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裏方の勇者  作者: ゆき
水の都騒乱編
121/186

相談所 雫 1

雫の1日は決まった時間に始まる。

小学校の時から早起きで、目覚ましがなくても6時には目が覚めて、起き上がる。寝起きは良い方だ。

それから軽いストレッチで身体を完全に目覚めさせる。

日本にいた頃はその後で朝食を取り、少しゆっくりしていたが、今は朝食の時間が決まっている為、トレーニングまでやってしまう。

座禅を組んでの瞑想に始まり、軽い筋トレをする。旅の途中でなければランニングまでこなし、シャワーや風呂で汗を流してから、結衣と杏華を起こす。


「朝よ、二人とも起きなさい。」


言葉では起きないので、結衣の身体をゆすって起こす。


「・・・雫ちゃん、おはよ~。」


起きた結衣は、寝ぼけた目を擦り、両手を前にだして目を閉じ、口をつきだす。


「何よその手と口は?」

「おはよ~のチュ~」


雫は結衣に近づき、ペシッと軽くおでこにチョップをかます。


「バカなこといってないで顔でも洗ってきなさい。」

「いた~い。雫ちゃんのいけず~」


結衣は残念そうな顔をして、行き場を失った手で枕を掴み、雫の代わりに抱きしめてフワフワと上半身を揺らしていた。

結衣は寝ぼけて意味不明な行動をとるが、まだましな方だ。


杏華は非常に朝に弱く、完全に起きないので苦労する。


「杏華、朝よ。」


ゆすっても起きないので、最初から掛け布団をひっぺがす。

布団を剥ぎ取られても、杏華は全く起きるそぶりを見せず、規則正しい寝息が聞こえてくる。若干顔がニヤけたような気がしないでもない。


「全く、どんな夢を見てるんだか。」


寝相で少し着崩れたレースのベビードールからは、少し攻めた大人な下着が覗き、呼吸に合わせて胸が上下している。

男には決して見せられないエロティックな姿である。

雫は腰にてを当ててため息をつき、気合いをいれて動き出す。

肩をゆすり、ペチペチと頬を叩き、しまいには転がしてベッドから叩き落とす。


「い、痛い、ですわ。」

「おはよう、杏華。」

「おはようございます、雫さん。何で私は床で寝ていますの?」

「さぁ?寝相が悪かったんじゃない?」

「また落としましたわね。」

「起きない方が悪いのよ。着替えて朝食にしましょう。」

「わかりましたわ。」


全員で朝食を取り、軽く打ち合わせをした後は自由時間である。

雫は自室に戻り、飛行船に持ってきた本を読みはじめる。

元々読書好きで、こちらに来てからもフィクション作品から魔術書まで読み漁っていた。

そんな午前の優雅な読書タイムをノックがさえぎる。


「どうぞ。」

「失礼します。」


雫の部屋に、少し悩んだ顔のアリア王女が入ってくる。


「どうかしましたか?」

「少し、相談事がありまして。」


雫は、アリアの言葉に姿勢を正す。


「いいですよ。」

「その、勇者様の好みを教えていただけないかと思いまして。」

「好き嫌いは無いわよ。」

「・・・そうではなくて、女性の好みを、です。」

「それなら知らないわよ。」


雫はそういう好みではない事は重々承知の上で発言している。もちろんアリアの光輝に対する感情を茶化している訳でもなく、本当に知らないのだった。


「そうなのですか?雫さんであれば知っているかと思ったのですが。」

「聞けば教えてくれるでしょうね。元の世界でもその質問は何度もされてきたけど、一度も光輝に好みの女性を聞いた事はないわ。」


雫は、きっとその質問が光輝を不幸にすると思っていたからだ。

雫本人も光輝の好みに興味はあった。聞けば教えてもらえる自信もある。

しかし、自分が光輝の好みを知っていて口を滑らせてしまったら光輝を狙う女性陣は光輝の理想に近づこうとするだろう。色眼鏡無しにしても、光輝はそれくらいの魅力を持っていると思っている。

嘘で塗り固めた理想なんて、どちらも不幸にするだけだ。雫はそんな責任を背負う気はなかったので、聞かない事にしていた。


「そう、ですね。ごめんなさい、私としたことが色々と焦ってしまって。」

「別にいいわよ。それに、好みを教えないからといって応援しないわけじゃないから。」


雫はアリアと出会って長いわけではないが、真面目さを理解しているし、一部に対して刺々しいところに目をつむれば好意的にも思っている。

お人好しな性格も相まって、アリアを応援しようと動き出す。


「ありがとうございます。雫さん」

「アリア王女は私達以外で一番光輝といる時間が長いから、焦らずにいきましょう。」

「はい。また相談しても宜しいですか?」

「いいわよ。」

「ありがとうございます。」


アリアはすっきりした様子で去っていく。


最初は光輝のそばにいる女性という事であまりいい空気ではなかったが、話しているうちにライバルでない事が判明したため結局このポジションに落ち着いてしまった。結局雫は異世界に来てもこの状況は打破できなかった。

まったく恋愛経験がないのにもかかわらず、こういう話はよく相談されるので、どんどん耳年増になっていっている現状に頭を押さえる。

杏華の件もあり、乗り掛かった船なのでやりきろうと頭を切り替え、読書にもどる。




コンコン


部屋がまたノックされる。


「雫、ちょっといいかい?」

「何?」


入ってきたのは光輝だった。


「相談事があってね。」

「あんたも?まぁいいわよ。」


普段は自分で何とかしてしまう光輝からの相談は珍しく、またも姿勢を正す。

光輝自身の手に負えない問題となると、個人では対応しきれない規模のモノか、光輝の苦手な分野の二択だからだ。

前者であれば会議で議題に挙げるか相談相手はその分野の権力者にするはずだ。雫は後者であると当たりをつける。


「この世界にとどまるのか、帰るのかをね。」

「いきなりスケールが大きいわね。帰れるかどうかもわからないのにその悩みはないでしょ。本当の悩みは、アリア王女とアレクシア王女の事ね。他にも大勢いるけど。」

「雫には敵わないね。その通りだよ。この世界の女性はすぐに外堀から埋めてきてね。結婚の平均年齢も低いからちゃんと考えないといけないと思ってね。」


雫は、先ほどのアリアの相談で恋愛方面に思考がいっていた為、それ絡みのカマをかけたつもりだったのだが、当たってしまって一瞬硬直する。


「・・・少し真面目すぎるんじゃないかしら?こんな非現実的な所に来ているんだから、もうなるようにしかならないわよ。それに、この世界は一夫多妻制みたいだしね。光輝が危惧してる事は起きないんじゃない?」


光輝は女子に囲まれることが多い。ファンクラブも存在し、ファン同士がお互いをけん制し合っている為、幼馴染の雫や妹の杏華・雫の親友である結衣を覗いて、一定以上近づこうとする人はいない。

不用意に近づきすぎれば攻撃の対象になってしまうからだ。


「確かに、あんな事は起きて欲しくないとずっと思っているよ。だからなのか、なかなか踏み出せなくてね。」

「そもそも光輝のせいじゃないし、あの子はもう立ち直ってるわ。丁度良い機会だから、変わってみたらどうかしら?」


過去に一度だけ攻撃の対象となってしまった人物がいた。それが引っ掛かり、一歩踏み出せないでいる光輝の背中を雫は押して進ませようとする。


「だとしても、どうすれば良いのか・・・」

「好きにすればいいんじゃない?私もできる限りフォローするわ。」

「・・・そうだね。一度好きに動いてみるよ。」


光輝は少し積極的に動いてみようと決心する。


「それで?アリア王女とアレクシア王女、どっちが好きなの?他の子でもいいわよ。」


雫は話がいい方向に流れたところで、肝心な部分について非常に楽しそうな様子で聞き始める。


「今のところどちらとかは無いよ。2人とも真面目で可愛らしいと思ってる。」

「それは良かったわ。頑張りなさい。」


光輝の特に焦った様子も無く、当たり障りのない回答に雫は肩を落として落胆しつつ、話はひと段落した。


「相談して良かったよ。それはそうと、雫は好きな人はいないのかい?隼人とか。」

「・・・何で隼人の名前が出てくるのよ。好きな人なんていないわよ。」

「お似合いだと思ったんだけど。」

「やめて、考えただけで頭痛がしてくるわ。」

「お似合いと言うのは冗談だけど、雫が僕以外に素で話す異性は隼人だけだからね。ちょっと気になったんだ。」

「・・・」


雫は光輝をキッと睨みつける。

分が悪いと判断したのか、光輝はスッと踵を返して出口へと向かっていく。


「まぁ、今日はありがとう。」

「どういたしまして。」


予想以上に体力を削られたのか、雫は光輝が去って行ったあと、ドサッと椅子にもたれかかって目を閉じる。

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