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裏方の勇者  作者: ゆき
水の都騒乱編
113/186

試験

よく晴れた日だった。

俺の元に吉報が届く。カサリからライフルの試作品が出来たとの連絡だ。

これで、数日間に及んだ杏華との訓練も終わる。

嫌な訳ではないが、金が稼げないのはかなり痛い。

借金返済を滞らせて惰眠をむさぼるわけにはいかない。早々に型をつけたい問題である。

杏華に連絡したらすぐに飛んできた。

専用武器の完成を待ちわびていたのもあると思うが、きっと他のことに手が付かなかったのだろう。

表情は固く、不安そうな様子だ。


「杏華、絶対大丈夫だ。」

「そ、そうですわね。」

「緊張してたら出来るものも出来なくなるぞ。ほら、ルーを貸してやろう。」

「ガ?」


俺は杏華の背中を軽く叩いて、頭の上に乗るループスを杏華に渡す。

杏華は素直にループスを受け取り、ギュッと抱きしめる。


「クゥン」


ループスは杏華を元気付けるように頬をペロペロと舐める。


「ルーさん、くすぐったいですわ。」


ループスの思いが伝わったのか、杏華の表情が柔らかくなり、笑みがこぼれる。


「行けそうか?」

「モチロンですわ。皆さんの度肝を抜いて差し上げますわ!」

「頼むよ。」



カサリとも合流し、町の外に向かう。

厳重なケースに入れられたライフルが目を引く。

ひとまず草原を半ばまで進み、森が見え始めたところで止まる。


「ここらでいいか。」


周りに人のいない場所でカサリが止まり、ケースからライフルを取り出す。

全体はシルバーの金属でできており、グリップやストック・ハンドガードなどの人の触れる部分には質の良さそうな木が使われている。

本物のライフルと違うところは所々に魔石が埋め込まれているというところだろうか。

用途は不明だが、各部に埋め込まれた魔石で魔術を起動するマジックアイテムになているのだろう。


「これが、わたくしのライフルですか。良いですわね。」


杏華はカサリからライフルを受け取り、各部をまじまじと見つめて確認した後、耐えきれなかったのか口角が少し上がる。

相当テンションが上がって、撃ちたくてうずうずしているように見える。


「おいおい、まだお嬢ちゃんのじゃねーよ。」

「すぐにそうなりますわ。」

「威勢のいいことで。」

「試射してもよろしいですか?」

「あぁ、構わん。マガジンを填めて魔力を込めた後引き金を引け。」

「わかりましたわ。」


杏華はファイヤーバレットのマガジンをセットし、軽くスコープを覗いて誰もいない場所に何発か発砲する。

今までの様に不発で終わる事は無く、引き金を引くたびに銃口からファイヤーバレットが一直線に飛び出す。


「良いですわね。」

「撃つなら俺にだってできる。試し撃ちはしたからな。見たいのはその先だ。」

「そのための外ですわね。行きますわよ。」


杏華を先頭に俺達は歩き出す。

心なしか杏華の足取りが軽い気がする。不発が無かっただけで相当舞い上がっているのだろうか。

何か可笑しなミスをしない事を祈るばかりだ。


「杏華、大丈夫そうか?」

「モチロンですわ。隼人さんがここまでやってくれたのですから、失敗するわけにはいきませんわ。」

「凄い頬がゆるんでるから、油断するなよ。」

「へ?・・・お、お恥ずかしいところをお見せしましたわ。」


俺の発言で、杏華は顔に手を当てて自分がにやけていた事を自覚し、手で顔を隠しながらもだえる。耳が若干赤いので、結構恥ずかしかったのだろう。

歩き始めて数分、森まで1Km程の所で止まり、双眼鏡の様なマジックアイテムで的となる魔物を探す。


「おいおい、こんな遠くからでいいのか?」

「試射した感じでは、問題ありませんわ。」


魔術の射程は長距離のモノでもせいぜい4・500m程度でそれより遠くても当たるは当たるが威力なんて無いに等しい。纏いを使った弓でもその辺りが限度だろう。

杏華がいる位置はその倍で、ほぼすべての飛び道具の射程圏外である。そんな位置から狙われたら、反撃なんてできずに終わるだろう。


「見つけましたわ。」


見つけたのは2体のゴブリン。勿論こちらには気づいておらず、森の木から顔をのぞかせて草原の獲物を探している様だ。


「・・・あれか。」

「こんな所からじゃさすがに当たらんだろ。」

「まぁ、杏華がそう言ってんだ。とりあえず見とけ。」


杏華は、俺とカサリの会話を完全にシャットアウトして自分の世界に入り込み、スコープをのぞき込んで呼吸を整える。


「いきますわよ。」


杏華が魔力を込めて引き金を引いた瞬間、銃口からファイヤーバレットが発射され、一直線にゴブリンへと飛んでいく。

ファイヤーバレットは勢いを落とすことなくゴブリンの眉間を貫通し、一撃で絶命させた。


「マジかよ・・・」


カサリは開いた口が塞がらない様子で驚きの声を漏らす。

残ったゴブリンはというと、相方がなぜ倒れたのかもわからず、あたりをキョロキョロと見渡して現状の把握に努めている。

そんな努力もむなしいままに、杏華の2射目によって頭を打ち抜かれてしまった。


「おいおい・・・」


カサリは脳の処理が追いついていないのか、茫然として立ち尽くしている。



実際にこの長距離の射程を可能にしたのはただの偶然である。

カサリはもちろんの事、隼人もライフルという物に詳しくなく、スナイパーライフルの様にものすごく射程が長いモノだと思っていた。その為にスコープのマジックアイテムまで作って装着したわけだ。

カサリもそういう物だと思い込んでライフルを製作し、勘違いしたまま完成させてしまった。

杏華も出来上がった品と期待に応ねばという思いと、持ち前の集中力でゴブリンを撃ち抜いてしまう。

そんな偶然が重なり、非常識な射程をほこる武器が誕生してしまった。


「その様子を見ると、試験は合格ですわね。」


杏華はじしんたっぷりにカサリへと問いかける。


「あぁ。スゲェもんを見せてもらった。」

「では、これはわたくしの物ですわ。」

「まぁ待て。そいつは持って行っていいが、試作品で強度がそんなに高くない。要望があれば調整して完成品に反映してやる。」

「わかりましたわ----」


それから、カサリと杏華は調整の話をしてライフルの一件は一旦区切りとなる。

杏華はルンルン気分で試作品を持ち帰り、完成品を待つばかりとなった。

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