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裏方の勇者  作者: ゆき
水の都騒乱編
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ダンジョン調査1

時は少し遡り、冒険者達はダンジョンの調査のために洞窟の入り口に立っていた。


「良いかお前ら!いつものダンジョンだと思うなよ!小さくても気になった事があれば報告しろ!」

「「「「「はい!」」」」」


ヴァネッサの号令に、冒険者の面々は気合を入れて返事をする。調査メンバーは『青天の霹靂』がほとんどであるが、『鏡花水月』のパーティーも参加している。

しかし、所属なんて関係なく全員がヴァネッサの号令に従って動く。アトランティス王国においてヴァネッサの統率力は相当なものである。


「騎士達と争うわけではないが、後れを取る訳にはいかん!行くぞ!」

「「「「「はい!」」」」」


ヴァネッサを筆頭に洞窟ダンジョンの調査が始まる。



普段は冒険者達でにぎわっているダンジョンの入り口も、立ち入り禁止となんている為にものさびしい状況だ。


ピチョン・・・ピチョン・・・


いつもはガヤガヤとしているせいで聞こえ無いが、洞窟内で水滴が落ちる反響音が不気味にコダマする。

調査班は慎重に進んでいくも、入り口から魔物があふれている様子も強敵が構えている様子もなく、人がいない事以外は普段通りのダンジョンだった。


「オラッ!」


ジルドの班の戦闘音が洞窟内に響き渡る。

出てきたのはアイアンクラブ。金属の殻をジルドのハンマーが砕いていく。

戦っているのは主にジルドの班だけだ、一番の脳筋班が率先して魔物討伐に乗り出してしまい、残りの班はやる事が無くなって周囲に警戒しつつ戦闘を見守るだけとなっている。


「先ほどから現れる魔物は甲殻類系ばかりですね。」

「そうだな。」


アロルドは指揮を執っているヴァネッサに近づき話しかける。

現れる魔物はカニやフナ虫の様な甲殻類系ばかりで、魚類系の魔物は一切出て来ていない。


「セリャァ!」


「サハギンやマーマンといった魔物は全部クラーケンが引き連れて行ったという状況でしょうか?」

「そうかもしれないが、この辺りでは元々甲殻類系の魔物が多かったはずだ。進んでいけば魚類系の魔物も出て来るだろう。」


とは言ったものの、まったく出てこないのはいささか不自然である。ヴァネッサは顎に手を当てて少し考えたが、結局答えにはたどり着けなかった。


「ウラァ!」


「ここまで来て、本当に魚類系の魔物が一体も出ないのは気になりますがね。」

「そうだな。さらに奥に引っ込んでいるのか本当に居ないのか、最悪の場合を想定して警戒態勢は万全にしておこう。」


調査班はダンジョンの半ば辺りまで進んできたが、出てくる魔物はやはり甲殻類ばかり。ダンジョン内に異変が起きている事は明らかだ。


「セイッ!」


「ジルド!」


ヴァネッサはついに暴れまわるジルドを呼ぶ。


「はい!」

「うるさい!静かに戦え!こっちは真面目な話をしてるんだ!」


戦闘音ならまだしも大きすぎるジルドの気合にヴァネッサがキレる。


「すみません!姐さん!気を付けます!」


体育会系のようなノリでジルドは勢いよくヴァネッサにに頭を下げ、駆け足で先頭に戻っていく。


それからは武器と殻がぶつかり、砕けるような音のみが響くようになった。


「しかし、本当に私たちはやることがないですね。」

「あれは戦いしか出来んからな。アタシ達は異変を探すことに集中しようじゃないか。」

「そうですね。」


調査班は高ランクの冒険者ばかりなので、慎重に進んでいるといってもかなりのペースで順調に進んでいく。


「この探索は順調すぎないですかね?考えすぎなら良いんですけど、どうも何かありそうな気がします。」

「確かに順調すぎるといっても過言では無いな。出て来る魔物の数が少ないからといって気を抜いたところでやられる可能性は十分にある。適度にアタシが喝をいれよう。」

「よろしくお願いします。私では凄みが足りませんから。」

「それを女のアタシに言うか?」


ヴァネッサはアロルドの言葉に引っかかり睨みつける。

その瞬間にアロルドは肌を刺すようなピリピリとした感覚に襲われる。ヴァネッサから漏れる魔力が身体を刺激しているせいだ。

アロルドは若干冷や汗を流しながら言い訳をする。


「そういう意味で言ったわけではありませんよ。姐さんと慕われているヴァネッサさんの方が私よりも効果が出ると言いたかったんです。」

「そうか、なら問題ない。」


ヴァネッサの威圧は無くなり、アロルドは安堵して肩の力が抜ける。



さらに奥まで進み、洞窟の少し開けた場所に今までは無かった池を発見する。


「こんな池は今まで在りましたっけ?」

「無かったな。クラーケンが作ったのだろうか?」


池はかなりの深さがあり、水たまりではなさそうだ。

アロルドは手で水を救い上げて少し舐める。


「海水のようですし、この池が外につながってるとなると騎士達はここに出て来るはずなのですが、まだ着た様子は見当たりませんね。」

「外で手間取ってるのだろうか。ここから先はどうする?待か?進むか?」

「外につながる道はここだけではない可能性もあります。進んで他に怪しいところがないか探しましょう。」

「そうだな。たとえ見つからなくても、あと少しで最深部まで行けるから先に行って待っているか。」

「それがよさそうですね。」


池を気にしつつ少し休憩を取って、調査班は先に進み始める。進みにつれて魔物の数は急速に減っていき、最深部手前では全くでなくなってしまった。



そして到着した最深部。

ドーム状に広がった空間をのぞき込むと、人型のシルエットが一つだけ存在した。


「なんだアイツは。」

「アラ、もう来てしまったの?予想以上に早いわね。」


ヴァネッサの呟きに影が反応する。


「どういう事ですか?」


小馬鹿にしているような影の言葉にアロルドが若干苛立った様子で質問をぶつける。


「コトバ通りの意味よ。足止めはダメだったみたいね。」

「騎士達が遅れているのは貴様の所為か!」


ジルドは影を完全に敵とみなしたようで、ハンマーを振りかぶって突撃する。


「待て!ジルド!」

「気が早いわね。」


影は振り返り、ジルドと目が合う。その瞬間、ジルドの全身は石になって動かなくなった。


「なっ!ゴルゴンか!」


その光景を見て、ヴァネッサは誰よりも早く動き出す。近くにいる2人の鎧を引っ掴んで一気に後方へと下がる。全員を助けたくても明らかに手が足りない。

ヴァネッサは歯噛みしながら安全圏まで退避する。

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