会議
逃げ出すこともできずに王宮内へと足を踏み入れる。
謁見の間ではなく、そのまま会議室のような所に案内される。
中に居たのは勇者パーティーとアリア王女、おそらく国王であろう人物と隣に女性が一人、さらには騎士が数人、俺達と対面するように座って待っていた。
女性は若干視線が光輝の方によっているので、王妃ではなさそうだ。
光輝達が俺を見てニヤついているのが地味に腹立たしいが、まぁ良しとしておこう。
予想外にもアトランティス王国国王と顔を会わせることになってしまったが、面倒な事にならないよう祈るばかりだ。
「よく来てくれたね。掛けてくれ。」
国王らしき人物の一言で、俺達は椅子に座る。
「見ない顔もいるようだから、軽く紹介から始めようか。私はアトランティス王国国王オズワルドだ。それから隣にいるのが妹と、勇者パーティー、さらには騎士団長と魔術師団長だ。」
紹介されたメンバーは、オズワルドの言葉に合わせて軽く頭を下げる。
こちらの陣営もジーノの紹介で頭を下げる。
「さて、さっそくで悪いが、本題に入らせてもらう。今回集まってもらったのは、この王都の近くにある海底に続くダンジョンについてだ。」
「そのダンジョンの合同調査という事で良いのかのぉ?」
ある程度事情を知っているジーノがオズワルドに質問をする。
「その通りだ。知っている者もいると思うが、クラーケンが現れる少し前に地震が起きた。その時にダンジョンの一部が崩落して外と繋がってしまった。今回のクラーケンの襲撃はこれと関係があると思われる。」
ダンジョンの破壊とかあり得るのか?なんか勝手に破壊不可能な鉱物で出来てそうなイメージがあったんだけど。
「ただの地震ではなく、クラーケンがダンジョンを破壊した衝撃だったという事かのぉ。」
ジーノだけでなく、周りの人間もダンジョンの破壊に関して特に疑問は無い様だ。どうやら不思議空間ではあるが、非常識な場所ではないらしい。
普通だと思っていたが、俺もご都合的なゲーム脳になっていたのかもしれないな。
「よって、ダンジョンの現状を把握しておきたい。騎士と冒険者でダンジョンの調査を行い、異変がないか調べてきてほしい。私の仮説が正しければ何故クラーケンが外に出てきたのか、その原因があるかもしれない。」
「ここにいるメンバーで調査に向かうのかのぉ?」
強制イベントは勘弁してほしい。隅っこで隠れていたら雫が怒りそうだし、活躍したら活躍したで面倒ごとになりそうだ。ちょうどいいバランスをとるのは難しいんだよ。
「当初はそうする予定だったのだが、先ほど状況が変わった。昨日討伐したクラーケンの死体を回収するまでは警戒態勢を続ける。よって、ここにいる全員では向かえない。」
「あのクラーケンがまだ生きておると?」
「その可能性は0ではない。もしダンジョンから出てきたのがクラーケンで生きているとしたら、休養のためにダンジョンに戻っている可能性が高い。そうでない時の為にこちら側にも人員を残すが、戦力が多く必要なのは調査班だろう。」
クラーケン生存の話題が出て冒険者達の顔が一気に引き締まる。
マジで?クラーケンまだ生きてんの?倒したと思って盛大にパーティーしてたじゃん。もし生きてたら、かなり恥ずかしい事態になるんだけど。
しかも、国王陛下は生きてる前提で話を進めてるし、もしかしたら生きている可能性の方が高いかもしれない。
「陛下の考えはわかったわい。冒険者側からは、誰が調査に行くかのぉ?」
「アタシたち『青天の霹靂』が行くよ。」
真っ先にヴァネッサが返答をする。
「私達『鏡花水月』も行きましょう。」
アロルドも調査に行く様だ。
「ハヤト、お主はどうするのかのぉ?」
「俺はパスだ。入った事も無いダンジョンの異変なんかわからん。そもそも海底洞窟で火属性は役に立たんだろ。」
俺はもっともらしい返答でダンジョン調査を降りる。
もし本当に海底洞窟のダンジョンにクラーケンが通れる大穴があるのだとしたら、ダンジョン内は水浸しどころか海中になっているだろう。
戦うどころか生きて帰って来れるか怪しいところだ。
「では、地上の警備を任せるとしようかのぉ。」
「わかったよ。」
出来れば地上警備も遠慮したいところだが、そうも言ってられないようだ。
「決まったようだな。こちらからは騎士団を出させてもらう。隊を分けて、ダンジョンの通常の入り口とクラーケンが破壊したであろう横穴の二方向から調査をする予定だ。冒険者側は通常の入り口から進んで行ってくれ。」
「わかったわい。残ったメンバーはどうすればいいのかのぉ?」
「勇者パーティーを含めて残った者は待機だ。今、手の空いている騎士達でクラーケンの死体捜査を始めている。見つかり次第調査に加わってもらう。もし生きていたとしても重傷だろう。ここで仕留めない手は無いから、出来る限り急ぐとしよう。」
「作戦決行はいつにする予定かのぉ」
「作戦は明後日だ。明日いっぱいを持ってクラーケンの捜査を終了し、ダンジョンの調査を優先するものとする。見つからなかった場合、ダンジョン内にクラーケンがいる可能性が高い。気を引き締めて作業に当たってくれ。昨日の疲れも残っているだろうから、今日と明日は十分な休養と準備をして作戦に臨んでくれ。」
「「「「はい。」」」」
オズワルドの激励に全員が返事をする。
それからダンジョンの注意点や細かい打合せをして会議はお開きとなった。
「隼人は残ってくれ。」
「何で?」
会議室から出ようとしたところで光輝から声がかかる。
「さすがにわかるだろう。」
察してくれと言わんばかりの表情でそんな事を言われるが、身に覚えはない。もしかして、昨日の祝勝パーティーで冒険者側に居た事についてだろうか?
狙っていたとはいえ、俺がノコノコ王宮側に行ったらそれこそ変な感じになっちゃうんじゃないだろうか。判断を間違え達は思っていない。
「どうかしたかのぉ?」
「ジーノさん、彼を借りるよ。先に帰っていてくれ隼人は歩いて帰らせるから。」
「わかったわい」
「・・・」
いやいや納得するなよ。マジで。
そして俺は本当に置いて行かれた。
光輝が俺を呼び止めたのは、ここにいる王宮側のメンバーに俺の事を話すためだった。
それはもう完璧にカミングアウトされてしまったので、アトランティスでの平穏な生活は諦める事にした。




