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裏方の勇者  作者: ゆき
水の都騒乱編
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ウワサ

杏華の手にライフルが来てからすぐ、アトランティスからSOSの報告が届く。

海に面するアトランティス首都の一部が魔物に攻撃されて勇者の力を貸してほしいという救援要請だ。

その要請に応えるべく、準備を急ピッチで進めていた。



しかしそんなある日、教会も王宮も巻き込んだ神託という名の爆弾が投下される。

ただでさえ忙しい時に、さらに騒がれる事象が起きてしまって上へ下へ、右へ左への大騒ぎとなる。

マリエルによって伝えられた神託は、『聖騎士をアトランティスに向かわせる』という内容であった。

勇者達もアトランティスに向かう準備は出来ていたので、アトランティス行きは問題ない。

勇者を向かわせるならば、このまま準備を急げば良いだけなのだが、残念ながら神託は『勇者』ではなく『聖騎士』である。

教会も王宮も、未だ見たことのない聖騎士を探さなければならなくなってしまった。



王宮内で箝口令を強いての捜索を始めたが、人の口に戸は立てられず、王宮に出入りしている貴族達の間で聖騎士のウワサが囁かれ始める。

気がついた王族がウワサを消そうと動くも、既に遅く背びれ尾ひれがついており、終息させるのはほぼ不可能な状態になっていた。



アトランティスに送る救援物資や貸出金の会議が終わり陛下が退場した後、仲の良い貴族達で例の話を始める。


「教会で見つかっていないという事は、教会騎士ではない。すでに当たっているでしょうからな。となれば、現状で女神様に一番近い御方は一人しかおりますまい。」

「確かに!」

「勇者様ですな!」


おぉ~っと場が盛り上がる。


「しかし、国は何故正式発表をされないのですかね?」

「勇者様もアトランティスの一件でお忙しい身。正式発表とあっては式典をしなければなりませんからな。」

「確かにそうですね。アトランティスの一件が片付くまで、パーティーはお預けですか。」

「なに、大々的にやらねば良いだけの事。世界にたった一人の聖騎士が誕生したのだ。祝わねば失礼というもの。今は粛々と祝い、正式発表された暁には盛大にやればよかろう。」

「そうですね。」

「私も一枚噛ませて貰いますよ。」


貴族でさえこのような状態であった。

勘違いした善意をさとしても効かず、咎めることも出来ない。

話をすればするほど周りに広がり、ウワサの拡散に拍車をかけ、逆効果になってしまう。

自然にほとぼりが冷めるのを待つ他なかった。



貴族はまだわきまえており、水面下でしか話題を挙げなかったが、一般市民はそうもいかなかった。

アトランティスの話はまだ届いていないが、それでもムスペリオスの魔王騒ぎや各地で起きる魔物の大量発生。

そんな不安な日々を過ごす人々に聖騎士のウワサはまさに救いだった。

ウワサがウワサを呼び、話がどんどんと膨れ上がる。

瞬く間に、過飾どころかありもしない架空の作り話が出始め、何が真実かもわからないままに聖騎士の話で持ちきりになってしまう。

町は既に半分お祭り状態。誰もが聖騎士の正式発表を、いまかいまかと待ち望んでいた。



そんな王都全体が浮つくなか、1人絶望に固まる人物がいた。


「レイラさん。それはマジですか?」

「はい。どうやら聖女様に神託がおろされたそうで、聖騎士様が誕生したと。」


そう、何を隠そう俺、誰にも知られていないはずの聖騎士様本人である。

討伐依頼から帰ってくるなり、町の浮ついた空気に違和感を覚え、レイラさんに何かあったのかと尋ねたらこうなった。


「その、聖騎士とやらが誰とは言ってなかったのか?」


もしかしたら名前が出てしまっているかと思い、恐る恐る聞いてみる。


「そこがわからないのです。女神様に一番近い存在として勇者コウキ様の名が挙がっており、王都全体がそうだと認識していますが、神託では明確に誰とは言われていないようです。一応ギルドには王宮側から正確な情報を教えて頂きました。市民の皆様は脚色された話で盛り上がっていますが。」

「・・・最悪だ。」


稀に見る最悪の事態である。神託を下したのは他でもないディアだろう。そして、恐らく気を使って俺の名前を伏せた。

それが、ここまでの状況になるとは思いもしなかったのだろう。


「大丈夫ですか?」


レイラさんは、テンションがガタ落ちし今後の展開への憂鬱さで若干顔色が悪くなった俺を心配して声をかけてくれる。


「大丈夫。大丈夫じゃないけど大丈夫だ。」

「そ、それならいいのですが。」

「・・・ちょっと王宮に顔出してきます。」

「わかりました。」


まずは、王宮がどんな状態になっているのかを見て来なければいけない。王宮の現状の動きと今後の対策を共有しなければ、ディアに言い訳すらできない。

最悪の場合アルカディア王国に対する加護の消滅とかありそうだし。

・・・俺がディアならやるな。


そんな事を思いながら出口へ向かおうとしたが、なんとなく気になった事を聞いてみる事にする。


「・・・ちなみに、その一般市民の作り話ってどんなヤツ?」

「色々あるのですが、先ほどから言っている『勇者様が聖騎士様』に始まり、『勇者様と女神様の密会』、『勇者様と女神様の恋模様』と言った具合でしょうか。私が聞いた中では恋愛模様が多くありました。」

「・・・」


一般人の想像力の豊かさに脱帽である。密会までは大体あってるし・・・

皆からすると勇者イコール光輝だけど、一応俺も勇者だから文字通りなら間違ってはいない。認識は確実に間違ってるけど。

というか恋愛って何だよ。マジで。


「ハヤト様、本当に大丈夫ですか?」

「・・・頭痛までしてきた。女神様関連で勝手に盛り上がって不敬罪みたいなのにはならないのか?」


さすがに国が信仰している女神様が娯楽の対象にされては、国も教会も黙ってはいないだろう。

俺としては国が黙ってたら結構やばいんですけど。


「実際に教会は良い顔をしていないそうです。行き過ぎるようでしたら、逮捕者が出るかもしれません。」

「だよな・・・ありがとう。今度こそ王宮に行ってくるよ・・・」


ガックリと肩を落としつつ、フラフラと歩いて今度こそ出口へ向かう。


「あ、あの、お気を付けて。」

「あぁ。」


そんな俺に、レイラさんがエールをくれる。少しはやる気が出てきたが、それでもまだ足取りは重い。

怒りに行って怒られて帰って来るんだろうなと思いつつ、一歩一歩思い足を引きずっていく。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] おや?この神託は「女神が聖騎士を向かわせる」であって、「女神が聖騎士を向かわせろ」と言ってる訳では有りませんよね? と、するとハヤトがさっさと向かって解決してしまえば、神託の通りとなっ…
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