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裏方の勇者  作者: ゆき
水の都騒乱編
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到着

その後も旅は順調に進み、遂にアトランティスが見えてくる。目の前には地上と海の間に陸と海が入り交じった巨大な港町が広がる。

海底から伸びている町は海側が船着き場で陸に行くに連れて建物が高くなっている。見えはしないが、海側は下に長いのだろう。そんな景観も、多少壊れた跡がある。

港側が破壊されているということは、魔物は海から攻めてきたということだろうか?

となると、俺とループスと杏華は今回無能じゃないか。海という水量に対して火属性は相性が悪すぎる。ディアも何でこんなところに俺を送り込んだんだよ。相性とかご存知じゃないのかな?


「港側が半壊していますわね。」

「海中都市がどうなっているかまではわからないが、急いだ方が良さそうだね。」

「観光できるかな~」

「考えるのは後よ。早急に国王陛下に会わないと。」

「そうですね。最後の連絡から状況が変わっているかもしれません。至急遣いを送り、謁見の準備をしましょう。」


アリアは従者に目配せをして、さっそく遣いを送る。


「ちょっと待て、何か様子がおかしいぞ。」


雷の音と共に、空に暗雲が垂れ込め、穏やかだった海が急に荒れ始める。

多少壊れはしていたが、観光地のキレイだった風景が1分と経たずして分厚い雲の暗闇と豪雨で不気味なモノへと変貌する。


「何よあれ?」

「三角波~?」


荒れ始めた海からいくつかの水柱が上がる。高さ自体はそんなにないが、かなり太い。

結衣は三角波なんて言葉を良く知ってたな。意外だ。


「違いますわ。水柱の中にタコの脚のようなものが見えますわ。」

「あの大きさですと、クラーケンだと思います。」


クラーケンといえば巨大なイカとして色々な物語に出てきているな。海の魔物の定番といったところだろうか。


「クラーケンか。イカだな。今日はイカ飯にしよう。」


食えるのだろうか?


「どうだろう?地球の伝承だとイカともタコとも言われてるはずだよ。そもそも元の世界には実在しない生物だしね。」

「脚の数を数えてみる~?場合によってはたこ焼きになるかもよ~」


光輝にはスルーされたが、結衣はノッてくれた。クラーケンの脚をこっそりくすねよう。そうすれば結衣が料理してくれるかもしれない。


「呑気なこと言ってる場合じゃないわよ。」

「そうですね。早くクラーケンを何とかしなければ。」


雫とアリアがふざけた話をすぐに元に戻す。


「杏華、細かい状況は見れるかい?」

「ある程度は見えますわ。騎士と冒険者らしき人が集まってきていますわね。迎撃すると思われますわ。」


光輝の言葉に、杏華はライフルについているスコープを覗く。


「なるほど、応援は必要そうかな?」

「まだ何とも言えませんわ。でも、海から小型の魔物も多数攻めてきていますわ。」

「町の様子からすると、何度かクラーケンに襲われているけど、討伐出来ずに撃退でいっぱいいっぱいになっているといったところかしら。」

「そうだろうね。アリア姫、僕達はそのまま加勢に向かっても構わないかい?」


考えられる状況を予想し、光輝は案の定アトランティスの救援の為、すぐに動こうとする。

元々の目的が救援だが、是非とも一度ゆっくりしたい。アリア王女にはこの光輝の提案を蹴って欲しいところである。


「救援に向かいたい気持ちはあるのですが、出来れば報告を先にしたいです。他国なので勇者様と言えど手続きも無しに戦闘に参加するのはアトランティスの貴族からのイメージが良くないのです。後の事を考えると、先ほど送った遣いからの返答を待った方がいいかと。」

「何もできないのはもどかしいね。」


光輝は飛行船のヘリを掴んで荒れた海を睨みつける。


「仕方ないじゃない。勝手に介入しても怒られる。見て見ぬふりも怒られる。結果が同じなら言い訳できる方をとるのが賢い選択よ。」


一人突撃しそうな勢いの光輝を、雫がたしなめる。

光輝の厄介事に突っ込んでいく性格は何とかしてほしいものだ。今回はアリア王女がストップをかけてくれたが、巻き込まれるこっちも身にもなって欲しい。


「的が大きいですし、バレないようにライフルで狙撃するのも手ですわ。・・・べ、べつにどこまで届くかな~?とか思っていませんわよ。」


厄介事に突っ込んでいくのはお家柄のようだ。雨さえ降ってなければ本当に出来そうで怖い。


「隼人、杏華をトリガーハッピーにした責任取りなさいよ。」


そしてなぜか雫に怒られる。


「何で俺に振るんだよ。元々そういう気質が有ったんだろ。」

「そ、素質。」

「隼人?」

「・・・何かゴメン。」


何故か雫に睨まれる。最近、杏華が無駄にポジティブだったりポンコツだったりして良く解らない。しかし、時期的にライフル製作辺りからなので、俺の所為と言われると否定しきれない所が厄介である。


「杏華、狙撃は無しよ。」

「仕方ありませんわね。」


杏華は狙撃の射程限界が量れない事に肩を落とす。


「じゃあ、俺が行こうか?・・・なんだよその目は。」


行こうかと言葉にした瞬間に、全員からジトッとした視線を向けられる。


「変なもの食べた~?」

「王宮の料理に胃がビックリしたのかも知れませんわ。」

「俺が普段から何食べてると思ってんだ?」


散々な言われようだ。杏華が若干心配そうにこっちを見てくるのが本当にキツイ。せめて冗談っぽく笑ってくれ。マジで心配されてそうな迫真の演技力だ。


「隼人が変なことを言い出すからでしょ。大体予想はつくけど、何をたくらんでるの?」

「俺が善意で動いたらダメなのか?」

「隼人が見ず知らずの人に善意で動くなんてあり得ないわね。正直に冒険者として入国して、勇者としての厄介事に関わらないようにしたいって言えばいいのよ。」

「よくご存知で。どうせ俺の事なんて誰も覚えてないだろうし、問題あるか?」


わかってるなら言わせるなよ恥ずかしい。


「光輝はどう思う?」

「効率はそっちの方がよかそうだね。ただし、連絡は密に取り合うのが条件だけどね。」


本当に逃げて音信不通になるんじゃないかと疑われているこの立ち位置を何とかしてほしい。

まぁ、日頃の行いの所為だろうな。まだ逃げないとは言っていないし。

逃げないけど・・・


「わかったよ。先に行って足止めしてるから、さっさと追い付いてきてくれ。」

「言われなくても。」

「ルー。行こうか。」

「ガゥ!」


俺は飛行船のヘリに立ち、船の中を見る様に身体を反転させ、両手を広げたところでループスが俺の胸に飛び込んで来る。

飛んで来たループスを抱きかかえ、勢いをそのままに後ろへと倒れていく。

ボンベを背負ったダイバーが海に入る様に、俺は真後ろに倒れて空へと落ちていく。

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