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裏方の勇者  作者: ゆき
水の都騒乱編
122/186

相談所 雫 2

「雫さん、ご相談があるのですが。」

「いいわよ。」


杏華も相談しに来た。雫相談所は大人気である。


「ありがとうございます。ここでの話は秘密にして欲しいですわ。」

「大丈夫よ。何でも相談にのってあげる。」

「さすが雫さんですわ。実は、最近気になってる方がいるのですわ。」

「・・・隼人はやめておきなさい。」


雫は最近思っていたことを口にする。


「なっ・・・!は、隼人さんの事とは、まだ一言も言っておりませんわ。」


杏華はかなり驚いた様子で後ずさる。雫としては、なぜ隠せていると思っているのかが良く解らない。

雫はいまだにボロを出している事に気づいていない杏華にさらに追い打ちをかける。


「まだ?」

「はっ!い、今のは違いますわ。い、いえ、違わなくないですわ。さすが雫さんですわね。」

「皆気づいてるわよ。」

「・・・へ!?・・・・・・えぇ~!?」


杏華は想像以上の事態に目が点になる。

そして数秒かたまった後、脳が理解して耳まで真っ赤になって手で顔を覆う。


「結衣ですら気づいてるわよ。知らないのは本人だけね。」

「あ、あり得ませんわ!雫さんもからかわないでください!」

「落ち着きなさい。今の話は残念ながら本当よ。それに、昔から公言してたじゃない。『好きな人はお兄様より秀でた人』だって。最近そんな事があったのは、隼人だけよ。」


杏華は顔を赤くしながら、食い気味に雫に詰め寄る。

対して雫は、照れ隠しで掴みかかってきそうな杏華に軽くデコピンを食らわせて落ち着かせる。


「あぅ・・・よ、よく覚えてましたわね。」


デコピンが効いたのか、正気に戻った杏華は額をさすりながら話を続ける。


「それに、最近大切そうにしているネックレスは、隼人と遊びに行ったときから着けてた気がするけど?」

「そう、ですわね。最初はただ興味をいだいただけなのですが、話していると思いのほかお優しく、何と言うかその・・・」


普段の杏華からすると、信じられないくらいの弱々しさで、言葉も仕草もモジモジと尻すぼみになっていく。

雫は初めて見る杏華のそんなギャップのある姿を不覚にも可愛いと思ってしまい、なんとなく助けたいと思ってしまう。


「気になる人だったのが、気になる異性に変わってしまった?」

「ま、まだ確定ではありませんわ。」

「そうね。好きなだけ悩みなさい。悩んで後悔しない道を選ぶことね。相手が相手だけど、杏華が幸せなら私はそれでいいわ。」

「で 、ですからまだ確定ではありませんわ。」

「はいはい。恋する乙女は可愛いわね。」

「今日の雫さんは意地悪ですわ~」


雫はこれから襲い掛かってくるだろう気苦労を前に、杏華をいじって英気を養う。

杏華は、そんな雫のいじりに耐えかねて、顔を真っ赤にして部屋を飛び出していった。

さすがにやり過ぎたと思った雫は、杏華が元に戻るタイミングを見計らって謝罪をしておこうと決心する。




「雫ちゃ~ん、大変だよ~」

「どうしたの?」


ノックもせずに結衣が部屋に飛び込んでくる。


「私の杏華ちゃんがとられちゃう気がするよ~」

「結衣のじゃないけどね。」

「えぇ~。じゃ~誰の~?」

「知らないわよ。話はそれだけ?」


いつも以上に意味不明な結衣を放っておいて、雫は読書に戻ろうとする。


「むぅ~雫ちゃんのイジワル~」


雫はいつも以上に意味不明な結衣を放っておいて読書に戻ろうと本を手に取ったところで、結衣が雫の腕を掴んで涙目で訴えかける。


「冗談よ。とられるのは本当に杏華なの?」

「何~哲学~?」


結衣は、まったく何が何だかわからない様子で首をかしげる。


「哲学ではないけど。何で杏華がとられると思ったの?」

「乙女の勘だよ~。何か~モヤモヤするんだよ~」

「乙女の勘への理解力がまるで足りないわね。」


雫は結衣が自分自身の気持ちを理解していない事にどう対処して良いのか解らなくなってこめかみを押さえる。


「雫ちゃんには解るの~?」

「多少は?」

「お~し~え~て~よ~」

「自分の胸に聞いてみなさい。」

「・・・解んないよ~」


駄々をこねる結衣に、どこまでヒントを出していいかもわからず抽象的な回答になってしまう。


「まぁ、本当に大切なものがなんなのか、ゆっくり考えなさい。」

「わかったよ~」

「はぁ・・・重症ね、本当に。」


トボトボと部屋を出ていく結衣の後ろで、雫はため息をつく。


実際に雫は結衣の気持ちを完璧に理解している訳ではない。何かしらの好意の感情がある事は確かなのだが、それが友愛なのか恋愛なのかがわからないのである。

普段は友愛と言うよりも家族愛に近い行動をするのだが、こうして嫉妬の様な行動を見せられると恋愛感情なのだろうかとも思える。

杏華と結衣の両方を幸せに出来る方法を考えていかなければならないこの状況は、お人好しの雫にとって相当な悩みの種となってしまった。





「雫相談所はまだ空いてるか?」

「何で隼人まで来るのよ。」


雫は悩みの元凶である隼人を睨みつける。


「・・・酷くね?皆が雫に相談してたっぽいから俺も来たんだよ。」

「まぁ、いいわ。どんな相談かしら?」

「さすが雫。ハグやキスの挨拶が無いだろうこの世界において、特に他意の無いキスって何だろうか?」

「あら?どなたと?」


雫は、悩んでいるところにさらなる燃料を投下してくる隼人の胸倉をつかんで引き寄せる。


「痛いです。」

「あ、ごめん。少し取り乱したわ。」


隼人の悲鳴に、正気に戻った雫はパッと手を放す。


「取り乱したとかそういうレベルじゃなかったと思うんだが・・・」

「・・・気にしないで。それで、どうしてそうなったのかしら?」

「カクカクシカジカで」


隼人は、事の顛末を雫に話していく。

話を聞いていくうちに、雫の表情はどんどんと険しくなる。

この状況で三人目の出現は予想外であり、雫としてはどうにかして回避したい一件である。


「そういうことね。隼人は今後、その人とどうなりたいの?」

「俺は・・・良く解らん。出来れば今のままの関係性を続けたいんだけど。」

「・・・だったらそのままでいいんじゃない?他意はないって言われてるなら相手もそれを望んでいるみたいだし、隼人が気にする事ではないはずよ。」

「そうか。」

「それに、面倒事は嫌いなんでしょ?話を合わせておけば丸く収まるわよ。」


何も起きない方向へ隼人を誘導して悩みを減らす。


「・・・そうだな。」

「隼人も光輝も真面目が過ぎるのよ。普段は適当な癖に・・・」

「心外だな。俺と光輝を一緒にするなよ。」

「私からしたら似たようなものよ。」

「そんなに迷惑かけてる気はないんだがな。」

「大して変わらないわよ。」

「そうか。まぁ、すまん。」

「まったくよ。話はそれだけかしら?」

「あぁ、つっかえは取れたよ。」

「そう、よかったわ。」


隼人はまだ何かありそうにしながらも、部屋を出ていく。


「・・・誰だか知らないけど、ごめんなさいね。私もこの面倒な話をさらにややこしくしたくないのよ。」


雫は顔も見た事無い相手に対して謝罪を入れる。

雫は基本平等ではあるのだが、今回はさすがに幼馴染たちを優先することにした。





夕方、雫の部屋の扉の前でまた音がする。


「また誰か来たの?」

「ガゥ」


雫が扉を開けると、ループスがお座りをして尻尾を振って待機していた。


「あら、ルーちゃん。遊びに来てくれたの?」

「ガゥ」

「そぅ、じゃあ一緒に寝ましょうか。」

「ガゥ」


雫はループスを抱きあげて寝室へと向かう。ベッドの上に座ってたっぷりと可愛がった後、ループスを抱いたまま眠りについた。


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