馬車移動
翌日、言われた通りにギルドに顔を出す。
待っていたのは、ジーノとマウロ、ヴァネッサ、クラーケンに捕まってた男、そしてもう一人の会った事のない優男だ。
見た所、全員が高ランクの冒険者だろう。まぁ、ジーノに呼びだされている以上信頼のおけるメンバーであることに変わりはないのだが。
呼ばれているのは俺を含めてこの4人で全員だろうか?
「やっと来おったかハヤト。もう皆集まっておるるぞ。」
「そういうこと言うなら時間指定をしろよ。」
朝からゆっくりして、昼前に顔を出したところ、待っていたジーノから小言を貰う。
午前中に来いと言われたから来たわけだが、こんな小言を貰うのであれば時間指定はきちんとしてほしいところである。
「お主にも軽く話をしておきたいところじゃったが、仕方ないのぉ。移動しながら自己紹介だけでもするとしようかのぉ。」
「なんだ、移動するのか?」
「今回の作戦について説明してくれる人がおってのぉ。ほれ、馬車を待たせておるから話はそれからじゃ。」
「わかった。」
ジーノに言われるがままに全員が馬車へと向かう。御者はマウロで、他のメンバーは馬車の中に入って行く。
「さて、自己紹介といこうかの。」
ジーノはヴァネッサに目配せして、先陣を切る様に促す。
この自己紹介は俺の為にしてくれるって事でいいだろう。恐らく俺以外はここを拠点にしていて顔見知りだろうし。
「昨日かるく自己紹介はしたがアタシは冒険者ランクSのヴァネッサだ。『青天の霹靂』というクランのリーダーをしている。個人的な二つ名は『雷帝』だ。」
『青天の霹靂』水の国に雷属性のヴァネッサだからだろうか?二つ名の『雷帝』もそんな感じがする良い名前じゃないだろうか?まぁ、相変わらず厨二っぽい感じはぬぐえないが。
「俺は『棒振り』のジルド。ヴァネッサの姐さんのクランに所属している。冒険者ランクはAだ。」
次はクラーケンに捕まってたオッサンだ。どうやらヴァネッサのクランのメンバーだったらしい。確かに戦いの中で意思疎通ができていそうな雰囲気はあったが、『青天の霹靂』は脳筋系の集団なのだろうか?
「棒振り?確か、クラーケンと戦ってるときは斧振ってなかったか?」
「あれはマジックアイテムだ。普段は柄しかないが、地属性の魔力を込めると好きな武器に変化させられる。普段使うのは斧か槌だ。」
「なるほど。」
訓練は実力を隠すために柄だけで戦っていたのだろうか?それならその二つ名も納得できる。
ジルドは、外見の割に脳筋ではないのかもしれない。
「次は私だね。私は『流水』のアロルド。子爵の次男坊だけど気にしないでくれ。冒険者ランクはAで、『鏡花水月』というパーティーのリーダーをしている。」
次は『鏡花水月』か。なんだか水っぽいチームが多いな。二つ名も『流水』だし。
「最後は俺だな。Aランクの隼人だ。二つ名は『蒼炎』らしい。なんかハズいから呼ばないでくれ。」
「君があの『蒼炎』だったのか。」
アロルドが呟く。
『あの』って何だよ。誰がウワサしてるんだ?
ジーノやマウロが俺の事を知っているのは頷けるが、冒険者の人たちにまで知られているとなると何だか面倒になりそうな予感がする。
「隼人と呼べ。何でそんな厨二臭い名前を浸透させようとするんだよ。」
『蒼炎』って言われると眼帯して腕に包帯巻いて変なポーズとりながら『クックック・・・』とか言って笑ってそうなイメージあるんだよな。あくまで個人のイメージの話だけど・・・完全に偏見だけど・・・
「これは失礼。しかし、君のムスペリオスでの戦績は結構有名になっているよ。」
どうやらアロルドは武闘大会ファンのようだ。
武闘大会ファンなら、途中棄権した俺の事なんて放っておいて、優勝した名前も思い出せないモブキャラの事を延々と語っていてほしい。
「今すぐ忘れてくれ。そんなことよりも、ヴァネッサの纏いは何だったんだ?」
「キサマ、いきなり他人の詮索をするとは!」
俺の個人的な詮索にジルドが声を上げる。
確かに言う通りだが、こっちも話をそらしたかったんだ。このお叱りは甘んじて受けようではないか。
「ジルド、アタシは構わないよ。どうせ皆知ってることだ。幼い頃に雷に打たれて以来、体質が変化したらしい。雷を纏ってもほとんどダメージが無くてね。ありがたく使わせて貰ってる。」
意外にもヴァネッサから回答が返ってくる。
帯電体質?と言うヤツだろうか?炎の場合は全身大やけどになったが、雷の場合は雷に打たれたような感覚になるのだろうか。
それを体質でカバーできるのであれば、俺もぜひ熱さに強い人間になりたいものである。
「スゴい体質だな。」
「何もアタシはそれだけでSランクになった訳じゃないが、纏いの人体付加にはもっと上があるんだ。周りに被害があるから使わないけどな。」
「へぇ。どうなるんだ?」
あの全身ビリビリの上は周囲に落雷でもあるのだろうか?それならマジで強そうだな。
「それは見てからのお楽しみだな。」
「見れるチャンスはあるのか?」
今からされる話がどんなものなのかは知らないが、クラーケンを倒した以上ヴァネッサが本気を出すシーンなんてそうそう訪れないだろう。
「そこまでは知らないよ。」
でしょうね。
「気になるけど、そんなチャンスは来ないことを祈るよ。」
「消極的だな。」
「面倒なのが嫌いなんだ。」
「そうかい。」
Sランクの冒険者が本気を出す現場なんて、そうそう出会ってたまるか。
「ほれ、そろそろ着くぞ。」
「で、どこに来たんだ?」
「そんなの決まっておるじゃろ。王宮じゃよ。」
「は?」
俺達を乗せた馬車は王宮の門をくぐった。




