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裏方の勇者  作者: ゆき
水の都騒乱編
135/186

共闘

「あー、なんかドス黒くなってる気がしないでもないんだが、気のせいか?」


海に着いたところでクラーケンを発見する。

しかし、前回戦った時よりも明らかに黒く変色しており、肌にねっとりと絡み付く禍々しいオーラが追加されている。


「残念ながら僕にも黒くなってるように見えるよ。」

「キレただけならいいんだけど、進化してたら面倒だぞ。」


ほぼ確実に強くなっているだろう。皆が油断しないように強化されているであろう事を示唆する。


「やっぱり黒幕が居るのかな~」

「何その話。知らないんだけど。」

「いなかったアンタが悪いんじゃない。」


だって行きたくなかったんだもん。


「アルカディア王国の大進行で見つかった魔物を強化する針ですわ。今回のクラーケンにも使われている可能性があります。その場合、クラーケン以外にも針を打った黒幕が居るはずですわ。」

「なるほどね。それでダンジョンの捜査か。」


ついに引っかかっていた部分が腑に落ちた。だが、冒険者側に伝えなかったのはどんな意図があるのだろうか?

確定ではない裏切りの話をしたくなかったとかそういう感じなんだろうな。


「アトランティスとしては、逃げられる前に対処したかったんだよ。」

「それで町が壊れましたじゃあ笑えんな。」

「その為に僕達が残ったんじゃないか。」


光輝はさも当然と言わんばかりに軽くおどけて見せる。

正義の味方君はそれでいいんだろうが、巻き込まれる人間の事も考えて欲しい。


「はぁ、笑えない。被害が出る前にさっさと片付けるか。」

「そうだね。向こうも暴れようとしてるし、さっそく第二ラウンドと行こうか。」

「やるしかないか。」


仕方なくやる気スイッチをオンにして、拳を構える。



光輝は周囲の全員とアイコンタクトをとって剣を構える。

すると、周りにいた騎士や冒険者達が押し寄せるサハギン達に集中し始め、クラーケンへの道を開けてくれた。

勇者パワーすごいなと一瞬テンションが上がるが、冷静に考えると何してくれてんだこのくそ目立ちたがり屋と怒りがこみ上げてくる。

まぁ、やってしまったものは仕方ない。気持ちを切り替えて、開いたクラーケンへの道を走り抜ける。


「GUOooooOOooo!!」


クラーケンはこちらに気が付き、雄叫びの様な声を上げて脚を振り下ろす。

眼前に迫り来るクラーケンの脚を横から叩くようにして逸らす。


「ッ」


前回よりも遥かに堅く弾力のある脚に苦悶の声が漏れる。


バコンッ


軌道を逸らされた脚はそのままの勢いで地面を叩き、空気が弾ける音と共に地面にヒビを入れる。


「大丈夫かい?」

「光輝、残念ながら進化してるぞ。」


光輝も俺の声を聞いて、試しに脚を斬りつける。剣を振り抜きはしたが、完全に斬り落とすことはできず、脚の半ばまでしか斬れていない。

その傷も瞬く間にくっついて塞がる。


「そうみたいだね。」

「それで、本体は斬れそうか?」

「誰にものを言っているんだい?斬れる斬れないじゃなくて斬るんだよ。隼人こそ殻を砕けるのかい?」

「そっくりそのまま返してやろう。砕くんだよ。」

「OooooOOooo!!」


2人でのんきに話しているところで、クラーケンからのチャチャが入る。

複数の脚で俺と光輝に襲いかかる。俺は当たらないモノは無視して、当たりそうなモノだけ弾いて逸らす。


「ほら、試し斬りするから怒らせたじゃん。」

「どうせ今からイヤというほど斬るんだ。誤差だよ。」

「そうか。じゃあ俺は俺の仕事をするかな。」


俺は叩きつけられた脚の上を走り、クラーケンの本体へと向かっていく。

走っている途中で、残りの脚が俺に襲いかかるも、ペースを落とさずに一気に突き進む。

最後の一撃の薙ぎ払いを前宙でかわし、その勢いを使って脚を叩きつける。


「ッアァ!」


踵落としではなく、踏みつけるような一撃。インパクトの瞬間に脚で崩拳を使う。いっそ崩脚とでも名付けようか。


ピシッ


クラーケンの強化された殻に少しだけヒビが入る。


「マジで硬てぇな。」


身体が温まりきっていないとはいえ、全力でやってこの程度しかダメージが入らないのはショックである。

そんな事を考えていると、後ろで光が弾ける。振り返ると、光輝が光る剣でいくつもの脚を斬りおとしていた。

以前に見た時よりも、光の強さが上がっているような気がする。まぁ、光輝の事だから放っておいても勝手に強くなっていくのだろう。

クラーケンは俺と光輝の一撃によって、照準を俺と光輝だけに向けたようで、俺達への攻撃の手数が跳ね上がる。

なんとか器用に避けてはいるが、クラーケンの上という足場の悪い状況でさらに足場を壊しにかかるなどと言う暴挙をやってのけなければならない状況はかなり不味い。

攻めあぐねて回避に専念していると、クラーケンの脚に雷の矢と石の弾丸が突き刺さる。


「やっと援護射撃が来たか。」


そこそこ高い建物の上で、雫と杏華が武器を構えてこっちを見ていた。


雫は弓を引き絞り、雷の矢を放つ。一本だった矢は途中で枝分かれし、複数の脚を同時に攻撃する。

杏華はライフルのスコープを覗いて引き金を引く。放たれるのはロックバレット。ジャイロ回転の掛かった弾丸はクラーケンの脚を貫通すると同時に弾き飛ばす。


「少しは楽になりそうだな。」


俺はそう呟いて、2人に作ってもらった隙に二撃三撃と崩拳をお見舞いする。

最初に入れたヒビは段々と大きくなり、砕けるのも時間の問題となりはしたが、どうにも上手くいき過ぎているような気がしてならない。

そんな不安を覚えつつ、さらに崩拳を叩きつける。


バキッ


ついにクラーケンの殻を砕き、拳大の穴と全体に広がるヒビを入れる事に成功する。


「よし!」

「GUOooooOOooo!!」


クラーケンは声にならない声を上げ、よりいっそう暴れまわる。


「おおっと!」


揺れる足場に、バランスを崩す。


「はああぁぁぁ!!」


俺の仕事っぷりを見たからなのか、光輝が気合と共に剣を水平に振りぬく。

光輝の纏いで刀身が何倍にも伸びた光の剣は、水面から顔を出しているクラーケンの脚のすべてを斬りおとす。


俺の帰りの足場が無くなってしまった。まぁ、すぐに生えてくるんだけど。


光輝の周りには何十本という脚が散らばっており、脚の山が形成されている。

脚を斬り続けたからなのか、纏いに全力を注ぎこんだからなのか、光輝は剣を地面に突き立てて肩で息をしている。


「OooooOOooo!!」


クラーケンは完全にキレたようで今までにないほどの大音量で吠える。身体の色は赤が強く混じり、禍々しいほどの赤黒さへと変化する。


そして、俺の嫌な予感が的中する。


クラーケンは今まで海面に顔を出していなかった脚を全て出し、一気に攻撃に使い始める。その数は先ほどまでの倍以上はありそうだ。

攻撃速度も上がり、手数は倍以上に増えた。そして、そのすべてを光輝に叩きつける。

雫と杏華の援護もあって直接当たる数は減っているものの、迫りくる足を全て斬るのはあの状態の光輝では厳しいだろう。


「助けに行っても、要らなかったとかグチグチ言われるんだろうな。」


俺は、ダメで元々と足場の無い海へと走り出す。

すでに音速で行動することが出来る俺にとって、理論上は可能な行為である。そう、沈む前に次の一歩を踏み出せばいいのだ。

俺は蹴りつける様に海面を足で叩き、海の上を走り抜ける。



何十本もの脚が光輝に襲い掛かり、光輝も息を切らしながら剣で斬って自身を守る。すでに剣の光は弱々しく、切断しきれずにかする攻撃も出始める。


「光輝!」


ついに捌ききれなくなった脚がぶつかろうとしたところで、間一髪で光輝を掴んで離脱させる。


「僕は大丈夫だ----」

「知ってるから暴れん----」


俺と光輝の頭上にクラーケンの脚が迫る。光輝がもがいたせいで一瞬反応が遅れた。

俺は光輝を投げ飛ばし、身をよじるがどうしても間に合わない。決死の覚悟で腕を振るい、威力の相殺をはかる。

体勢が不十分で無理矢理出した拳と、クラーケンの脚が衝突する。


ゴキッ


圧倒的な質量を前に、腕が折れて肩が外れる感触がする。


俺の意識はそこで途絶えた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 対象との相性が悪い人を連れてきたらそら残念だがさうなるよね案件だ。
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