聞き込み
王宮の前には、ちらほらと人が集まっている。いつもだとこんなにも人はいないので、ウワサの聖騎士様を一目見ようとしているのだろうか?
人の間を縫って門にたどり着く。
「入らせてもらうよ。」
「お、お待ちください。ただいま厳重警戒中でして、入場規制をしております。」
門番に止められはするが、顔を覚えてもらっているのでさすがにもう怒られはしない。
「こっちは一刻を争うんだよ。入場許可はあるんだからさっさと入れさせろ。」
「その割には、歩みが遅い様に見えるのですが・・・」
「気分が乗らないからな。とりあえず通るぞ。」
「ボディチェックだけさせてもらいます。」
一般市民が物珍しそうな様子で見てくるのが非常にむず痒いが、形だけのボディチェックをされて王宮の中に入って行く。
何度も通った道を歩き、目的の部屋の前で深呼吸をしてから足を踏み入れる。
「おじゃましまーす。」
「「「「「隼人」」~」さん」」
「何しに来たの~?」
勇者パーティーは会議中だったようで、全員が揃って部屋で話し込んでいた。
突然現れた俺に、真っ先に要件を聞いてきたのは結衣だ。まぁ、性格上俺がこのタイミングで現れた事にいち早く疑問に思ったのだろう。
「あぁ、れいのウワサについてだな。どういう経緯でこうなってるのか聞きに来た。」
「その件なのですが、もしかs----」
「あ~先に質問したのはこっちだ。答えてからにしてくれ。ウワサに対する現状の対応と今後の対策について教えてくれ。」
アリア王女が、俺の質問を無視して自分の質問を返してくるのを制する。
内容は同じだが、先に聞いているのはこちらである。何なら、上手い事聞くだけ聞いてさっさとズラかりたい。
「現状は箝口令を強いて、話さないようにしているくらいだね。それ以上は何もできていないよ。対策は検討中だね。無理に押さえつけては反発されるのがわかりきっているからね。」
俺の質問には光輝が答えてくれた。アリア王女はムスッとしている。俺の株なんて下がりきってるだろうから、これ以上下がる事なんてないだろうし、まぁ大丈夫だ。
それよりも、この噂に対しての対処が箝口令だけなのはどうだろうか?実際に箝口令なんてほとんど意味をなしていないし、ディアに報告するにしても弱い気がする。
ただ、光輝の言っている意味もわかる。口を出せば出すほど事態は悪化するだろう。見せしめに逮捕するわけにもいかないし、困った問題だ。
「しかたない。出来る範囲で動いている路線で行くか・・・。じゃあ、用事は終わったから帰る。」
「もう帰られるのですか?」
「あぁ、なんか皆忙しそうだからな。」
聞くことも聞けたので、俺は早々にドロンすることにした。すぐさま皆に背を向けて、出口へと歩いていく。
「待ちなさい。まだ、アリア王女の質問に答えてないじゃない。」
「デスヨネー。」
背中を向けた俺の肩を雫が両手でがっちりと掴む。振り向かなくてもわかる。きっと雫は怖い感じの笑顔だろう。さっきに似た黒いオーラを背中からひしひしと感じる。
俺は汗をかきながら、カタコトにそう返答する事しかできなかった。
「ハヤトさん。貴方が聖騎士で間違いありませんか?」
「・・・そうだよ。」
アリア王女の質問は予想した通りだった。俺は諦めて開き直る。
「なぜ報告しなかったのですか!?」
「いやいや、なったの最近だし。具体的に言うと杏華のライフルが出来てからだな。それに、アトランティス行きなんて今知ったところだぞ。本人よりも一般市民の方が先に知ってるとかおかしくないか?」
最近の話じゃなくても報告なんてしなかったが、ここは適当に事実で言い訳しておこう。アトランティス行きは本当に知らなかったし・・・。
「そ、それに関しては何も言えませんが、今後は聖騎士として活動していくのですか?」
「しないしない。面倒だし。」
勢いあまってジェスチャーまでつけて否定してしまう。聖騎士の事を大々的に発表されてたまるか。
勇者よりも厄介事が多そうじゃないか。
「そんな適当でいいと思ってるんですか!?」
「まぁ、女神様が許可してるから良いんじゃないか?気づいたら聖騎士にされてただけだし。」
「・・・聖騎士になるには神聖な儀式が必要だと言われています。気づいたらなってたなどあり得ません。」
アリア王女は少し苛立った様子で俺をまくしたてる。
確かにそんな感じのいい雰囲気は出していたけど、こっちは騙されてるからな~経緯が経緯だけに神聖ではないだろう。むしろ悪魔的だ。
「・・・あれを神聖と言って良いのか判断に困るんだが。」
「め、女神様との儀式が神聖でないと!?」
「ま~ま~二人とも落ち着いて~」
俺の言葉に反応して、さらに熱を上げるアリア王女。それを結衣が止めに入る。
「そうだね。実際に何があったかは解らないけど、隼人も言い方が悪いんじゃないのかい?」
「・・・そうだな。少し気が急いていた。すまん。」
光輝にも仲裁されて、仕方なく謝る。まぁ、小学生が喧嘩した時の様な形だけの謝罪だ。
「いえ、こちらこそ興奮しすぎました。すみません。」
アリア王女も定型文で返してくる。
「落ち着いたところで、隼人はなんでそんなに急いでいるのかしら?」
「そりゃあ急ぐだろ。多分ディア怒ってるぞ?早くなだめに行かないと。」
「・・・ディア?」
「あぁ。ディアーナ様。引っかかる所はそっちかよ。」
「あんた、女神様を愛称で呼んでるの?」
「本人がそう呼べって言ってるし。」
熱心な信徒であるアリア王女は何か言いたげであったが、何も言って来ないのですスルーする事にする。
「まぁ、いいわ。それで、どこに行く気なのかしら?」
「教会に決まってるだろ。早く行かないと怒りで天罰でも落としてくるんじゃないか?」
「え~と、そんなに気性の荒い方なのかしら?」
若干おびえた声が返ってくる。まぁ、天罰まではないだろうが、加護が消されるくらいはあるかもしれない。こればかりは会ってみないとわからないな。
「・・・なにかはやりそうなんだよな。雫はなだめるのとか得意だし代わってくれるか?」
「無理よ。早く行きなさい。」
「ですよねー。」
雫は間髪入れずに否定する。さらにはシッシッといった風に手を払って俺を追い出す。心変わりのひどいヤツだ。
雫以外も見回すが、誰も一緒に行こうとしてくれないし目も合わせてくれない。俺の人望の所為なのか、ディアがこわいからなのか、はたまた両方なのか。そんな現実にガックリと肩を落としながら全員に見守られて部屋から退場する。
そして、最悪の予感を払拭しきれないまま。死地へ向かう戦士の様に恐怖の地へと赴いていく。
アルカディアの運命は彼に託された(笑)




