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裏方の勇者  作者: ゆき
水の都騒乱編
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ダンジョン調査3

「気が付いたみたいだね。」


頭上から声をかけられる。

目を開き、少しすると視界がハッキリとしてくる。どうやら複数人に覗きこまれていたようだ。


「ここはどこだ?ーーーーッ!」


辺りを見回し、立ち上がろうと地面に手をついたところで右腕に激痛が走る。


「すまない、右腕は折れているんだ。」

「そうか。」


自分の右腕を見てみると、応急処置をしてくれていたようで、固定の為に当て木がしてあった。クラーケンの攻撃で折れた気はしていたが、結構手ひどくやられてしまってのかもしれない。右腕が完全に使える状態ではなくなっている。


「肩も外れていたから嵌めておいたよ。残念ながら治癒術師は先の戦闘ででずっぱりでね。ここには居ないんだ。完全に治すことはできないけど、一応ポーションはあるから飲むといい。 」

「自前のがあるから大丈夫だ。」

「それは助かる。私達のライフラインでもあるから、少しでも温存したい。」


右手に負荷をかけないように立ち上がり、声の主の方に向き直る。この人は確か、先日の会議にいた騎士団長だったはず。


マジックバッグからポーションを取り出して一気にあおってから考える。騎士はダンジョンの調査に行く手筈になっていたので、この洞窟のような場所はダンジョンになるのだろうか?


「気遣いに感謝する。ところで、あんたが居るってことは、ここはダンジョンの中なのか?」

「その通りだよ。海中でサハギン達と戦っていたら君が落ちてきてね。一段落着くところだったからダンジョンまで運んできたんだ。」

「結局来る事になるとは・・・」


何が居るかわからないダンジョンを避けるために居残りの方を選んだはずだったのに、クラーケンに襲われた上にダンジョンにまで来てしまうとは、日頃の行いが悪かったのだろうか?


「それで本題なんだけど、君を戦力として数えてもいいのかな?」

「俺はケガ人なんだが?」


どうやらケガ人の俺を戦力として数えたいらしい。騎士としては不得手な魔物討伐に協力してほしいのだろうが、俺としてはさっさと帰って養生をしたいんだけど。


「君ならその程度のケガで動けないなんて事はないのだろう?それに、断るなら皆に君の話をしよう。」


騎士団長は涼しげな顔でさらっとそんな恐ろしい事を言い始める。俺の性格も光輝達から聞いているようで、まさかの攻撃である。


「さらっと面倒な事言ってくれるな。事情はわかったから一般兵くらいの働きはしよう。」

「全力でやってくれても良いんだけどね。」


仕事を増やそうとしてくるが、ここは無視しても良いだろう。ケガを理由にそれなりの働きでかんべんして貰おう。


「隊長、こんな奴に頼まなくても我々で対処するべきです。」


騎士の1人が俺達の会話に口を挟んでくる。

良いぞもっと言え。騎士が出来る所を俺に見せつけてくれ。


「戦力は多いに越したことはないだろう。彼は先日の会議に呼ばれる程の実力者だよ。」

「そうだったんですか。すみません差し出がましい事を言いました。」


なんですんなり納得するんだよ。もっと噛み付けよ。俺が仕事をしないといけなくなるじゃないか。


「そう見えない人だからね。続きは歩きながら話そうか。冒険者達はきっと先に進んでいるはずだから先を急ごう。」

「「「「「はい。」」」」」


騎士団長の号令で全員が一斉に動き出す。

どうやら俺は参戦するという事で決定してしまったらしい。非常に残念である。



少し歩いていると、巨大な蟹が現れる。アルカディア王国で一度食べた事のあるアイアンクラブだろう。

赤サビ色の光沢の無い殻を持った4mほどのカニだ。恐らく殻は鉄で出来ているのだろう。挟まれればひとたまりもなさそうな鋏と、重厚感のある容姿からは考えられない速度で近づいてくる。


「ダンジョンでは初戦闘だね。ハヤト殿、いけますか?」

「え?俺?」


騎士団長に話を振られて素っ頓狂な声を上げてしまう。

この騎士団長様は、いきなり俺を戦わせるんですか?まぁいいけど・・・


「えぇ、まだ団員にはハヤト殿の実力を疑うものもおりますし、私もハヤト殿の戦闘を見ておきたいですしね。」

「・・・仕方ないか。」


見渡した限りではそんな事を思っている人なんていなさそうなので、後半の言葉が真実なのだろう。まぁ、実力もわからない人間に指示を出すなんて出来ないだろうから俺の実力と戦闘スタイルを知るために見ようとしているという事で納得しておこう。



俺は迫りくる蟹にこちらからも向かって行き、攻撃を難なく躱して一気に飛び越えて後ろに回り込む。

手のまわらない後ろから、ゲンコツを落とす様に蟹の頭上から拳を叩きつける。


鎧通し


ガンッという金属同士がぶつかり合う重量のある音が洞窟内に響き渡り、アイアンクラブは振動波で脳を破壊されて絶命した。


「い、一撃ですか。どんな技なのか教えてもらっても?」

「企業秘密だ。」


まぁ、教えて良いのだが、あまり広めたい技でも無いので教えない事にする。


「残念です。そういえば、それだけの実力があるのに、どうして海に落ちてきたのですか?」

「あぁ、国王陛下が睨んだ通り、クラーケンが出てきたんだよ。」


俺の一言に騎士達は焦りをあらわにする。


「地上の様子は大丈夫ですか?」

「まぁ、光輝が居るから大丈夫だろうな。腐っても勇者だから実力は折り紙付きだし。」


もちろん適当に言っている訳ではない。光輝は何でも出来てしまうスーパーマンだから、あの状態からでもクラーケンに負ける様子が想像できないのだ。

きっとあのチート級の剣とチーター本人で瞬殺して終わりだろう。


「ハヤト殿はクラーケンにやられて落ちてきたと言うところですか。」

「そんなところだな。」


あまり認めたくない話ではあるが、真実なのでしかたない。


「本当にクラーケンはコウキ殿に任せれば問題ないのですか?」

「大丈夫だろ。大概の事はなんとかする奴だ。」


出会って数日の人間にはわからないだろうが、光輝は一瞬で相手に対応した戦略をとってくるので非常に戦いにくい。さっきまで効いていた攻撃が次の瞬間には効かなくなるのだ。

クラーケンの脚が増えたところで、光輝はきっとあの脚の数にもだんだん慣れてすぐに圧倒してしまう事だろう。


「ひとまず信頼してダンジョンに集中するしかないですね。」

「気になるならさっさと終わらせればいい。」

「そうですね。」


俺達は呑気に雑談をしながらダンジョン内を探索していく。

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