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裏方の勇者  作者: ゆき
水の都騒乱編
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クラーケン2

「・・・来ないな。見間違えたか?」


空に光が走ってから少し経ったが、一向に光輝が現れる気配は無く、クラーケンとの戦闘は継続されている。


俺は光輝が来ると思っていたので、足を止めてボーっと戦いを見ていた。


「何をブツブツ言っている!さっさと働け!」

「・・・ハイ」


ヴァネッサからお叱り受ける。まぁ、この人手不足な状況で立ち止まっていたら当たり前だろう。


あまり大活躍はしたくないのだが、光輝が来てくれないなら背に腹はかえられない俺が何とかしよう。頭を切り替えて、再度クラーケンとの戦闘に参加する。


「ルー!フォロー!」

「ガゥ!」


迫り来る脚の1本をループスと一緒に受け止めて、ループスに抑えていてもらう。


「そのまま引っ張ってくれ!」

「グルルル!」


クラーケンの脚を咥えたループスが唸る。


俺はクラーケンの脚の上を走り、本体に飛び乗り、石杭のダメージが入っている場所を探して拳を叩き込む。


「っああぁぁぁ!」


使う技は崩拳。クラーケンは大きすぎて鎧通しは効きそうにない。ならばすでにヒビの入っている殻を破壊する方に動いた方が良いだろう。


ゴッ


崩拳によって、殻に入っていたヒビが大きくなる。衝撃が本体まで届いたのか、クラーケンの巨体が一瞬揺れる。


「硬てぇ!」


クラーケンんの殻は予想以上に硬く、叩き割る気で打ったつもりの崩拳でもヒビの拡大にとどまってしまう。


与えようとしていたダメージよりもずっと小規模になってしまった事に、自分の実力不足を痛感する。


「よくやった!離れろ!」


もう一撃入れようかと悩んでいたところで、ヴァネッサから指示が飛んで来る。ここは素直に従い、次回の機をうかがおう。


「纏い!人体付加!」


ヴァネッサは雷を体に纏ってクラーケンに突撃する。


「は?」


思わず声が漏れる。人体に纏いを使う事は出来ない。俺もやった時は全身火傷を負って後悔したが、ヴァネッサは平然と雷を纏った。

ヴァネッサは雷の様に一瞬で駆け抜ける。ヴァネッサが通った付近は雷に焼かれて黒コゲになっている。


「はああぁぁぁあぁぁ!!」


俺が拡大したヒビの中心を槍で突き、さらにバチバチと放電と音をまき散らす。


そんな中、上空で魔力が集まっていくのを感じ取る。かすかに光るそれは、おそらく光輝の魔術だろう。


「不味いな。」


全身に雷を纏っているヴァネッサの姿は放電で見えにくい。光輝からは雷の魔術にしか見えないだろう。

頭が理解した途端に俺はヴァネッサの方に走り出し、光輝の魔術が落ちてくる前にヴァネッサの襟首を掴んで避難する。


「何を!」


ヴァネッサから抗議の声が上がるが気にしない。ただ、襟首を掴んでいるだけなのに俺に電流が流れて痺れる。


「痛てぇ、纏いを解け!」


マジで痛い。身体強化でガードしていても右手が焼けていくような感覚がする。


「なーーーあぐぅ!」


そして、真後ろに光が落ちた。

俺が一瞬ヴァネッサを掴む事を躊躇したためか、微妙に間に合わず、ヴァネッサの手を光輝の魔術がかすめる。


「光輝!」


近くにいるであろう人物の名前を叫ぶ。


「すまない、人だとは思わなかった。少し離れていてくれ。」

「ひでぇ言いぐさだな。まぁ、わからんでもないが。後は任せた。」


平然と雷を纏うような人間はちょっとどう判断していいかがわからない。ギリギリアウトではないだろうか?

変人ばかりだし、きっとSランクの人間はちょっとずつ何かがおかしいのだろう。

そんな事を考えているうちに、光輝はクラーケンへと追撃を入れる。


「ああぁぁぁぁぁ!」


気合と共に剣を振り下ろし、ついでと言わんばかりにレーザーの様な白い線が次々とクラーケンを襲う。

そして、満身創痍となったクラーケンは力なくゆっくりと沈んでいった。


「やったか!?」


そんなクラーケンを見てヴァネッサが返答を求めない問いをぶつける。


「・・・それを言ったらやったものもやってなくなるんだけど。」


フラグを立てるのはやめて欲しい。この状況だとピンピンした状態で戻ってくるか、キレて戻ってくるかの二択だろう。


「何だそれは?」

「いや、何でもない。気にするな。」


この世界の人たちにフラグと言う概念はあるのだろうか?どうでもいいことを考えつつ、警戒して海の様子を見続ける。

しかし、クラーケンが上がって来る事無く、徐々に雨が上がり始める。


「やってるではないか。」

「・・・そうみたいだな。取り越し苦労ならそれでいい。」


きっとこの世界にフラグという概念が無いからだろう。是非とも輸入しないままでいて欲しいところである。


クラーケンに止めを刺した光輝が余裕な足取りで戻ってくる。


「すまないね。大丈夫だったかい?」

「あの程度なら問題ない。」


ヴァネッサの左手は傷を負って赤黒くなり、所々流血している。

普通に問題ないで済ませる様な傷では無いように見えるのだが、Sランクのプライドなのか平気な様子で答える。


「それはよかった。僕は異世界から来た勇者の光輝、良ければ仲間のヒーラーの所に連れていこうか?」

「ア、アタシはSランク冒険者のヴァネッサだ。かすり傷だから余計な気遣いはしなくていい。」


2人は自己紹介を終えて、軽く握手を交わす。


「せめてポーションだけでも貰ってくれるかい?」


光輝はヴァネッサの傷が気になるのか、再度治療を勧める。


「・・・そこまで言われては仕方ない。不本意だが貰っておいてやろう。」


・・・光輝でもこんな事あるんだな。

光輝の周りで黄色やらピンクの声が上がるのは慣れた日常の様子だが、邪険にされる様子は初めて見た。なかなかレアなモノを見せてもらった気がする。


「それより光輝、来るの遅かったな。」

「キミが勝手に僕に期待して、来るのを待ち望んでいただけじゃないのかい?」


俺の皮肉に皮肉で返してくる。久々に聞いたが、やっぱり男に対する態度が挑発的なのはどうにかならないものだろうか。


「ひでぇ言われようだな。来ないなら来ないでどうとでもなったわ。言いたいのはそこじゃない。何か光ってから到着するまでの時間差がやたらとあった気がするんだが?」


それの所為でヴァネッサに怒られてしまったと言っても過言ではないだろう。


「この雨雲を散らそうとしたんだけどね。どうも自然現象ではないみたいで、斬ったそばから修復されてしまったよ。」

「ついに登場の演出までこだわるようになってしまったのか。拗らせ始めてるな。」


遅れてピンチの時に助けに来るわ、遅れてくるわ、登場の演出までこだわり始めたらもう主人公としての才能は凄まじいモノになってしまうだろう。


「そういうのは思っても言わないでくれるかい?」

「おっと、すまん。つい。」

「僕は、雨で視界が悪かったのをどうにかしようとしただけだよ。」

「わかってるよ」


わかっているとも。


「・・・わかってなさそうだね。」


ニヤつく俺に、光輝はため息をついた。

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