方針
ヤケ酒に付き合い始めて早々に後悔する。
ディアのペースが早すぎる事と、これは忘れていた俺に非があるのだが、アルコール度数が高すぎる事だ。
ディアにお酒を注いでみも一向に潰れる気配はなく、逆に注がれて俺に被害がある始末。
フィーレはかなり弱いようで、数杯飲んで早々にダウンしてしまった。
俺はフィーレを、抱き抱えて後ろで横にさせる。
「・・・・・・ありがと」
「いいよ。横になって休んでてくれ。」
「・・・・・・ん」
「ハヤト様ぁ、遅いのですよぉ。」
「はいはい。今戻ります。」
「ハイは一回なのですなよぉ。」
フィーレの介抱で時間を稼ごうとしたが、ディアを止める人がおらず、すぐに席に連れ戻される。
愚痴るディアを慰めつつ、ディアが酒を飲むペースをコントロールする。
既にアルコール度数のおかしい酒をチビチビと飲んでいるのに、これ以上注がれては困る。
どれくらい愚痴を聞いただろうか?いつ終わるのかと思いながらも、完全にイエスマンとした俺はディアを肯定し続ける。
ディアは今回のウワサだけに飽きたらず、普段の不満が爆発するかのように喋り倒した。
ようやく全て吐き出したようで、言葉数が減りうとうととし始める。
「もう寝るか?」
「そうするのですよぉ。」
ディアはそう言ってカウンターに突っ伏した。
「そんな寝方じゃ疲れが取れんぞ。」
「じゃあ、ハヤト様がベッドに連れていくのですよぉ。」
ディアは俺の方を向いて両手を広げる。無駄に優しげな笑顔なのが反応に困る。
フィーレの場合はなんとなくやってあげたくなるんだが、ディアの場合は一瞬ためらう。
この違いはなんなのだろうか?日頃の行いか?
「早くするのですよぉ。」
「・・・わかったわかった。」
催促されてしまったので、仕方なくディアを抱き抱える。
「どこさわってるんですかぁ?」
「・・・落とすぞ酔っぱらい。」
「女神様に対する敬意が足りないのですよぉ。」
「聖騎士を首にするか?」
「そんなこと言ったら、ダメなのですよぉ。」
「じゃあ、我慢してくれ。」
「む~。仕方ないのですよぉ。」
「ほら、着いたぞ。」
ディアをフィーレの隣にそっと下ろす。
「私の感触を楽しめる時間が終わってしまってぇ残念ですねぇ。」
「・・・次は無いからな。」
何でこの女神様はこうも自信満々なんだろうか?
まぁ、そう言えるだけの容姿をしている事は認めるし実際にそう思うが、本人に言われると肯定しがたい感情が勝ってしまう残念さだ。
「じゃあ、帰るよ。おやすみ。」
「おやすみなさいなのですよぉ。」
意識が現実の礼拝堂に戻ってくる。
神界での酒が残っているのか、頭がフラフラするが、酒臭くはなっていないようだ。
若干ふらつくのを抑えこんでマリエルさんのところに向かう。
時刻はすでに夕方。神界の滞在時間は想像以上に長かったようだ。マリエルさんをかなりの時間待たせてしまった。
マリエルさんの部屋に着き、ノックをする。
「お忘れになって帰られたのかと思っていたのでございます。」
「ごめん、想像以上にディアとの話が長引いた。」
待ち疲れた様子のマリエルさんが出て来て小言を貰う。ディアと酒を飲んでいたので遅れたなんて、申し訳なさでいっぱいである。
「私よりもディアーナ様の方が大切なので、問題ないのでございます。あら、そのお顔はどうされたのでございますか?」
どうなっているのだろうか?来る途中に鏡があったわけでもないので、確認できていない。神界に行っている間に誰かに落書きでもされただろうか?
「顔?何か変な風になってるか?」
「いえ、赤いようですので、風邪でもひかれたのかと思ったのでございます。」
「あぁ、顔が赤いだけなら、酔ってるだけだから大丈夫だ。」
「飲んできたのでございますか?」
マリエルさんの目つきが少しキツくなる。やはり教会に酔っぱらった状態で来たらダメなのだろうか?まぁ、普通はダメだよな。
「神界でディアのヤケ酒に付き合ってきたんだよ。」
「そうだったのでございますか。詳しい話は掛けてからにするのでございます。」
部屋の中にに案内されて、いつものテーブルに腰掛ける。
マリエルさんは、紅茶ではなく水を持ってきてくれる。この気遣いは地味に嬉しい。
「ありがとう。」
「いえいえ。まずは、そうですね。聖騎士の就任おめでとうございます。」
「・・・ありがとう。」
「あまり嬉しそうではないのでございますね。」
「まぁ、面倒事だからな。」
既に数人にはバレてしまっているので、面倒事に巻き込まれる可能性は十分にある。
何とか可能性を減らすためにも、早々にウワサを根絶させる必要がある。半ば強引だったが、ディアの許可もある為何とかなるだろう。
「そうでございますか。大変名誉な称号なのでございますが。」
「名誉すぎて困る。考えようによっては勇者よりもヤバイ代物だぞ。」
よくよく考えたら、神様の代理で人を裁いても良いとかおかしくないか?王様以上にやばい権力じゃん。独裁政治も真っ青だよ。
「だからこそ、こうして皆が賑わっているのでございます。」
「あの賑わい方はダメだろ。光輝と逢瀬を重ねてるなんてウワサがあったぞ。俺が言えた事ではないが、さすがに不敬だろ。」
神様が存在する世界で、神様のフィクション的なヤツは作ったらダメだろ。天罰モノだよな。
「はい。今日お呼びしたのはその事についてなのでございます。神託をお伝えしたところまでは良かったのですが、この事態はさすがに行き過ぎでございます。ディアーナ様も怒っておいででしょうし、良い解決策はないかと思った次第でございます。」
「確かに怒ってたな。フィーレのおかげで既に何とかなってたけど。」
実際フィーレが居なかったら誰かしらに天罰が下ってたんだよな。
そう考えると、この国の人たちはフィーレにもっと感謝しなければいけない。
「それで、ヤケ酒でございますか?」
「そういう事。」
「では、あまり大事な話は出来ていないでしょうし、今後の方針はこれからでございますね。」
「もう決めてきたぞ。」
俺の周到な動きにマリエルさんは驚きを隠せないようだ。普段何もやらない人間がこうも早く動いたらそうなるだろうな。
俺は先ほど決めてきた重要な話の顛末をマリエルさんに伝える。
「では、神託ごと根も葉もないウワサにしてしまうという事でよろしいのでございますか?」
マリエルさんは、話を簡潔にまとめてくれる。
言っている事は簡単だが、実際やろうとすると大変だろうな。
何人かは不敬罪で捕まえなければいけないかもしれないし、一般市民が暴動を起こすかもしれない。そうなれば何人では済まないだろう。
政治的なのは詳しくないので、こちらは王宮の人間に任せてしまおう。
「あぁ。教会でもそういう風に話を進めてくれ。王宮は明日にでも俺から連絡しておく。」
「わかったのでございます。」
「じゃあ頼んだ。今日は疲れたからもう寝る。」
「はい。ハヤト様も頑張ってください。」
俺もマリエルさんも、明日からまた忙しくなると思いつつ別れた。
意味不明な酒のせいで調子が良くない。俺は宿に帰ってベッドに倒れ込んだ。




