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裏方の勇者  作者: ゆき
水の都騒乱編
128/186

ヴァネッサ2

雨は完全に上がり、町は歓喜に包まれる。

いくつもの建物が倒壊し、死傷者も多く出た。しかし、三度目にして最小の被害でクラーケンの討伐まで完了したことに誰もが安堵し脱力する。


「では、クラーケン討伐成功に乾杯!」


その夜、冒険者ギルドはお祭り騒ぎとなった。


丁度よく大商会からの救援物資が届き、食料もそこそこな量が手に入っていたこともあって、それらを使って戦いに参加した冒険者たちに食事がふるまわれる。


「海鮮料理が美味いな。やっぱり鮮度が良いと一味違ってくる。」

「ガゥ!」


ありがたい事に途中参加の俺とループスの事をこころよく参加を快諾してくれた。そして、参加の快諾を後悔させるかのように普段手を出しにくい高級食材ばかりを狙って食いまくる。


「ほら、ルーも高級食材を食っとけ。ギルドのおごりでタダらしいから。」

「ガゥ!」


ループスには、名前を聞いただけで内包魔力が高いと思えるような食材を使った料理を与えて強化を図る。

ループスは好き嫌い無く何でもおいしそうに食べてくれるので、育てるのが非常に楽なのだが、強化のためとはいえ、高級食材ばかりを食べているので舌が肥えてこない事を祈るばかりだ。

やり過ぎると破産しそうで恐い。


「お主は一人なのか?」


料理にがっつく俺たちにジーノが話しかけてくる。


「ここに相棒がいるだろ。今日の今日でワイワイ騒ぐ人なんて出来るかよ。」


そう、俺は一人だがボッチではない。

ないはずだ。


「『蒼炎』のパーティーメンバーの事を聞きたかったのじゃがのう。」

「だったら一人だ。それと、俺は蒼炎なんて名乗ったっけ?」


何で蒼炎なんて知っているんだろうか?まぁ、一応ファイヤーソードを使ったとはいえジーノからは見えていないはず。そもそもクラーケンに隠れて誰にも見えない角度で魔術を使っていたと思うんだけど。


「そんなことは知っておるわい。ギルドは情報が命じゃからな。当時BランクでAランク上位のリリィ嬢に真っ向から勝利した。それだけの事をしたのじゃから、知名度が上がるのは当たり前じゃろう。」

「・・・やっぱり真面目に戦うのは断ればよかった。」


拳闘大会の話が広まりつつあるのか。

その場の雰囲気に呑まれて何度か本気の戦闘をしてしまったので自分の所為ではあるのだが、実際に広まり始めると面倒事が増えてきそうだな。


「その後のサボりで相当評価を下げたんじゃがな。」

「そっちは逃亡して正解だったみたいだな。」


光輝とも本気で戦っていたら、それこそ収集が付かなくなっていただろう。サボりの効果覿面だ。

その後で正式にフォローも入っているからマイナスイメージはそれほど大きくない。

良い目立ち方も悪い目立ち方もしていない。最高の状況が出来たと言っても過言では無い。


「お主はそれでよいのか?何はともあれ本人確認も出来た事じゃし、本題に入ろうかの。今回の救援は本当に助かった。ギルドを代表して礼を言う。」


ジーノは俺に対して頭を下げる。


「何だよ改まって。そういうのはあんまり好きじゃないから止めてくれ。ギルドマスターがこんな大勢の人がいる所で頭を下げるとか目立つだろ。」


俺は、慌ててジーノを止める。今日来たばかりの人間にギルドマスターが頭を下げるのは止めてくれ。ギルド内がちょっとザワついてんじゃねーか。


「目立たないように立ち回り、陰で支えるタイプの有能な怠け者。聞いておった通りの人物のようじゃな。」

「そんな事言ったのはどこのどいつだよ。」


有能なのか怠け者なのかどっちかにしてくれ。相反する言葉を並べるんじゃねーよ。


「用事の二つ目はそんな蒼炎に依頼があるのじゃ。詳しい話をしたいから明日の昼前に顔を出してくれるかの?」

「面倒臭い。せっかく来たんだから観光させろよ。」


ギルドマスター直々に依頼とか面倒事のにおいしかしない。そんなモノは断るに限る。


「観光は後でもいいじゃろ。お主は何でアトランティスに来たんじゃ?」

「ただの成り行きだ。来たくて来たわけじゃない。」


俺だってディアの言葉さえなければこんなところに来てねーよ。そもそも相性が悪い事この上ない。

火に対して水の魔物と大雨。さらには打撃の効かなさそうな軟体生物ときた。もう俺の出番ないだろ。俺以外で好きにやってくれ。


「まったく、話だけ聞きに顔を出してくれればいいわい。」

「聞くだけだぞ。」


聞いて断ろう。


「建前でもいいから普通の返事をしてくれ。」

「そういうのは嫌いだ。」

「・・・ワシはこれ以上なにも言わん。頼むから来るんじゃよ。」

「仕方ないな。」

「では、次の客が待っておるのでワシは行くとするかの。」


ジーノはそう言って席を立つ。


「次?」

「アタシだ。」


俺の後ろには、キッと睨むような目をしたヴァネッサが控えていた。


「ほっほっほ。後は若い者達でな。」

「どこのお節介ジジイだよ。」


ヴァネッサの表情見ろよ。これが恋愛相談をしに来た人物に見えるのか?見えるならすぐに教会で治療してもらった方が良い。


「話がある。少し付いて来てくれ。」

「わかった。」


俺は有無を言わさない様子のヴァネッサにしたがって付いていく。


「まぁ、なんだ。話ってのはこれの事だ。」


個室に入って扉を閉め、2人きりになる。決闘でも申し込まれそうな雰囲気に息をのむ。

ヴァネッサはゆっくりと腕に巻かれた包帯をほどき、ケガを見せてくる。光輝の攻撃が当たった傷だ。


「まだ治してなかったのか。ポーション貰ってただろ。」

「ポーションの事は今はいい。キサマは勇者と親しいのか?」


光輝に用事だろうか?仲がいいと言えば橋渡しに使われるだろう。ここは知らぬ存ぜぬでやり過ごさなければ。


「・・・何度か戦場を共にしただけだ。大した仲じゃない。」

「仲よさげに話していたので親しいと思ったのだっが違ったのか。」

「まぁな。勇者の技に巻き込まれた事で文句を言いたいなら他を当たってくれ。」

「・・・ぅ・・・だ」

「何?」


ヴァネッサの声が急に弱々しくなる。心なしか顔も赤い気がしないでもない。


「違う。アタシは礼を言いたかったんだ!」

「何で?」


本当に意味不明である。そんなピンチでもなかったし、礼を言うなら俺じゃないだろうか?一応光輝の攻撃から助けたわけだし。

キャラじゃないお礼という行為で照れてるのか?それとも流れ弾から始まる恋でもあったのだろうか?さすがにそんなアホな話はないか。


「あの目を覆いたくなるような輝かしい光に焼かれたのだぞ!あの甘いフェイスでこの暴虐っぷり!最っ高ではないか!」

「えぇ~」


もっとヤバかったんですけど。


「もっと!もっとあの光に焼かれたい!アタシの全身を痛めつけて欲しい!あぁ・・・勇者様の光に飛び込みたい!」

「・・・そういうのは間に合ってると思う。」


ちょっとドン引きなんですけど。Sランク冒険者って変人しか成れないモノなのか?

ホモ・筋肉・引き籠り・自由人・ドМって相当ヤバいんですけど。


「他にそういう対象が居るのか!?だったら一人増えても問題ないだろう!」

「そういう意味じゃねーよ。とにかく俺はそういう橋渡しは出来ん。ほかを当たってくれ。」


何でそんなにポジティブなのこの人。

俺はヴァネッサの強烈なキャラクターに後ずさりしてそっと部屋を出た。

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