじゃないのか?」
「完全にビビってたっすね!」
「あれだけ速けりゃ、魔物から逃げ切っているかもしれんぞ」
「生きていようが脅して口封じしておけばいいさ。」
「死んでくれてた方が楽でいいな!」
ハゲパーティーはギルドへ戻り、戦利品を換金し、隼人の話を肴に呑んでいた。
「失礼します。」
「なんだレイラか!今日は機嫌が良い!その辛気臭い顔で良いから俺に酌をしろ!」
「隣で呑んでも良いぞ、おごってやる。」
イヤらしくニヤつきながらレイラを誘う四人。
「結構です、仕事中ですので。今回は警告に来ました。」
その一言で空気が一気に凍りつく。
「何だと?」
ハゲが苛立ち、殺気が漏れる。
しかしレイラは意に介する様子もなく言葉を続ける。
「あなた方の今日の行いは全てハヤト様から聞きました。ギルドとしては、これまでの苦情を含めて最終勧告をさせていただきます。これ以上苦情が続くようであれば、ランクの降格、最悪の場合ギルドカードの剥奪まで視野に入れさせていただきます。」
「ふざけるなよ!?」
「確かに今日、ヤツに泉で会ったが、なにもしていない。」
「そおっす!アイツがこっちを見て逃げていっただけっすよ。」
四人は言い訳をするが、レイラは嘘がわかっているかのように聞く耳を持たない。
「間接的な殺人未遂をしておいて何もしていないと言うのは、おかしいと思うのですが?」
「はっはっは!それは話を盛りすぎだろう!俺達が殺しかけたと?証拠を持って来い!」
「それで、ヤツは重症でも追ったのか?」
証拠が無いことはわかっているので、勝利を確信して攻める。
「いえ、証拠もありませんし、怪我もしていません。なので今回は、迷惑行為の苦情という形で処理させていただきました。」
「おいおい、そやねーだろ!証拠も怪我も無いのに信じるのかよ。」
「はい」
「昔からいる俺たちよりも、最近来た田舎のガキの方が信用できると?」
「今回ばかりはその通りです。」
「ッチ!シラケるぜ!行くぞ!」
そう吐き捨てて、ハゲ一行はギルドの酒場を出て行った。
仲間と別れ、イラつきながら帰路につく。
「ックソ!レイラのクソアマが!」
「・・・おい、・・・耳寄りな話があるんだが聞くか?」
突然後ろから声がかかる。
「あぁん?誰だてめぇ?」
「俺は----」
閑話休題
一日が終わり、割り当てられた部屋でまったりしていると、ドアがノックされた。
ドアを開けるとマリエルさんが立っていた。
「夜分遅くにすみませんハヤト様、今からお時間を頂いても大丈夫でございますか?」
「こんばんは、マリエルさん。時間をもて余してたところだから、大丈夫だ。」
「では、付いてきて欲しいのでございます。」
マリエルさんは教会の宿舎の奥へと向かっていく。
俺は、辺りをキョロキョロと見回して人が居ない事を確認してから、に話しかける。
「マリエルさん、行き先と目的は何となくわかりますが、聖女様と男が夜に密会してるのは、対外的にまずいんじゃないのか?」
「はい、見つかったら大変でございます。しかしあの方に外に出でいただく訳にはいかないのでございます。」
「・・・俺が教徒に殺されるか、国中が大騒ぎになるかの二択か・・・どっちも面倒だな。」
「着いたのでございます。」
もう見慣てしまったマリエルさんの部屋の前に着く。
「待っていましたよ、勇者ハヤト様。」
予想通り、優雅に紅茶を飲むディアがいた。
「こんばんは、ディア。いつも紅茶を飲んでるな。」
「美味しいのですよ。お茶菓子も素晴らしいですね。」
まさかの豊穣の女神様腹ペコ系疑惑浮上である。
「まぁ、ハヤト様は、なんてヒドイ事を考えるのでしょうか。」
「ごめん。テキトーな事を考えてた。」
「私は寛大なので、美味しいお茶菓子で許してあげます。」
「やっぱり腹ペコ系じゃん。」
「違います。パクパク食べていませんし、常識の範囲内ですよ。」
ディアの髪が、フワッと動いたと思った瞬間、殺気とは全く違う神々しい圧力を感じた。
「はい、すいません。美味しいお茶菓子を探しておきます。」
なんだろう、この有無を言わさぬ神様っぽい感じは?
本能が膝をついて頭を下げろと言っているような気がする。
隣を見ると、マリエルさんは両手を組んで、祈りを捧げていた。
「ごめんなさい、やりすぎてしまいましたね。」
そう言ってディアは、威圧を解き、元の感じに戻った。
「何だったのでございますか?」
「ハヤト様が、私をからかうからなのです。」
ディアは、頬を膨らませてプイッとそっぽを向く、ちょっとあざとい。
「ごめんディア、もうしない。」
「許してあげるのですよ。」
笑顔に戻り、こちらに向き直した。
「それで、今日はどんな要件なんだ?」
「二つあるのですよ。まずは、余談の方からいきますね。」
「なんでだよ、普通は本題から入るだろ。」
「旬な方からいくのですよ。ハヤト様が、冒険者ギルドの受付嬢とデートすることになった話からですよ。」
「えぇ!」
「・・・なん・・・だと」
俺が、レイラさんとデートだと?
確かに買い物に行く約束はしたが、デートなのか?
「デートなのですよ。」
そうですか・・・
いまだに、マリエルさんは、目を見開き、口元に手を当てて、フリーズしていた。
さすがに驚き過ぎじゃないのかな。
というより、デートだったとして、なんでピンポイントで面白いところばっかり見つけるんだ?この女神様は。
「ハヤト様のデートを成功させるために、ここは女性陣で力を貸してあげなければならないのですよ。」
ディアは完全に楽しんでいるようだ。
「・・・余計なお世話です。」
「私たちの力が必要ではないのですか?」
「どうか俺に、力をお貸しください。」
とりあえず俺は、頭を下げておいた。
結論から言おう。
大して為になる話は聞けなかった。
片や人間界の情報に疎い、正真正銘の女神様。片や幼いころから聖女として、ほとんど教会ですごしている聖女様。
デートに使える美味しいレストランの情報など、持っている訳がなかった。
コーディネートを褒めろだとか、紳士的なエスコートをしろだとか、可もなく不可もない、ありがたいお言葉を頂いた。
始終、女性陣お二人がキャッキャしているだけに終わった。
「デートの話が終わったところで、もう一つの話をしますよ。」
「やっと本題か。」
「フィーレが、ハヤト様はいつ来てくれるのかとそわそわしています。早いうちに顔を出してあげてください。」
・・・え?それだけ?
「どうやって顔を出すんだ?」
「礼拝堂でフィーレに祈ればいいのですよ。その時フィーレが許可すれば、前回と同じように、神界に行けます。」
「わかった。今日はもう遅いし、明日やってみるよ。」
「それが良いのですよ。ではお二人ともおやすみなさい。」
ディアはそう言って、神界へ帰って行った。




