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裏方の勇者  作者: ゆき
水の都騒乱編
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戦場へ

飛行船は視界の悪い雨でも速度を落とさず何とか飛行船場に到着する。

アトランティス側の迎えは最低限といった様子で、王族であろう身分の高そうな人物が一人と護衛が10人ほどしかいなかった。

クラーケンが町を襲っている状態で盛大に迎えるのは不可能だという事は解っているので、誰もそこに突っ込むことはない。


「この度は緊急事態につき、派手なお迎えが出来ず申し訳ございません。わたしは現王の妹、フィオレ・フォン・アトランティスですわ。」


勇者達を迎かえてくれたのは王妹のフィオレ。最近少し年の離れた兄が王位を継承し、王国内で少しゴタゴタしていた矢先のこの騒ぎである。


「お久しぶりですフィオレ様。こちらが、この度召喚された勇者様達です。」

「勇者の光輝だ。よろしく。」

「弓術士の雫です。」

「ヒーラーの結衣です~」

「狙撃手の杏華ですわ。」

「勇者様方、急な要請に駆けつけて頂きありがとうございます。御助力よろしくお願いします。」


アリアが勇者達を紹介し、各々が挨拶する。

迎えのアトランティスの面々は杏華の狙撃手という単語に首をかしげながらも笑顔で迎え入れる。


「早速だけどフィオレ様、僕たちは飛行船から戦場を見ていたんだけど、すぐにでも駆けつけた方がいいと思っている。」

「勇者コウキ様ありがとうございます。願ってもない言葉です。小型の飛行船を用意しておりますので、宜しければお乗りください。」


フィオレは念には念を入れて光輝達が戦いへの参加を切り出された時の為に飛行船を飛ばす手はずは整えていた。その準備が無駄で終わらなかったことに安堵する。


「わかったよ。」

「準備がいいですわね。」

「この状況じゃそうなるでしょ。」

「だよね~」


光輝達は大した緊張感もなく用意されていた飛行船に乗り込んでいく。


「アリア様は無理しなくても大丈夫ですよ。飛行船を操縦してこられた皆様も長旅で疲れたことでしょう。ひとまずお休みください。」

「私は行きます。召喚者の使命として見届ける義務がありますので。」

「そうですか、ではこちらに。」


フィオレは本当にただの気遣いで戦いに参加しなくても良いと言ったつもりであったが、アリアは真剣な表情で義務だと言い張って乗船していく。

全員の乗船が完了したところで、すぐさま離陸する。


「わ~速いね~」

「この船は速度を出せる設計になっています。その代わり少し小さくなってしまっていますわ。」


フィオレは結衣の小学生のような感嘆にもきちんと答えてくれる。


「わざわざ運んで貰ってありがとうございます。」

「もともとお願いしたのはこちらですので、この程度であればなんなりと。」

「困ったときは助け合いが大事だと僕は思うんだよ。」

「そう言っていただけると嬉しく思います。」

「それで、ここからどうしようか?」


光輝が本題を切り出す。普段は一緒にいる皆だが、今回はすでに戦いが始まってしまっている上に乱戦である。雫は何とかなるにしても、結衣が戦場を駆け抜ける事は難しい。

となれば、バラバラになって部隊に混ざる方が得策だろうと光輝は考えていた。


「光輝は最前線まで行くんでしょ?私は中距離の場所に混ざるわ。」

「じゃ~わたしは後方支援だね~」

「わたくしは戦場を見渡せる場所があればそちらへ。」


光輝の意図を汲んでか、全員が各々の得意な部隊への参加を希望する。杏華はそんなモノは無いので、超遠距離からの支援である。


「そうか。フィオレ様、この船は空中で停止させることは可能かい?」

「可能ですが、どうされるのですか?」

「少し高度を上げて停泊させて欲しい。そうすれば杏華が戦場全体を支援出来る。」

「戦場全体をですか。・・・わかりました。」

「これで方針は決まったね。取り合えずこの雨を消せるかやってみようか。」


丁度アトランティスの騎士団の本陣の上空に到達したところで光輝が行動に出る。クレイヴソリッシュに尋常ではない量の魔力を込めて、戦場を分厚く覆う雲めがけて振り上げる。

剣が延長されるかのように光が伸び、尾を引きながら雲を切り裂く。

しかし、切れたのは一瞬だけだった。光輝の斬撃で真っ二つに割れた雲は、一瞬だけ光を見せたが逆再生でもするかのように元に戻って光を閉ざしてしまう。


「・・・ダメみたいだね。」

「普通はこんなことはあり得ません。何かの魔術が働いているのかもしれません。」


光輝の斬撃に興奮しているのか、晴れない雲に絶望しているのか、少し強めの声でフィオレが呟く。


「仕方無いね。雲の件も気になるけど、まずはクラーケンからだ。僕は先に行かせてもらうよ。」


隼人の挑発もあり、光輝は急いで最前線に向かう。飛行船を飛び降り、身体強化で防御を固めて華麗に着地する。そのまま全速力で走り出す。


「あ、ちょっと。すみませんフィオレ様うちのバカがそそっかしくて。」

「正義感溢れる素晴らしい方ですね。」


雫はすかさずフィオレに謝罪を入れる。そして、自分たちも戦場に行く決意を固める。


「厄介事に首を突っ込みたがる変人ですよ。では、私たちも行きますね。」

「ど~やっていくの~」

「私達も跳ぶのよ。大丈夫よ私の風の魔術でゆっくり降りれるわ。」

「じゃ~お願い~」


雫は結衣の手を取り、意を決して飛び降りる。結衣はそんな雫に身を任せて続いていく。

雫と結衣は、雫の完璧な魔術の操作でゆっくりと下降していき、ほとんど音を立てずに軽やかに着地する。


「すご~い」

「隼人の講習でなんとなくコツは理解できたから、これくらい簡単よ。」


結衣の称賛に対して、雫は若干得意げになる。


「行ってしまいましたわね。それでは、戦場が見渡せるよう高度を上げてくださいまし。」

「わかりました。」


杏華の要望を受けて、飛行船はゆっくりと上昇していく。


「この辺りで大丈夫ですわ。」

「ここから何をされるのですか?」

「見ていればわかりますわ。」


杏華は最近手に入れたライフルを構えて狙いを定める。まず最初に援護するのは光輝と雫である。


結衣は降りた段階で本陣なので、移動することはないし、すでに安全の確保は出来ている。


当たり前だが光輝は最前線で、雫は遠距離部隊の方へと向かっていっている。とは言っても雫の目的地の遠距離部隊までは魔物も近づいて来ていない。


主に光輝の移動を支援していく。行く先々で待ち構える魔物をストーンバレットで排除しつつ、付近で目についた冒険者を襲う魔物もついでと言わんばかりに撃ち抜いていく。


市街地ではあるが、飛行船からは大体の場所が見る。見えてしまえばこっちのもので、杏華はリズムよく引き金を引いて本当に戦場全体を支援し始める。


「この距離で正確に当てるなんてすごいですね。」

「わたくし専用に作ってもらったのですわ。」


フィオレの驚いた声に、杏華は優しい表情でライフルを撫でながら返答した。


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